京都大学(京大)は8月25日、アルマ望遠鏡による電波観測実験により、細長く伸びる構造に沿ったガス流の「ストリーマ」が、誕生間もない大質量星の成長を助ける様子を捉えたと発表した。
同成果は、京大 基礎物理学研究所のフェルナンド・オルギン特任助教(国立天文台 特任助教兼任)、同 大屋瑶子講師、東京大学大学院 理学系研究科 天文学専攻のパトリシオ・サンウェサ准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国科学振興協会が刊行する学術誌「Science」の姉妹誌「Science Advances」に掲載された。
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大質量星形成領域「G336.018-00.82」の星間塵が放射する電波の強度分布(星印は原始星の位置を示す)。赤と青の矢印は、ガスが回転しながら落下するストリーマだ。特に、青の矢印で示されたストリーマは、分子雲コアから原始星近傍の高密度領域まで、物質を輸送する役割を担っていることが判明した。(c) Fernando Olguin(出所:京大プレスリリースPDF)
「フィードバック効果」の解明に新たな手掛かり
太陽質量の8倍以上の大質量星は重元素を生成する場であり、太陽系を含めた宇宙における物質的な起源とも関連が深い。大質量星は、太陽程度の小型星に比べ急速に成長するが、その過程では、恒星の表面から放出される物質の流れである「恒星風」や、光子の衝突によって生じる圧力である「輻射圧」などが発生し、星に降着するガスが吹き飛ばされると考えられていた。
この現象は「フィードバック」と呼ばれ、星の材料となるガスが星に到達するのを妨げ、大質量星の成長を抑制してしまう。そのため、標準的な星形成シナリオでは、実際に観測されるような大質量星を形成を説明できず、フィードバック効果をいかに克服して大質量星が形成されるのかを解明することが、星形成研究における重要な課題だった。
フィードバック問題を解消する有力な機構の1つに、降着円盤を介したガスの流入が挙げられる。近年、観測技術の進歩により高感度かつ高解像度での観測が可能になり、誕生間もない大質量星(大質量原始星)の周囲に円盤状のガス構造やストリーマが検出されるようになった。こうした背景から、これらの構造が大質量星形成シナリオにおいて果たす役割に注目が集まっている。
大質量星の形成現場は、一般に太陽系から遠方にあるため、詳細な構造の解明には高い解像度での観測が不可欠だ。そこで研究チームは今回、太陽系から約1万光年離れた大質量形成領域「G336.018-0.82」の大質量原始星に対し、アルマ望遠鏡による高感度・高解像度の電波観測を実施したという。
今回の観測は、研究チームによる以前の観測と比べて2.5倍の高い解像度で実施され、天体を取り巻く星間塵と分子ガスから放射される波長1.3mmの電波が捉えられた。その結果、2本のストリーマが検出されたとする。研究チームは以前の観測で、この天体を取り巻く回転しながら落下する円盤状ガス構造の存在を指摘していた。そのため、今回のストリーマは、その円盤の外側から外縁部までをつないでいるものと推測されていた。
しかし今回の観測では、これまで考えられていた大きさの円盤構造は同定されず、円盤が存在するとされていた領域の内側までストリーマが伸びている様子が捉えられた。特にそのうちの1本は、1000天文単位(約1500億km)を超える空間スケールから、原始星近傍の高密度領域まで直接繋がっていることが確認された。
さらに、メタノール分子の回転スペクトル線を詳細に解析した結果、両ストリーマ上でガスが原始星の周囲を回転する運動と、原始星へ落下する運動を併せ持つことが判明した。ストリーマに沿った高密度領域へのガスの流入率は十分に大きく、中心星からのフィードバック効果を克服して成長途上の星へのガスの供給を継続させることが可能であることが、初めて観測的に示されたのである。このことから、検出されたストリーマは、この大質量原始星の形成過程と深く関連する重要な構造であると推測された。
大質量星の形成過程では、若い原始星に効率よく物質を供給する役割を、比較的大きなサイズと質量を持つ降着円盤が担うとする説が有力視されてきた。しかし今回の研究により、大規模スケールから星形成の中心領域まで、ストリーマが大量の物質を直接運んでいることが明らかにされた。これは、大質量星が成長するための物質供給において、少なくとも形成過程のある時期において、必ずしも大きな円盤構造を必要としないことを示唆している。今回の成果は、長年議論されてきた大質量星形成に伴うフィードバック問題の解決に、新たな手がかりを与えるものとした。
研究チームは今後、今回の研究を拡大し、他の大質量原始星の形成領域を観測することで、ストリーマによる効率的なガス供給が一般的な現象であるかどうかを調べる予定とする。また、アルマ望遠鏡を用いたさらなる高解像度観測を提案し、原始星近傍の100天文単位(約150億km)以下の構造を捉えるとした。そこでのガスのイオン化と小さな円盤構造の有無を解明することで、大質量原始星が成長する機構の解明にさらに踏み込むとしている。