千葉大学は8月21日、同大学 環境リモートセンシング研究センター(CEReS)が展開する国際リモートセンシング観測網「A-SKY」で用いられる多軸差分吸収分光法(A-SKY/MAX-DOAS法)を活用し、線状降水帯などの集中豪雨の引き金となる大気下層の水蒸気濃度の水平方向の不均一性(場所ごとの違い)が、大気が不安定な時に顕著になる傾向を、6年間の長期連続観測により明らかにしたと発表した。
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関東地方における大気下層水蒸気の観測イメージ。(右上)つくばのA-SKY/MAX-DOASとラジオゾンデによる観測による水蒸気濃度の精度検証の様子。(中央)千葉大の4AZ-MAXDOASシステム。これらを組み合わせて下層水蒸気の水平不均一性を観測。(グラフ)停滞前線南側から暖かく湿った空気が流入していた事例で、千葉の4方向で水蒸気濃度のばらつきが顕著に観測された様子が表されている(出所:千葉大Webサイト)
同成果は、千葉大大学院 融合理工学府の溝渕隼也大学院生、CEReSの入江仁士教授らの研究チームによるもの。詳細は、日本地球惑星科学連合が刊行する宇宙と惑星科学を扱う英文学術誌「Progress in Earth and Planetary Science」に掲載された。
6年間の連続観察により高精度観察を実現
大気中の水蒸気は、対流活動や降水現象を引き起こす重要な要素であり、数値シミュレーションによる気象予報モデルの再現性を左右する。特に線状降水帯のような集中豪雨では、地上から約1km以下の大気層に、暖かく湿った空気が継続的に流入することがわかっていて、この層の水蒸気の正確な観測が予測精度向上の鍵を握る。
しかし、これまで研究に用いられてきたラジオゾンデやGPS、マイクロ波放射計といった観測手法には、観測点の数が限られている、あるいは鉛直方向の細かい変化を捉えにくいといった制約があった。中でも、大気下層における水蒸気の水平方向の不均一性を、継続的かつ高精度に把握することは困難だった。
そこで研究チームは今回、入江教授らの研究チームが展開している国際リモートセンシング観測網「A-SKY」の枠組みの下で観測されている、つくばと千葉のA-SKY/MAX-DOASを活用し、大気下層の水蒸気観測精度の検証と、水蒸気濃度の水平不均一性の観測能力の評価を行ったという。
A-SKY/MAX-DOASは、太陽光を利用し、大気中の水蒸気や二酸化窒素などの微量気体の光の吸収スペクトルを解析する地上設置型のリモートセンシング装置、またはその技術だ。今回の研究では、まずつくばにおいて気球に気象観測用のセンサを取り付け、上空の気温・湿度・気圧などを測定する観測手法であるラジオゾンデの観測地との比較が行われた。その結果、A-SKY/MAX-DOASで得られた水蒸気濃度は、ラジオゾンデによる観測地と相関係数0.971(サンプル数1203)と高い相関を示し、今回の手法の信頼性が確認されたとする。
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ラジオゾンデとA-SKY/MAX-DOASによる水蒸気濃度(%v)の相関。実線は回帰直線、破線は1:1の参照線。分析は、つくばで6年間にわたって取得された午前9時前後の連続観測データに基づく(出所:千葉大プレスリリースPDF)
さらに、千葉市に設置された「4方位観測システム」(4AZ-MAXDOAS)により、水蒸気濃度の水平方向における不均一性の観測が行われた。千葉大の屋上に設置された同システムは、MAX-DOASの視線を東西南北の4方向に向けて観測を行う。これまでは広範囲の大気状態をより正確に把握するのに用いられてきたが、今回の研究では各方向の水蒸気濃度を比較することで、水平方向の不均一性を捉えることに活用され、その目的が達成されたとした。
まず、高度0~1kmの4方向のデータが解析された結果、大気が安定している時は各方位間の相関係数が0.95を超えていたが、不安定な大気状態では0.95を下回ることが確認された。さらに、一部では0.90を下回ることもあり、大気不安定時に水蒸気の不均一性が顕著になる傾向が確認されたとしている。
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千葉サイトのA-SKY/MAX-DOAS観測による水蒸気濃度の方位間相関係数(R)と、大気不安定度指標であるL指数(LI)との関係。4方位のうち、西と南の2方向における観測データの相関係数が、代表的な結果として示されている(出所:千葉大プレスリリースPDF)
この傾向をさらに詳しく検証するため、水蒸気の水平不均一性が特に顕著で大気が不安定だった15事例を抽出し、分析が行われた。その結果、10事例で千葉の北側に停滞前線が存在する状況下で発生していたことが判明した。気象庁の高解像度(数km単位)の数値予報モデル(局地解析)によれば、これらの期間には前線に向かって暖かく湿った空気が流入しており、この水蒸気の輸送が不均一性と大気の不安定化に寄与していたと考えられるとした。
A-SKY/MAX-DOASによって捉えられたこれらの不均一性は、局地解析では誤差範囲内に収まっていたものの、適切に検出されていなかったとのこと。これは、局地解析では見落とされがちな大気下層の水蒸気濃度の水平不均一性を把握する上で、A-SKY/MAX-DOASが果たす役割が重要であることを示唆するという。
今回の研究により、A-SKY/MAX-DOASが豪雨予測に重要な下層大気における水蒸気の水平不均一性を把握する新たな手法として、数値予報モデルの精度向上に寄与する可能性が示された。研究チームは今後、観測地点の拡充やマイクロ波放射計などとの比較を通じ、より広域かつ高精度な水蒸気構造の把握を目指すとともに、A-SKY/MAX-DOASの活用を継続し、豪雨災害の早期警戒や予測精度の向上に貢献していくとしている。