量子科学技術研究開発機構(QST)は8月21日、2034年のプラズマ実験開始を目指し、国際共同により南フランスで建設中のフュージョン(核融合)実験炉「ITER」において、プラズマ加熱に用いる高出力マイクロ波源「ジャイロトロン」の初号機の据え付けを、計画通り完了したと発表した。
ITERに初めて設置されたプラズマ加熱装置
フュージョン発電では、燃料となる水素の同位体ガスを1億℃以上に加熱してプラズマ状態を長時間維持する必要があり、この高度な加熱技術の確立が実現の鍵となる。ITERではプラズマ加熱の主要な手法として、電子レンジにも使われる電波の一種であるマイクロ波を用いる。高出力のマイクロ波を炉内の燃料に入射することで、プラズマ点火や、効率よくフュージョン反応が起こる温度への加熱、さらにはプラズマ中で発生した乱れの抑制のためなどに利用される。
電子レンジでは500Wや600Wといった出力のマイクロ波源が用いられているが、ITERのマイクロ波源は、その約2000倍の100万W(1MW)という高出力と、連続出力を可能とする性能が不可欠だ。その高出力マイクロ波を発生させる装置が、ジャイロトロンである。
ジャイロトロンは、磁力線に巻き付いた電子の回転運動をエネルギー源として、高出力のマイクロ波を発生させるための大型電子管(真空管)である。マイクロ波の発生は、まず電子ビームを発生させる「電子銃」から電子を引き出し、超伝導マグネットの磁力線に沿って回転させながら、7万5000Vの高電圧で加速させることで始まる。そして、中空の導体壁に囲まれた空間を利用したマイクロ波発生回路である「空洞共振器」で、電子の運動エネルギーの一部をマイクロ波に変換する。その後、「モード変換器」によってマイクロ波の形状を整え、出力窓より出力する仕組みだ。
ジャイロトロンは性能はもちろんのこと、極めて正確な据え付け(設置)も求められる。その性能を確実に引き出すためには、磁力線が正確にジャイロトロンの中心部を通るようにし、電子ビームを空胴共振器の所定の位置に入射させることが重要だ。ジャイロトロンはまず超電導マグネットと組み合わされ、その上で架台に据え付けられるが、特に超伝導マグネットとジャイロトロンの位置合わせが重要となる。超電導マグネットを架台の中心に0.1mmの精度で正確に設置する必要があるのだ。
しかし問題は、超伝導マグネットのマグネットケースの機械的な中心と、内部にある超伝導コイルに電流を流し、磁場を発生させた際の磁場の中心(磁気軸)が、製作精度の範囲内でずれている点だ。そのため、超伝導マグネットの磁気軸とジャイロトロン架台の中心軸を、磁場を測定しながら0.1mmの精度で合わせる必要がある。
こうした高精度が求められるため、今回の据え付け作業では、まず超伝導マグネットを架台に設置し、通電して磁場を発生させた。QSTが磁場を測定し、超伝導マグネットとジャイロトロン架台の位置合わせを行うことで、据え付けの準備が整えられた。その後、ジャイロトロンをクレーンにて所定の位置に移動させ、クレーンに取り付けたチェーンブロックを用いて、慎重に架台へ据え付けられた。
ジャイロトロンは、QSTが1993年に研究開発を開始し、2008年に世界で初めて、ITERが要求する出力、電力効率、マイクロ波出力時間をすべて満たすことに成功した。この成果により、ITERで使用する全24機のジャイロトロンのうち、日本が8機を調達することになった。日本が調達した8基のジャイロトロンのうち、今回据え付けられた初号機は、2017年に世界に先駆けて性能確認試験を完了させ、2022年にITER機構への輸送を終えている。残る2号機から8号機までも、2024年末までに輸送が完了し、納入を終えた。なお、ジャイロトロンの製作は、キヤノン電子管デバイスが担当した。
今後、2号機以降の据え付け作業と並行し、今回据え付けが完了した初号機の試験が2025年秋ごろから開始される予定。ITER機構へ渡す前にQSTでも出力1MW・最長300秒までの性能確認試験が実施されたが、ITERサイトで同様の試験を実施する計画としている。





