宇宙ビジネスに関する製品/技術/サービスが集まる展示会「SPEXA」が7月30日から8月1日まで、東京ビッグサイトにて開催された。SPEXAは2024年4月に初めて開催された新しい展示会で、今回が2回目。前回より規模が大きくなっており、さまざまな展示があったのだが、本記事では、筆者が注目した内容をピックアップしてレポートしたい。

  • 2回目の「SPEXA」が開催。会期は8月1日までの3日間だった

  • 会場マップ。今回は東京ビッグサイトの南棟4階が会場だった

低コストな固体燃料を開発する、ロケットリンクテクノロジー

「LTP」(低融点熱可塑性推進薬)という新しい固体燃料を使うロケットを開発しているのがロケットリンクテクノロジー。LTPについて、詳しくは前回の記事を参照して欲しいが、そのメリットは大幅な低コスト化が可能になること。宇宙航空研究開発機構(JAXA)でイプシロンロケットの開発を主導した森田泰弘氏が手がけていることも注目点だ。

  • ロケットリンクテクノロジーは、LTPによる軌道投入ロケットの開発もめざしている

同社は2024年3月に、3機目の実験機「LTP-135s」を北海道スペースポート(HOSPO)にて打ち上げ、高度5kmの飛行に成功していた。前述の記事では、次は「LTP-210」で宇宙空間への到達をめざすとなっていたが、計画を変更。現在はより大きな「LTP-310」を開発し、2026年度に打ち上げる予定とのこと(型番の数字は機体の直径を表す)。

森田氏によると、LTP-310はJAXAの観測ロケット「S-310」の設計をベースに開発するという。LTPは、性能に直結する主要な材料は従来の固体燃料と変わらないため、性能は同等のまま、大幅なコストダウンが可能。S-310は価格も高く、数年に一度程度しか打ち上げが行われていないが、低コスト化によって高頻度化が期待できる。

  • LTPの応用先。観測ロケットのほか、固体ブースタへの適用も

射場については、JAXAの内之浦宇宙空間観測所や、HOSPOなどを候補として考えているとのこと。ただ、内之浦はまだ民間に開放されておらず、現時点で来年度の打ち上げに使うとしたら、HOSPOが最も現実的だろう。

三菱電機、小型衛星を複数軌道に運ぶ輸送機のコンセプトを紹介

三菱電機は、OTV(軌道間輸送機)のコンセプトを初公開していた。OTVとは、ロケットから分離後、複数の軌道に行ける輸送機のことだ。アイデアとしては古くからあったものの、近年は特に小型衛星が急増し、ライドシェアの打ち上げも活発になってきたことなどにより、再び注目されてきている。

  • OTV(軌道間輸送機)のコンセプトCG
    (C)三菱電機

OTVがあれば、ロケットで投入される軌道と行きたい軌道が違う場合でも、衛星自身の推進系を使って行く必要がなくなり、ミッションに専念できる。将来的には、軌道上で燃料を補給して長期間運用したり、宇宙ステーションや月周回軌道まで運んだりと、さまざまな高度化の方向が考えられる。

同社には、新型宇宙ステーション補給機「HTV-X」、小型月着陸実証機「SLIM」、火星衛星探査計画「MMX」などの開発で培ってきた技術があり、それらはOTVに活用できる。しかし、従来はJAXAからの要求仕様という明確なゴールがあったものの、OTVはまだどんなものが求められるかすら、よく分からない状況だ。

今回、まだコンセプトでしかない段階でCGを出したのは、これを叩き台として、まずはさまざまな人から意見を聞きたかったからだという。このCGでは、小型衛星を分離したり、搭載したロボットアームでなにか作業することが想定されているが、宇宙業界以外からも含め斬新なアイデアが集まることを期待したい。

  • OTVの上面にはロボットアームも見える
    (C)三菱電機

2機のYAOKIを月面へ! 再起図るダイモン

ダイモンは、月面ローバー「YAOKI」のフライトモデルを展示していた。YAOKIは、米Intuitive Machinesの月面ランダー「Nova-C」に初搭載。同ランダーはこの3月、月面への2回目の着陸に成功したものの、接地時にまたもや横転してしまい、YAOKIの分離を断念していた。展示されていたのは、月面にある機体と同型のモデルである。

  • 展示されていた「YAOKI」。手のひらサイズの月面ローバーだ

ランダーが発電できない異常な状態だったため、YAOKIの運用もわずかな時間しか許されなかったものの、機体は正常に動作しており、カメラでクレーター内の様子を撮影することに成功。ランダー側の問題により、ローバーの目的である月面走行にはチャレンジすらできなかったとはいえ、これは大きな成果だったと言えるだろう。

  • 月面で撮影した写真(上)と、それを画像処理したもの(下)

次のフライトは、2026年度に予定。今度はIntuitive Machinesとは別の企業のランダーになるそうだが、2機のYAOKIを搭載する計画だ。1機は今回と同様の2輪型で、ワイヤレス充電の機能を追加することも検討中だという。もう1機は4輪型で、小型軽量という特徴を活かしたまま、走破性能を強化している。

  • YAOKIは継続した月面探査を計画。搭載する機数も増やしていく

  • 2回目のフライトは、2輪型+4輪型という編成。初の月面走行に挑む

出光興産、軌道上実証に進む「CIGS太陽電池」を紹介

出光興産というと、宇宙とどういうつながりがあるのか分からない人が多いかもしれない。同社が出展していたのは、人工衛星などで使える宇宙用の太陽電池だ。これはCIGS太陽電池と呼ばれるもので、その名前は、主な材料であるCu(銅)、In(インジウム)、Ga(ガリウム)、Se(セレン)に由来する。

このCIGS太陽電池の大きな特徴は、高い放射線耐性を持つことだ。展示されていたグラフによれば、静止軌道で15年使用した場合でも、出力にはほぼ劣化が見られないという。通常、人工衛星は軌道上で劣化する分を考慮して、少し大きめの太陽電池を搭載する必要があるが、CIGS太陽電池はそれが不要だ。

  • 赤い折れ線がCIGS太陽電池。従来に比べ、劣化がかなり少ない

また、シリコンではなくガラス基板上に薄膜を形成するため、サイズの制約が少なく、従来のセルより大判化が容易。同社は最大で30cm角まで対応しているそうで、これにより、必要なセルの枚数が大幅に減ることになり、貼り付け作業の負担を減らすことができるようになる。

  • CIGS太陽電池であれば、こんな巨大なセル(30cm角)を実現できる

さらに、放射線耐性が高いことにより、放射線対策のために使われていたカバーガラスが不要になっており、軽量に作れるというメリットもある。従来の太陽電池に比べ、変換効率が17%と、まだ少し低いという欠点はあるものの、重量当たりの出力では、CIGS太陽電池の方が上回るという。

このCIGS太陽電池は、2026年より量産開始予定。まず、今秋に打ち上げられる予定の千葉工業大学のキューブサット「BOTAN」に搭載され、軌道上実証を行う。そのほか、HTV-Xのミッション「次世代宇宙用太陽電池軌道上実証」(SDX)にも搭載される予定だ。

  • BOTANには複数種類の太陽電池セルを搭載。上はチタン基板、左はガラス基板のCIGSで、右は比較用の従来型