東京科学大学は、水と非晶質四ホウ酸リチウム「a-Li2B4O7」によるスライム化反応界面に、リチウム塩「Li(FSO2)2N」(LiFSI)を介在させることで、内部にリチウムイオン伝導経路が3次元的に広がる準固体電解質「3D-SLISE」の合成に成功したと8月5日に発表した。

  • 3D-SLISE電池技術における材料循環のイメージ。水プロセスで製造と回収が行われる
    (出所:科学大Webサイト)

さらに、作製した3D-SLISEを一般的な正極活物質「LiCoO2」と負極活物質「Li4Ti5O12」の組み合わせで準固体電池とし、その性能を評価したところ、室温・3C(20分で満充電・満放電させる最の電流値)において400回を超える駆動を達成したことも、あわせて発表した。

同成果は、科学大 総合研究院 ゼロカーボンエネルギー研究所の白鳥洋介特任教授、同・安井伸太郎准教授らの研究チームによるもの。詳細は、機能性材料を扱う学術誌「Advanced Materials」に掲載された。

現在の市販リチウムイオン電池(LIB)の多くは、電解質に可燃性の有機溶媒を使用しているため、発火の危険性があり、火災事故も発生している。そのため、電解質に有機溶媒を使わない、安全性の高い水系電解質電池や全固体電池などの開発が進んでいる。しかし、これらは技術的・コスト的なさまざまな課題を抱えており、一部の小型全固体電池などを除いて、電気自動車などの用途での大量生産には至っていない。

そうした中、研究チームが進めてきたのが、水系で構成される新しい電解質の開発だ。水系材料のメリットは、可燃性液体を含まないため安全性が高いこと、加えて大気下で扱えるため製造コストを抑制できることである。しかし、水を使うと電池駆動時に水の電気分解が生じ、リチウム基準で2Vを超える電池電圧の設計が難しいことが課題だった。

そこで研究チームは今回、「スライムの科学」に着目し、水の分解を抑制することで、新しい準固体電解質を開発することにした。

今回の研究で作製した「非晶質Li2B4O7-LiFSI-H2O」で構成される水系複合準固体電解質3D-SLISEは、1mS/cmを上回るイオン伝導性を示す。これは、一般的なLIBの液体電解質のイオン伝導性(1〜10mS/cm)には及ばないものの、固体電解質としては優れた値だ。また、非晶質Li2B4O7と水のスライム化反応により、リチウムイオンの高い伝導性と素材界面の優れた密着性を両立する「準固体界面」を形成される。そして、3D-SLISEを用いることで、すべての電池作製プロセスを大気中で行えるようになった。

作製した3D-SLISE電池は、最大10Cの高速駆動が可能で、3C条件下で400回以上駆動することが確認された。ここでいうCレートとは、充電・放電の電流値(時間)のことで、電池の理論容量を1時間で満充電・満放電させる時の電流値を1Cとする。したがって、10Cは6分、3C20分での満充電・満放電を意味する。

さらに、電池評価後の正極を水に再分散することで、コバルトなどの希少元素を含む正極活物質を直接回収できることが確認された。この結果は、不良品や使用済み電池から高価な正極活物質を直接分離回収して再利用する「ダイレクトリサイクル」の可能性を示す。ダイレクトリサイクルとは、活物質を金属元素に戻さずに構造体のままリサイクルする手法だ。

  • 3D-SLISEの模式図。(左)1μm角レベル。(右)界面の分子構造
    (出所:科学大Webサイト)

  • 3D-SLISE電池の模式図。寿命改善の課題と、正極活物質のダイレクトリサイクルが示されている
    (出所:科学大Webサイト)

今回作成された3D-SLISEを用いた電池は、現状で約2.35Vでの動作を実現している。今後、リン酸鉄リチウム「LiFePO4」を正極として用いた有機電解液LIB「LFP電池」(動作電圧約3.3V)の電圧に近づければ、エネルギー密度やコスト面から既存電池の代替となる可能性が見えてくるという。

さらに、3D-SLISEは高い安全性と優れたリサイクル性を備えるため、製造現場の作業者に対する健康リスクを低減し、製造プロセスの簡素化によるコスト削減も見込める。これらの特性から、3D-SLISEは「安全・持続可能な電池循環社会」の中核技術としての普及し、定置用電源としての利用が広がることが期待されるとした。特に、電力需要の急増が続くデータセンター向け蓄電池用途などにおいて、3D-SLISE電池が有力な選択肢となる可能性があるとする。

正極と負極の活物質を無駄なく活用できる理想的条件で電池駆動中の3D-SLISEの分解がほぼ起こらなくなれば、1万回を超える駆動も可能となり、実用化が現実味を帯びてくる。水系電池の最大の課題である「負極界面における水分子の分解抑制」が、今後の技術展開において大きな鍵を握るという。

研究チームは現在、その劣化メカニズムの解明に取り組み、対策技術の構築による高寿命・高電圧型水系準固体電池の確立を目指しているとした。また、技術開発と並行して3D-SLISE電池を軸とした持続可能な社会の構築に挑戦していくとしている。