日立製作所と量子科学技術研究開発機構(QST)の両者は、南フランスで建設中の国際核融合実験炉「ITER」(イーター)の最重要機器のひとつであるダイバータの主要部品「外側垂直ターゲット」について、実機大モックアップとなる「プロトタイプ2号機」を2025年3月に完成させ、国際機関ITER機構による高熱負荷試験に合格したと、7月23日に共同発表した。
ITER計画は、日本・欧州・米国・ロシア・韓国・中国・インドの7極・33カ国が協力する一大国際プロジェクトであり、核融合燃焼による実験炉ITERの本格運転を目指す。現在、南仏のサン・ポール・レ・デュランス市で、ITERの建設が進行中だ。日本はQSTが国内機関となり、ダイバータやトロイダル磁場コイルなど、主要機器の開発と製作という重要な役割を受け持つ。
ダイバータは、トカマク型をはじめとする磁場閉じ込め方式の核融合炉における最重要機器のひとつだ。これは、核融合反応の安定的な持続のため、炉心プラズマ中の燃え残った燃料や核融合反応で生成されるヘリウムなどの不純物を排出する重要な役割を担う。プロトタイプ1号機については、三菱重工が2024年7月に開発済みだ。
ダイバータは、トカマク型装置内で約1億度のプラズマを唯一直接受け止める機器であり、プラズマからの熱負荷や粒子負荷にさらされる厳しい環境下で使用される。そのため、融点が3,400度以上とされるタングステンなどの特殊な材料が用いられるが、同金属は難削材であり、その加工には高い技術を要する。
加えて、プラズマ対向面には緻密な形状加工が施されており、全体形状と共に、個々のプラズマ対向材の傾斜、段差、隙間には0.5mm以下の高精度が要求される。そのため、高精度の加工・組み立て技術が不可欠であり、ITERの炉内機器の中で最も製造が困難な部品とされている。
ダイバータの熱負荷は、最大で1平方メートルあたり20メガワットに達する。この値は、かつて運用されていたスペースシャトルが大気圏再突入時に受ける表面熱負荷よりはるかに上回り、小惑星探査機「はやぶさ」が燃え尽きた際の熱負荷に匹敵するレベルだ。QSTは、このようなダイバータを全58基、ITER機構に納入する予定で、そのうち18基は三菱重工が担当。残りの40基の製作メーカーは今後決定される。
ダイバータの重要パーツである外側垂直ターゲットには、最大約16.5tもの強大な電磁力が働くため、強固な機械構造が不可欠だ。将来的な核融合炉の高出力化や小型化、あるいは強磁場化には、さらなる高熱負荷や巨大電磁力に耐えうるダイバータの製作技術の確立が極めて重要となるという。
QSTは、ダイバータが1平方メートルあたり20メガワットもの高い熱負荷に耐えるための鍵となる技術として、材料メーカーを主導し材料開発を進めた。具体的には、熱負荷で割れることのないタングステンモノブロックや、高い熱伝導率を維持しつつ結晶粒の粗大化を抑制して強度を確保した銅合金冷却管の製造方法を確立。さらに、これらの材料を接合する高熱負荷耐久のろう付け技術も開発された。
一方、日立は原子力事業で培った技術と経験を活かし、欠陥のない高品質な特殊材料の溶接技術、および狭隘かつ複雑な形状に対応する非破壊検査技術を開発。これにより、0.5mm以下の高精度な機械加工と組み立てを可能にした。加えて、製作工程と費用の合理化のため、厚肉高強度ステンレス鋼の溶接のため、ダイバータ専用に最適化した自動溶接システムも開発。溶接トーチを取り付けたロボットアームと、溶接する対象物の位置をロボットアームの動きと同期させて制御する装置を組み合わせることで、手作業に比べて高品質かつ低コストな溶接が実現された。
外側垂直ターゲットに必要な特殊材料は、QSTが材料メーカーから調達して日立に支給。日立はそれを用いて、外側垂直ターゲットの加工と組み立てを実施した。また、QSTは日本で唯一となる核融合炉内機器用の高温ヘリウムリーク試験装置を整備・運用し、自ら最終試験を実施することで品質確保に努めているとした。
日立とQSTは、これまでにITER向け中性粒子ビーム入射装置用100万V超高電圧電源設備の開発と製作を進め、現在イタリアで設備試験を実施中だ。フランスに納入する同装置の実機についても、日立の工場で製作が始まっている。
加えて、日本国内ではフュージョンエネルギーの早期実現のため、ITER計画と並行して、日本と欧州が共同建設した世界最大の超伝導トカマク装置「JT-60S」において、中性粒子ビーム入射装置の増強に取り組んでいる。


