東京大学 生産技術研究所(東大 生研)と奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)は、原子層堆積(ALD)法を用いて結晶化した酸化物半導体を形成する技術を開発し、トランジスタの高性能化と高信頼性化を実現したことを発表。さらに同技術を用いて、「ゲートオールアラウンド型酸化物半導体トランジスタ」の開発に成功したことも明らかにした。
同成果は、東大 生研の小林正治准教授、同 平本俊郎教授、更屋拓也助手、東大大学院 工学系研究科のチェン・アンラン大学院生、同 パク・キウン大学院生、同 坂井洸太大学院生、NAIST 先端科学技術研究科 物質創成科学領域の浦岡行治教授、同 髙橋崇典助教、産業技術総合研究所の上沼睦典主任研究員、同 ファン・スンビン研究員らの研究チームによるもの。同成果は、6月8日から12日にかけて京都府にて開催される半導体研究における国際会議「2025 Symposium on VLSI Technology and Circuits」で発表される。
結晶化酸化物半導体の形成を実現した新技術
昨今では、データセンタやIoTエッジデバイスをインフラとし、ビッグデータを利活用した社会サービスが、日々創造されている。その基盤となるコンピューティング技術において中核をなす半導体は現在“大規模集積化”が進められており、3次元集積化によるさらなる高集積化・高機能化が進もうとしている。この3次元集積化は、従来のシリコン基板上に形成される半導体集積回路の配線層にトランジスタを形成することで、高機能回路を3次元積層し高集積化するもの。その実現には、低温で形成できる半導体材料が必要で、またその材料を用いたトランジスタは、高集積化のために微細化しても高性能・高信頼性を有する必要がある。
これまで主にフラットパネルディスプレイに用いられ、低温で形成可能なうえ高性能を有する酸化物半導体は、その特性から半導体集積回路への応用の期待が高まっているとのこと。しかし、同半導体を集積回路のトランジスタとして用いるには、その微細化が可能であることが必須となる。だが従来のアモルファス酸化物半導体では、微細化に必要なゲートオールアラウンド構造の実現が困難だったという。
そこで今回小林教授らの共同研究チームは、ALD法で酸化物半導体「InGaOx」(IGO)のナノ薄膜を製膜し熱処理を行うことで、平坦かつ均一に結晶化したIGOを形成する新技術を開発。これにより結晶化酸化物半導体の形成を実現し、トランジスタの高性能化・高信頼性化が可能になったという。
また研究チームはこの技術を用いて、IGOのナノ薄膜と犠牲層との間に高いエッチング選択比を実現し、ゲートオールアラウンド型酸化物半導体トランジスタのプロセスを開発。その試作・評価を行った結果、オン電流326μA/μm(電源電圧:1.2V)・トランスコンダクタンス689μS/μmを有し、ノーマリーオフ動作する、世界最高レベルの性能を誇るゲートオールアラウンド型酸化物半導体トランジスタが完成した。また研究チームはそのバイアスストレスしきい値電圧シフトも、単一ゲートトランジスタに対して大幅に改善し、高信頼性も実現したとする。
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ゲートオールアラウンド型酸化物半導体のバイアスストレス閾値電圧シフト(黒がInOx、赤がInGaOxをチャネルとしたトランジスタであり、比較のため単一ゲート(BG)のトランジスタのデータも示す)(出所:東大 生研)
今回の成果により、微細化でき大規模集積も可能な酸化物半導体トランジスタの実現可能性が高まった。研究チームは今後、量産可能な製造技術として必要なプロセス技術の開発を行うとともに、特性ばらつきの評価や改善などに取り組むとのこと。また今回の新技術により、半導体のさらなる高集積化や高機能化が可能となり、エネルギー効率の高いコンピューティングを実現することで、ビッグデータを利活用する社会サービスの展開が期待されるとしている。