米Red Hatは5月19日から22日まで、年次イベント「Red Hat Summit 2025」を開催し、例年通り、多くの発表を行った。これを受けて、レッドハットは6月4日、同イベントで行われた発表に関する説明会を開催した。

以下、プロダクトごとにその内容をお伝えしよう。

Red Hat AI

AIに関しては、スペシャルソリューションアーキテクト 石川純平氏が説明を行った。初めに、同氏は経営層が行った基調講演のハイライトを紹介した。

CEOのMatt Hicks氏は「AIと日常業務の断絶をつなぐ“橋”をRed Hatがつくる」と述べたという。

多くの企業で「AIチーム」と「通常業務」が分断されている中、同社は両者をつなぐ技術の開発に注力。「Red Hat Enterprise Linux(RHEL)」「OpenShift」「Ansible」の上で、AIを活用する方法を提供することで、ユーザーを日々のルーティンタスクから解放し、多くのことを成し遂げることができるよう、支援している。

CTOのChris Wright氏は、レッドハットのAIのアプローチとして「Any model, any accelerator, any cloud」を発表。これには、Red Hat AIは、ユーザーがどのようなモデル、AIチップ、環境であっても、選択することを可能にし、エンタープライズAIの基盤となるという意味が込められている。

Red Hat AI Inference Server

Red Hat AIの新製品としては、Red Hat AI Inference Serverが発表された。同製品は、オープンソースのLLM推論エンジン「vLLM」とモデル量子化ツール「LLMCompressor」を提供する。

「LLMCompressor」はモデルサイズを削減しつつ、デグレーションを抑止する。LLMの量子化はこれまで元のモデルのサイズをダウンするとモデルの性能が劣化することから、サイズと性能のトレードオフが課題とされていたが、LLMCompressorはこの課題を解消するものとなる。

ベンチマークテストにより、量子化することでモデルのパフォーマンスが上がっていることも確認されている。なお、Red Hatが量子化して検証済みのLLMはRed HatのHugging Faceリポジトリで公開されている。

  • 「LLMCompressor」のベンチマークテストの結果

  • 「Red Hat AI Inference Server」の特徴

Red Hat OpenShift

Red Hat OpenShiftにおいては、「Red Hat OpenShift Lightspeed」の一般提供開始、「Red Hat Advanced Developer Suite」が発表された。

Red Hat OpenShift Lightspeed

Red Hat OpenShift Lightspeedは、Red Hat OpenShiftに統合された生成AI(genAI)ベースの仮想アシスタント。OpenShiftのWebコンソール内でサポートを提供する。

ユーザーは自然言語を使って、Red Hat OpenShift LightspeedにRed Hat OpenShiftに関する質問が可能。ユーザーは自分の環境から情報をチャットウィンドウに共有できるため、OpenShift Lightspeedは実際の状況を踏まえて質問に回答できる。

Red Hat OpenShift Lightspeedは、OpenAI、Azure OpenAI、WatsonXといった任意のLLMを用いて同祭、Red Hat Enterprise Linux AIとRed Hat OpenShift AIでホストされるプライベートAIオプションを活用することで、制御とカスタマイズ性を高められる。

Red Hat Advanced Developer Suite

Red Hat Advanced Developer Suiteは、ソフトウェアサプライチェーンのベストプラクティスとして、プラットフォームエンジニアリングチームと開発チームが連携してテンプレートを構築するためのツールを提供する。具体的には、以下の製品から構成される。

Red Hat Developer Hub
開発者ポータル構築のための主要なオープンソースフレームワークで、Backstageを基盤とする社内開発者ポータル。AIシナリオ向けに構成済みのソフトウェアテンプレートを提供する。

Red Hat Trusted Profile Analyzer
組織のソフトウェア部品表 (SBOM)、脆弱性悪用可能性交換 (VEX)、共通脆弱性情報 (CVE) を包括的に管理し、開発者や DevSecOps チームに重要なリスク インテリジェンスを提供する。

Red Hat Trusted Artifact Signer
ソフトウェアにデジタル署名を施し、真正性と整合性を自動で保証し、コンテナイメージ、バイナリ、ドキュメントなどのソフトウェア成果物の暗号署名と検証を簡素化する。

  • 「Red Hat Advanced Developer Suite」の構成

Red Hat Enterprise Linux

Linuxプラットフォームの最新版として、「Red Hat Enterprise Linux 10」が発表された。同製品について、シニアソリューションアーキテクト 橋本賢弥氏は「企業におけるAIネイティブアプリケーションのためのファウンデーションとなる次世代を担うリリース」と説明した。以下、主要な機能を紹介する。

Image Mode for Red Hat Enterprise Linux

橋本氏は、大きくフィーチャーされた点として、Image Mode for Red Hat Enterprise Linuxを挙げた。これは、OSをコンテナイメージとして管理し、スマートフォンのようにアップデートやロールバックを可能にする機能。同氏は、Image Modeについて「Linux管理の在り方を大きく変える要素」と述べた。

グローバルでは金融や製造がImage Modeに興味を持っているとのことで、橋本氏は「新しいOSの管理サイクルが注目を集めているのではないか」との見方を示した。

Red Hat Enterprise Linux Lightspeed

OpenShiftと同様、RHELにもLinux Lightspeedが提供される。ユーザーは自然言語で質問を行え、AIがRed Hatのドキュメントやナレッジから、RHELに関する情報を提示する。橋本氏は、注目すべき点として「ターミナルで質問ができる点」を挙げた。

Red Hat Insights Planning for RHEL

Red Hat Insights Planning for RHELでは、RHELで提供されているソフトウェアがいつまでサポートされるかを可視化する。RHELでリリース予定のソフトウェアも一覧で確認可能。

また、提供予定のオファリングとして、以下が紹介された。

  • Post-Quantum Cryptography(PQC):量子コンピュータがデータを解析できないようにする暗号化方式
  • RHEL Extensions Repository:パートナーやRed Hat製品に含まれないコミュニティのオープンソースソフトウェアを提供する信頼できるソフトウェア配布チャネル
  • WSL2用Pre-built RHELイメージ
  • Red Hat Insights On-prem(Tech Preview):インターネット非接続環境でも利用できるRed Hat Insights Advisor

Red Hat Ansible Automation Platform

シニアソリューションアーキテクトの中島倫明氏は、Red Hat Ansible Automation Platformに関する発表のポイントとして、以下2点を挙げた。

AI × Ansible Automation Platform

AI関連の追加機能、機能拡充としては、以下がある。

Red Hat Ansible Lightspeed intelligent assistant (Technology Preview)

OpenShift、RHELと同様、AnsibleでもLightspeedが提供される。Lightspeed intelligent assistantはAnsible Automation Platform UI に組み込まれたチャットアシスタントで、トラブルシューティング、プラットフォームオンボーディング、日々の自動化管理をサポートする。

将来的にはジョブの作成、ログの解析、エラーの原因調査をできるように拡張される予定だという。

Policy enforcement
Policy enforcementは、OPAサーバと通信して、実行前の自動化がポリシーに適合しているかをチェックする機能。コンプライアンス、監査、可能性を維持して、AIの成果を向上する。中島氏は「わかりづらいが、AIを活用する上で重要な機能」と説明した。

Red Hat Ansible Content Collections
Red Hat AI のインフラ構成・管理・運用を自動化するRed Hat Ansible Content Collectionsがアップデートされた。第1弾として、プロビジョニングのコンポーネントが提供される。

Ansible Automation Platform + Terraform Enterprise

Ansible Automation Platformの競合製品であるTerraform Enterpriseを提供するHashiCorpは昨年4月、IBMによって買収され、Red Hatと同様にIBMの傘下に入ることになった。

そのため、両製品はどうなるのかと注目を集めていたが、Ansible Automation PlatformとTerraform Enterpriseをシームレスに連携できるよう、インテグレーションを進めるという。

インテグレーションの進捗は、プロダクトtoプロダクトのインテグレーションの改善のフェーズにあるという。

  • インテグレーションが進められている「Ansible Automation Platform」と「Terraform Enterprise」