
金融庁は3月、金融界における生成AI(人工知能)活用を巡る論点を整理した「AIディスカッションペーパー(1・0版)」を公表した。新たな金融犯罪の手口を生み出したり、偽・誤情報を拡散したりするリスクを指摘する一方、将来的に金融業務を支える中核的な技術として、金融サービス提供のあり方や金融機関のビジネスモデルを抜本的に変革しうる可能性があると分析。金融機関に対して、技術革新に取り残されて中長期的に良質な金融サービスの提供が困難になる「チャレンジしないリスク」を強く意識すべき局面だとして、積極的に導入に取り組むよう促した。
6月にも官民ステークホルダー勉強会を立ち上げ、規制のあり方なども含む生成AIの健全な活用のあり方を議論した上で、来年3月にディスカッションペーパーを更新する方針だ。
昨秋実施した金融機関のAIの活用実態に関するアンケート調査(130社が回答)では保守的な傾向が浮き彫りに。9割以上が「従来型AI又は生成AIをすでに活用している」と回答したが、大半は文書の要約や翻訳、校正・添削など社内の業務効率化にとどまる。与信審査や資産運用の高度化など顧客サービスの向上に活用している金融機関は4割以下にとどまった。
伝統的な銀行や証券は対面サービスを中心に中高年層らを取り込み、ネットバンクやネット証券は若者層を主力に非対面型の安価なサービスを提供する。だが、かつて存在した顧客の棲み分けも、1億総スマートフォン時代には通用しなくなった。高齢者もPayPayなど電子決済を使いこなし、非対面でもよりお得な金融サービスを求める中、地銀や地場証券などが安定志向の経営に固執して技術革新の波に取り残されれば、市場から淘汰されかねない。
このため、ディスカッションペーパーでは、金融サービスへの生成AIの健全な活用がビジネスモデルの変革や収益性の向上につながる、重要な経営資源になり得ることを意識して経営に当たるよう求めた。保守的な傾向が根強い地銀などの経営者のマインドを変えられるか。