トランプ政権における半導体関税政策は、現時点でその具体的な内容は不透明な部分もあるが、すでに示唆されている方針からその方向性と影響を考察できよう。
トランプ大統領は2025年1月27日のフロリダ州での演説で、半導体や医薬品、鉄鋼などに対して近く関税を課す意向を表明した。これにより、米国の産業保護と国内生産強化を強く推し進める姿勢が明確に示されている。
まず、トランプ政権の半導体関税政策の背景には、アメリカの経済安全保障と産業競争力の強化がある。トランプ氏は3月、米国より高い関税を課している国家として中国、インド、ブラジルなどを名指しした。これは、グローバルサプライチェーンにおける米国の依存度を減らし、特に半導体のような戦略物資を国内で確保する意図が込められている。半導体はAI、5G、軍事技術といった先端分野の基盤であり、米中覇権争いの核心である。中国の技術的台頭を抑えるため、バイデン政権時代に開始された対中輸出規制を継承しつつ、関税という新たな手段で補強する戦略が見て取れる。加えて、トランプ氏は「関税を払いたくなければ米国に工場を建てろ」と企業に圧力をかけ、米国での生産拠点構築を促している。
次に、トランプ氏は関税の対象国や税率、実施時期を明示していないが、すべての輸入品に課す「ユニバーサルベースライン関税」を2.5%より大幅に高く設定したいと言及した。また、カナダとメキシコからの輸入に25%、中国製品に60%といった数字も選挙戦で提示されており、半導体にも同様の高税率が適用される可能性がある。しかし、これが実際に法制化されるかは議会の承認や経済界の反応に左右されよう。半導体産業はグローバルに分業化が進んでおり、例えば台湾のTSMCや韓国のサムスンが米国に工場を建設中であるが、完全な国内生産は短期的には困難である。そのため、関税政策が現実と乖離した過激なものになれば、産業界からの反発が予想される。
そして、この政策の影響は多岐にわたる。まず、米国内の消費者と企業にとってコスト増が懸念される。半導体はあらゆる電子機器に不可欠であり、関税による価格上昇はスマートフォンや自動車などの値上げに直結する。インフレ圧力を高め、バイデン政権が目指した物価安定を阻害すると警戒する声も聞かれる。また、国際貿易への影響であるが、仮に中国やインドが報復関税を課せば、米国の輸出産業、特に共和党支持基盤である農業州が打撃を受ける可能性がある。さらに、日本やオランダといった同盟国への同調圧力も強まる。トランプ政権はすでに、東京エレクトロンやASMLの対中メンテナンス制限を協議しており、半導体製造装置のサプライチェーンにも波及するだろう。
今後の行方を予測すると、トランプ氏の保護主義は一貫しているが、実行には現実的な制約が存在する。第一に、議会での調整である。共和党が上下両院を握る場合でも、産業界のロビー活動が関税の緩和を求める可能性がある。第二に、国際社会の反応である。中国への規制強化は支持されるかもしれないが、カナダやEUへの高関税は同盟関係を損ないかねない。第三に、市場の動向である。1月の「ディープシーク・ショック」では、中国企業が低コストAIモデルを開発し、NVIDIAの株価が下落した。このような競争環境下で、半導体関税が米企業の足かせとなれば政策の見直しを迫られるかもしれない。