近年、世界中で山火事(森林火災)が多発している。気候変動による猛暑や干ばつがその一因とされ、今後もそのリスクは増大すると考えられている。
こうした中、ドイツの「オローラテック」(OroraTech)や、米Googleなどが参画する非営利団体「アース・ファイア・アライアンス」(Earth Fire Alliance)が、衛星コンステレーションやAIを活用し、山火事の早期検知や被害拡大防止に向けた取り組みを加速させている。
世界中で増える山火事
2023年に起きたカナダの大規模な山火事では、15万平方kmという過去最大級の焼失面積を記録した。日本でも2025年2月に、岩手県大船渡市で29平方km以上が焼失する火災が発生するなど、世界各地で被害が相次いでいる。
世界中で山火事が増えている背景には、近年の気候変動があると考えられている。気温の上昇や乾燥が進むと、火災の発生、延焼リスクが高まる。今後もその傾向は続くと予測されており、今後数十年で森林の焼失量は2倍になるという研究もある。
大規模な山火事は、山や森林を失うだけでなく、温室効果ガスの排出や大気汚染問題も引き起こし、人間社会と生態系の両方に深刻な打撃を与える。
被害を防ぐには迅速な対応が欠かせないが、これまで山火事監視はヘリコプターや地上センサーに頼ってきたため、広範囲をリアルタイムでカバーするのは難しかった。
衛星画像も活用されているが、地球上の同じ地点を1日に数回の頻度でしか観測できないため、火災の発生を迅速に捉えたり、被害状況をリアルタイムで確認したりすることはできない。
この課題を解決するため、オローラテックやGoogleなどが開発する、衛星コンステレーションによる早期検知技術が注目を集めている。
4m四方の火災も見逃さない、オローラテックの実運用衛星「OTC」
オローラテックは2018年に、ドイツのミュンヘン工科大学発のスピンオフ企業として設立された。これまでに3機の技術実証衛星を打ち上げ、その成果を下敷きに、実運用衛星の「OTC」(Orora Technologies Constellation)を開発した。
OTC衛星は6Uサイズのキューブサットで、特殊な赤外線カメラを搭載しており、4m四方の小さな範囲の火災も発見できる。また、AIによるオンボード処理によって、撮影した画像をスキャンして山火事の兆候を自動的に検出できるようにし、数分以内に地上のユーザーに警告できる機能をもつ。
衛星の製造は米衛星メーカーのスパイア・グローバル(Spire Global)が担当し、オローラテックはペイロードの開発を担当した。
OTCの最初の8機(フェイズ1)は、3月27日に米ロケット・ラボの「エレクトロン」ロケットで、高度550km、軌道傾斜角97度の太陽同期軌道へ打ち上げられた。昇交点通過地方時(LTAN)は16時〜17時ごろに設定されており、火災が最も激しくなり、消防士が最も支援を必要とする時間帯に、地表を観測できるようになっている。
同社では、2025年末にさらに8機の衛星を打ち上げる予定で、2026年までに100機体制のコンステレーションを構築し、世界中どこで山火事が発生しても30分以内に検出できるようにすることをめざしている。
さらに、他の企業や宇宙機関などが運用する地球観測衛星のデータも統合することで、検知の頻度や確実性を高めている。
また、オローラテックはスパイアのカナダ支社であるスパイア・カナダと提携し、カナダ向けに「ワイルドファイアサット」衛星コンステレーションを構築するプロジェクトも進めている。
2025年2月7日にはカナダ宇宙庁から、約7200万カナダドルの契約を獲得している。衛星の打ち上げは2029年の予定で、カナダ宇宙局によって5年間、運用される予定となっている。
5m四方で山火事発見、Googleなどの「ファイアサット」
ファイアサットは、非営利団体アース・ファイア・アライアンスが開発を進める衛星コンステレーションである。同アライアンスには、米衛星ベンチャーのミューオン・スペース(Muon Space)や、Deep Research、ゴードン・アンド・ベティ・ムーア財団(Gordon & Betty Moore Foundation)といった複数の企業や機関が参画している。
3月15日には、ファイアサットの試作機が、スペースXのトランスポーター13ミッションで打ち上げられた。
今後、2026年には実運用機にあたる、ファイアサット・コンステレーションのフェイズ1衛星3機の打ち上げが予定されている。将来的には、50機以上の衛星からなるコンステレーションを構築し、地球全体を5m四方の解像度で20分ごとに撮像できるようにすることをめざしている。
衛星が撮影した画像は、AIを活用して、同じ場所の過去の約1,000枚の画像と比較し、現地の天候やその他の要因も考慮して、画像内に火災が存在するかどうかを判断する。そのデータは、警告の発出や消防士の対応活動に活用されるだけでなく、山火事の拡大の予測や、メカニズムの理解にも役立てられる。
山火事のリスクが増す中、衛星コンステレーションやAIによる早期検知は、被害を最小限に抑える鍵となりつつある。こうした技術が、山火事との闘いにおける希望の光となり、森林や生態系を守る一助となることが期待される。
参考文献