「歴代3社長による経営改革の総仕上げ」 ソニーG・十時裕樹がCEOを務める意義

売上高、営業利益の6割は エンターテインメント事業に

「7年間で何か一つあげるとすればパーパス(存在意義)の策定。グループ経営には求心力と遠心力の両方が必要で、その要となるのはパーパスだと思っている。パーパスというプロミスを軸に遠心力と求心力を追求してきた」

 こう語るのは、ソニーグループ(G)会長CEO(最高経営責任者)の吉田憲一郎氏。

 4月から新たな体制が始まるソニーG。社長COO(最高執行責任者)兼CFO(最高財務責任者)の十時裕樹氏が社長CEOとなり、会長CEOの吉田氏は会長に専念。CEOの交代は7年ぶりだ。

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 吉田氏は18年から社長兼CEOを務め、家電が中心だった事業を多角化して、コンテンツや知的財産(IP)を重視する経営へシフト。今期(2025年3月期)の最終利益は従来予想から1千億円上方修正し、1兆800億円(前年同期比11.3増)と過去最高を更新する見通しだ。

 吉田氏の〝懐刀〟である十時氏がCEOに就任することにサプライズはない。ただ、今回の人事について、同社のある経営幹部は「(吉田氏の前の社長である)平井一夫・吉田・十時3氏による経営改革の総仕上げに入ったと言っていい」と指摘する。

 2012年に社長へ就任した平井氏。同社は12年3月期まで4期連続で最終赤字を計上してきた。経営の重荷になっていたのが、創業以来、同社の屋台骨を支えてきたエレクトロニクス事業の不振だった。長年、「エレクトロニクス事業の再生なくしてソニーの再生は無い」と言われてきたが、平井氏は〝聖域〟にも切り込んだ。自身は音楽やゲーム畑が長く、テレビなどエレクトロニクス事業に対する過度なこだわりはなかったからだ。

 そして、平井氏はパソコン事業を切り離して撤退し、テレビや半導体事業を分社化。「規模を追わず違いを追う」(当時の平井氏)戦略で、10年連続赤字が続いたテレビ事業を黒字化させた。

 そんな平井氏の経営改革を支えたのが吉田氏だった。吉田氏は2018年に社長就任。21年にアニメ配信の米クランチロールを約1300億円で買収した他、22年には米独立系ゲーム開発会社バンジーを約5140億円で買収。25年1月にはKADOKAWAへ約500億円を追加出資し、発行済み株式の約10%を握る筆頭株主となった。

 この7年間で、エレクトロニクス事業中心のビジネスモデルから脱却し、ゲームや映画、音楽などのエンターテインメント分野を中心としたリカーリング(継続課金)ビジネスに注力。ハードの売り切りではなく、ソフトなどで継続的に稼ぐ新たなビジネスモデルへ脱皮した。

「21世紀はエンターテインメントの時代で、その主な担い手はネットワークだという思いがあった。2012年に平井さんが『感動』をテーマに打ち出し、エンターテインメントにフォーカスし出した。この7年間は十時と一緒にクリエーションにシフトしてきた」(吉田氏)

 平井氏を支えた吉田氏同様、吉田氏の経営を支えてきたのが十時氏である。吉田・十時体制で同社の(本業の儲けを示す)営業利益は1兆円を超える規模へ成長。平井氏の社長就任時、売上高の6割を占めていたのはエレクトロニクス事業だったが、現在はエンターテインメント事業が売上高、営業利益とも6割を占めるまでになった。

時価総額は国内3位だが GAFAMの背中は遠く…

 もっとも、十時氏が「われわれはグローバルで勝負していかなくてはならない会社。まだまだ規模の面でも、収益性の面でも足りないところも多い」と言うように、同社にも課題はある。

 3月14日時点のソニーGの時価総額は約21.6兆円。一連の改革により、今ではトヨタ自動車、三菱UFJフィナンシャル・グループに次ぐ、国内3位のポジションとなった。それでも、米国の巨大テック企業GAFAMと比べれば規模も1ケタ小さい。まだまだGAFAMの背中は遠いのが現状だ。

 また、冒頭の経営幹部は「足元の業績はいいが、米国のトランプ政策がどうなるか、半導体の行方、家庭用ゲーム機『プレイステーション』の販売動向など、この3つは常に注視しておく必要がある」とも指摘した。

 CEOは変わっても、ソニーGがゲームや映画、アニメといったエンターテインメントを注力分野と位置付ける方針に変わりはない。3年間で1.8兆円を成長投資に充てる計画を打ち出しており、今後、同社の成長はM&A(合併・買収)の巧拙に左右されそうだ。

 十時氏は「平井さん、吉田さんが価値を高めてきた経営を受け継ぎ、『クリエイト・エンターテインメント・ビジョン(同社の長期ビジョン=クリエイティビティとテクノロジーによる無限の感動を届ける)』の実現、ソニーの進化と更なる成長に向けて取り組んでいく」と語る。

 1946年の会社設立以来、同社は日本初のテープレコーダーやトランジスタラジオをはじめ、『ウォークマン』や『プレイステーション』など、数多くのヒット商品を生み出してきた。

 そんな同社だが、今は機器そのもので差別化することは難しく、ソフトをいかに組み合わせるかによって他社との差別化を図る時代になっている。

 同社の『設立趣意書』には、創業者・井深大氏が掲げた「自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」という文言がある。時代の変化と共に手掛ける商品は変わっても、十時氏に課せられているのは愉快なる理想工場の追求だろう。新CEOとして、十時氏の手腕はこれからも問われ続ける。

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