Intelは現地時間の3月31日から4月1日にかけて、ラスベガスで「Intel Vision 2025」を開催した。こちらはInvitation Onlyのイベントであるが、初日の基調講演は同社のNewsroomで配信されている。

さてこのIntel Vision 2025の基調講演は、3月18日に同社CEOに就任したLip-Bu Tan氏の初のお披露目の場でもあった。という訳で、この基調講演の内容を簡単にご紹介したいと思う(Photo01)。

  • Lip-Bu Tan氏

    Photo01:IntelのCEOとして初めて公式の場に登場したLip-Bu Tan氏

冒頭から「まだ入社して14日の短い期間しか経っていないが、(会社の様子を)観察し、今後の計画を立てるには十分な時間だった」とし、「(入社)初期の(顧客と行った)会話から、我々は多くの困難な課題に直面していることは明白である」、「これらは、我々が(顧客の)皆様の期待に十分に応えられていない分野である」とした上で「私は強力なチームを結成し、過去の過ちを正し、(顧客の)皆様の信頼を回復してゆく」と述べた。

これに関して同氏は「私のモットーは非常にシンプルである。『約束は控えめに、そして期待以上の成果を(under promise and over deliver)』である」と説明した。

その上で、同社の現状について「技術面でトップクラスの人材を確保し、採用することが私の最優先事項の1つである。これにより技術革新を推進し、成長することが出来る。Intelは長年に渡り、こうした人材を失ってきたと考えている」とし、「私は技術革新を推進する文化を創り出したいと考えている」と説明した。また同氏は「私の究極の目標は、最高の製品を作り、長期間に渡って最高のファウンドリになることである。そのためには、エンジニアの力を最大限に引き出す必要がある」と、今後の同社の方向性に関しての明確な指針を示した。

この後、同氏は自身の経歴を簡単に紹介。Venture Capital時代には251社に投資を行い、うち43社がIPOを果たして25社がM&Aを成功させたことや、Cadence Design SystemsのCEO時代にはDenaliやTensilicaを始めとする買収によりEDAの設計プロセスを加速、収益を10%以上増加させ、最終的には対象市場を3倍に拡大、株主還元率を3200%増加、時価総額を750億ドルに迫るところまで引き上げることに成功した事に触れた後で、Intelの取締役会で2年間を過ごしたことに触れた。

ここで意外な名前がいくつか出て来た。Albert Yu博士(SVPとしてIAプロセッサを牽引。2002年に引退)やSean Maloney氏(Paul Otellini氏の後継者と目されつつも脳卒中を発症、2012年に引退)、Daddy Perlmutter氏(Intel Israelの技術部門トップとしてPentium M~Core 2時代を率いたが、Brian Krzanich氏とのCEO争いに敗れ、2014年に離職)などはいずれも同氏の友人であり、彼らから半導体業界について多くを学んできたそうなのだが、この中には「Dipper(Tan氏の愛称)、何故このタイミングでCEOを引き受けるんだ?」と尋ねる人も居たとか。その理由として氏は「私はこの会社を愛しているからだ。苦境に立たされている同社を見ているのはとても辛いことであり、また状況を好転させる手助けができると知っていながら傍観している訳にはいかなかった」とその理由を語った。

もっともこれに続き「これは容易なことではない事は十分に理解している。Intelにとって、かなり長い期間にわたり、厳しい時期が続いていたと感じている。要するにイノベーションの遅れであり、その結果として顧客のニーズへの適応や対応が遅れてしまった」と語っている。

では具体的にはこれをどう立て直してゆくのか?。これに関して「Intelはイノベーション(を生むため)の必須要素に再び焦点を当てると共に、バランスシートの強化に重点的行う必要がある。また効率性を徹底的に高め、有能な人材を再編成し、『Intelが何をしようとしているのか』という明確なビジョンを示して、新たな人材を獲得する必要がある」、「イノベーションはインキュベーションから始まる」、「Intelは大企業であり、時には新しいアイデアが発展し成長する余地を妨げてしまう事がある。私はスタートアップ企業のような文化を実践し、大企業でありながらスタートアップ企業のような姿勢で仕事に取り組みたいと考えている。そして、エンジニアたちに革新の自由を与え、新しいアイデアを推進していきたいと考えている」と方向性について示した。

次いで今後のビジネスの方向性について、AIを利用したエージェント、ノーコードあるいはローコードに代表されるSoftware 2.0、ハイパースケールコンピューティングとその先のフォトニクスへの移行、および量子コンピューティングなどが今後のビジネスで重要になるとした上で、まずx86のプラットフォームについてポートフォリオの再構築を開始する事を明らかにした(Photo02)。

  • 製品構築のアプローチも改めてゆくとして示された3つのテーマ

    Photo02:製品構築のアプローチも改めてゆくとして示された3つのテーマ

まず製品分野については、詳細はHolthaus氏(Michelle Johnston Holthaus:Intel Products CEO)が説明するとしたが、今後もクライアントとサーバの両方について「Intelが長年にわたり強みとしてきた分野であり、強力なイノベーションを推進してきたが、競争は激化している。我々はやり方を変えて、これに立ち向かってゆく必要がある。これにより製品とロードマップがさらに強化されることになるだろう」とした上で、今年後半にはIntel 18Aを利用したPanther Lakeの出荷が予定されているとして、「顧客がAI Edgeを利用できるようにするためのアプリケーションやISVを充実させることに焦点を置く」とした。これに関しては「Intelが提供できるものをさらに強化する必要があるが、Intelはすでに多くの人材を失った。業界で最高の才能を持つ人材にIntelに戻ってもらう、あるいはIntelに入社してもらう事が、私の最優先課題である」と明確に述べた。

興味深いのは今回AIトレーニング(学習)に関して一切の言及が無かったことだ。代わりに「AIインファレンス(推論)において、低コストで効率的な処理能力がますます重要な役割を果たすようになっており、これに向けて継続的な改善を推進してゆく。広範なAIデータ領域において、私はIntelの現在のポジションに満足していないし、顧客も満足していないことを承知している」と述べた。

またファウンドリビジネスについて「Intel製品の強化と同様に、偉大なファウンドリを構築する事にも全力を尽くす(And as we strengthen our intel products, I equally commit to build the great foundry)」と明確に述べ、その理由として「世界的に低価格生産の需要が高まる中、柔軟性、回復力、安全性を備えたサプライチェーンが必要とされている。Intelのファウンドリはこうした状況で重要な役割を果たし得る」とした。

このファウンドリビジネスに関しては、何しろEDAベンダであったCadenceのCEOを務めた事もあり「私の要求水準は非常に高い。まずチームと直接協力し、現状を把握した上で、今後の明確な道筋を定める。具体的にはバランスシートの強化、効率性の向上、適材適所の配置、事業の拡大などだ。ファウンドリはサービス事業であり、信頼という基本原則の上に成り立っている。これは非常に重要なことである。またファウンドリの顧客はそれぞれ独自の設計手法や設計スタイルを持っていることも認識している。私はこれをCadence時代に多くを学んだ。それはつまりIntelも、各顧客にどのように適応していくかということを学ばなければならないという事である。顧客は皆、好みのIPベンダやEDAパートナを持ち、性能、品質、歩留まりを最適化しようとしている。これをIntelが変えさせるような事をするつもりはない。今後は顧客の話を聞き、顧客がどういうパターンかを認識し、どのEDAプレーヤー、どのIPを使用しているかに注目し、顧客が必要とするパフォーマンスと歩留まりを最適化し、向上させる必要がある。これは私がよく知るエコシステムであり、当社の目標達成に向けて全力で取り組んでゆく」としている。何というか、実に「普通の」ファウンドリらしい説明である。

そのファウンドリビジネスであるが、「IntelはIntel 18Aと、これに続くIntel 14Aの開発を継続している。Panther Lakeは今年後半にIntel 18Aでの量産を開始する予定で、これは(Intelのファウンドリビジネスを進めるうえでの)必要条件であり、かならず実現しなければならない。このために現在は毎週レビューを行っている」とし、また「長期的には2~3社の外部顧客を獲得する事が非常に重要」とした上で、「Intelは先進的なチップの設計と製造が可能な唯一の米国企業であり、トランプ政権が米国の技術と製造のリーダーシップ強化に重点的に取り組んでいるという環境下において重要な役割を担える」と説明した。このファウンドリビジネスについては、今年4月末に行われるDirect Connectイベントでさらに詳細な説明を行う予定、との事である。

トータルでは40分程度の講演であり、また同氏も述べている通り就任後2週間という状況ながら、現状のIntelの問題点を把握したうえで、その対策について割と堅実な方針を示したという点では今後の期待が持てる内容となった。その一方で、製品ロードマップに関してはあまり触れられなかったこと、それとAIトレーニングの分野への言及が無かったあたりは、色々と今後の製品ロードマップに大変革が起きそうな予感もある。ある意味、Tan氏になってIntel Foundryの方向性はクリアになった感はあるのだが、Intel Productsの方がどうなるかが今後の関心事となるだろう。