4月1日から新年度。全国の各企業で入社式が開催され、新入社員が社会人の第一歩を踏み出した。コロナ禍など先行きが見えにくい社会で学生時代を過ごしてきた新人たちに、企業のトップが投げかけた言葉を紹介しよう。ここでは、入社式の模様を公開した電機メーカー4社を取り上げる。

パナソニックHD 楠見CEO「生成AIネイティブ世代の挑戦に期待」

「新入社員の皆さん、ご入社おめでとうございます。パナソニックへようこそ」

居並ぶ新人たちに、このように声をかけたパナソニック ホールディングス(HD) 代表取締役 社長執行役員 グループCEOの楠見雄規氏。世界最大のテクノロジーショー「CES 2025」で発表した、同社の企業成長イニシアティブ「Panasonic Go」から話を始めた。

「Panasonic Goには、AIを徹底して使いこなすという、ふたつの意味がある。それぞれの仕事を徹底してAIで効率化し、社員一人ひとりが顧客への価値を生むことに集中。また、顧客に提供するさまざまなソリューションも、他社に抜きんでたAIの活用で差別化。この2つの点で、競合からはるかに抜きんでた姿をめざす」(楠見CEO)

  • パナソニック ホールディングス 代表取締役 社長執行役員 グループCEOの楠見雄規氏

物心ついたときから日常にスマートフォンやインターネットが身近にあり、SNSや動画共有サイトを使いこなしながら育ってきた若者たちを指す、“スマホネイティブ世代”という言葉がある。

楠見CEOはそこからさらに1歩進み、今年の新入社員を「生成AIネイティブ世代」と表現。「皆さんには、これから配属される職場の先輩の仕事のやり方をどんどん変え、『Panasonic Go』のイニシアティブを加速してほしい」と期待を寄せる。

また、パナソニックグループが現在進めている大きな経営改革にも触れ、新入社員には「ユーザーや社会を豊かにする」という経営の基本の考え方のもと、「(グループ内の)事業会社に『誰にも負けさせない』ための仕事」を担うよう求め、仕事のなかで対して思い切った改善提案を出したり、大胆なアイデアを出してチャレンジし続けたりしてほしい、と語った。

入社三年目“若き日の樋口さん”と対談する、パナソニック コネクト樋口CEO

パナソニックHD傘下でB to Bソリューションを手がけるパナソニック コネクトは、187人の新入社員(New Connecters)向けのスピーチで、2024年度入社式から引き続き「生成AI」(人工知能)を活用。今回は、同社の代表取締役 執行役員 社長 兼 CEOを務める樋口泰行氏が、45年前に松下電器産業でまだ入社三年目だった樋口氏(のAIアバター)とやりとりする様子を見せ、新人たちの笑いを誘っていた。

樋口CEO:「私は1980年にパナソニック(当時は松下電器産業)へ入社しました。その後、1992年にいったんパナソニックを辞め、25年後の2017年に再入社し、今日から9年目ということになります。最初の配属は、当時の溶接機事業部、今はパナソニック コネクトのなかにある、溶接プロセス事業部でした。そこで働いていた当時の私の画像と、今の私の声をもとに、コネクトの優秀なエンジニアが40年前の私を再現してくれました。ここで、40年前の(まだ入社して数年の)私と会話してみたいと思います。40年前の樋口さん、こんにちは!」

AI樋口氏:「皆さんこんにちは。松下電器産業株式会社、入社三年目の樋口泰行です。」

樋口CEO:「若っ!(笑) 今は面影なくなってしまいましたけども……(40年前の)樋口さん、こちらは、2025年4月なんですよ。そして実は今、2025年度の新入社員の入社式であいさつをしているところなんですよ」

AI樋口氏:「こんにちは、40年後の樋口さん。入社式であいさつなんて、すごいですね」

樋口CEO:「なんか生意気ですね(笑) 今は松下電器からパナソニックに社名が変わって、自分は『パナソニック コネクト』というB to Bソリューションを担当する会社のCEOをやってるんですよ」

AI樋口氏:「CEOとは、社長のことですか? そうだとしたら、私はすごい出世したんですね」

樋口CEO:「そうなんですよ。そのあとあなたはがんばったんですよね。この40年間何をやってきたか、飲みながらでも話してあげたいなと思いますけれども、実はこの後あなたはパナを一旦やめることになります!」

  • パナソニック コネクト 代表取締役 執行役員 社長 兼 CEOを務める樋口泰行氏(右)と言葉を交わす、入社三年目の“樋口さん”のAIアバター(左)。

樋口CEOは、“若き日の樋口さん”と言葉を交わしながら、入社式を迎えたときの気持ちや、当時やりたかった仕事などを聞いていく。研修が終わるまで勤務地や配属先が分からず「モヤモヤしていた」とこぼすAI樋口氏に対し、樋口CEOはパナソニック コネクトならではの取り組みとして、新入社員の内定時に配属先と勤務地を開示し、入社前には「ジョブ・ディスクリプション」(JD)を提示することで、ミスマッチを減らす工夫をしていると紹介。AI樋口氏は「それならもっと研修に集中できた」とうらやましそうな様子を見せていた。

さらに樋口CEOは新入社員に向けて、同社がパナソニックグループ内だけでなく“他社にも負けないような、働きやすい環境”を提供する努力を重ね、世界で競争に打ち勝って信頼を得ながら事業を伸ばす「強くて優しい会社」をめざしていると強調。「皆さんにもぜひ、コネクトで、楽しく一生懸命、のびのび働いて、思い切り成長してほしい」と語った。

シャープ 沖津CEO「今年度からは会社も『再成長』へ」

シャープの入社式は近年、大阪・堺市にある本社を主拠点とし、各事業所からオンライン参加というかたちをとっていたが、2025年度は6年ぶりに本社での対面参加を基本として開催。同社代表取締役 社長執行役員 CEOの沖津雅浩氏が、「シャープで社会人生活の一歩を踏み出すことを大変嬉しく思う」と、今年の新入社員に祝いの言葉をかけた。

「2025年度からは会社も『再成長』へとステージが変わる。ブランド事業への投資を大幅に拡大し、グローバル事業拡大やビジネスモデル変革を加速する。さらに将来に向け、技術や人への投資も強化していく」(沖津CEO)

  • シャープ 代表取締役 社長執行役員 CEOの沖津雅浩氏

「皆さんには『お客様目線を大切に』、『自社の商品に対する感度を高める』、『現場、現物、現実の3現主義を実践』、『先輩から学び、先輩を超す仕事にチャレンジ』、『失敗を恐れるな!』を肝に命じ、積極的に挑戦して欲しい」(同)

沖津CEOの祝辞の後、新入社員代表2人が抱負を述べ、最後に参加者全員で沖津CEOが大切にしてほしいものとして挙げた「経営理念・経営信条」を唱和した。

NEC 森田CEO「失敗も含めて学びに」

2025年に創業126年を迎えるNEC。同社取締役 代表執行役社長 兼 CEOの森田 隆之氏は、入社式で次のように述べた。

「(当社の歴史は)時代に合わせて10年単位で主力となる事業を変え、組織の形を変えてきた歴史でもあります。NECは変わり続けることをやめなかったからこそ、一般的な企業の寿命が30年と言われる中、126年という長きにわたって生き残り、輝き続けることができているのです。失敗も含めて学びにし、世界から必要とされるNECであり続けてほしいと思います。自分たちがそれを担う、という志を皆さんには持ち続けてもらいたいと思います」(森田CEO)

  • NEC 取締役 代表執行役社長 兼 CEOの森田 隆之氏

「NECの一員としてNECが大事にしているもうひとつの歴史からの学び、『変わらない志』を言葉にまとめたNEC Wayを、ぜひ熟読してください。NECがNECであることの答えは、その中のパーパスにあります。『安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会』を実現することが、NECがNECであることの『志』です」(同)

「NEC社員共通の価値観としてCode of Valueがあり、Code of Conductがあります。そこに流れるのは、企業として、価値創造の対価である利益を再投資し、さらに大きな価値創造につなげるという覚悟、また、お客様、社会、株主、そして仲間であるNECの同僚に対するインテグリティ(Integrity)、つまり誠実さに対するコミットメントです。これから皆さんと共に働けることを楽しみにしています」(同)