性的マイノリティへの理解を広めるための「LGBT理解増進法」が2023年6月に国会で可決・成立してから、LGBTQ+に関わる制度・施策についてメディアなどで取り上げる機会が増えたとともに、さまざまな議論が巻き起こっている。
LGBTQ+の人たちに寄り添いたいと考え、支援する人のことは「ALLY(アライ)」と呼ばれるが、昨今、企業としてLGBTQ+への理解を深めて、組織風土を変えようとする「ALLY企業」も増えてきた。
パナソニック ホールディングス(HD)傘下のパナソニック コネクトもALLY企業の1社だ。同社はDEI(ダイバーシティ:多様性、エクイティ:公平性、インクルージョン:包括性)を経営の重要指標と捉えており、性的マイノリティの人が働きやすい環境づくりを推進している。
そして同社は、ALLY企業のつながりの場、学び合う場として「レインボービジネスネットワーク」を発足。第1回目となるキックオフミーティングが2月27日に開催され、約50社のALLY企業が集まった。パナソニック コネクトCEO(最高経営責任者)の樋口泰行氏らが登壇し、LGBTQ+に関する現状や、企業として同取り組みを推進する意義について議論を交わし合った。
認知が広がる性的マイノリティ
電通グループの電通ダイバーシティ・ラボが2023年6月に全国20~59歳の計5万7500人を対象に実施した調査によると、異性愛者もしくは生まれた時に割り当てられた性と性自認が一致しない「LGBTQ+当事者層」の割合は9.7%だった。2018年、2020年調査時の8.9%から微増した。
性的マイノリティの認知も広がりつつある。「LGBTが性的マイノリティの総称の1つということを知っているか」という質問に対し、80.6%の人が「そう思う」「ややそう思う」と回答。2015年調査時の37.6%から急増した。
「人権の尊重。その先に企業の成長がある」ーー。樋口氏はキックオフミーティングでこう断言した。
全社員の心理的安全性を確保し、フェアな労働環境かつ差別のない職場を実現することで、企業競争力は向上すると同社は考えている。
「すべての人が平等に生まれてきているはずなのに、苦しんだり、悩んだり、この職場では働けないと感じたりすることはおかしい。先のことが予測不可能な昨今のような時代では、多様な意見や考え方を取り入れなければ正しい経営判断はできない」と、樋口氏は述べた。
樋口CEO「ストレスなくカミングアウトできるようにする」
パナソニック コネクトの取り組みはさまざまだ。例えば、2016年4月より慶弔休暇や育児・介護支援、単身赴任手当などの人事関連制度において、同性パートナーにも配偶者に準じた取り扱いを適用している。同性婚を含む事実婚を法律婚同様に扱う社内規定もある。
また、管理職を含む社員へLGBTQ+に関する研修も実施しており、基礎知識に加え、差別的言動への対処方法、当事者のニーズへの対応方法などを発信。さらに同僚や上司がALLYとして意思表示(可視化)できる環境も整えており、「当事者がストレスを感じることなくカミングアウトできるようにする」(樋口氏)とのことだ。同社は社内のALLYを1000人まで広げることを目指している。
「カミングアウト」に関する当事者・非当事者間のギャップ
性的マイノリティであるとカミングアウトすることに不安を抱えている当事者は少なくない。事実、先に述べた電通ダイバーシティ・ラボの調査結果によると、約2人に1人が「職場や学校でカミングアウトしたら居づらくなると思う」と回答した。
ある30代の当事者は、「カミングアウトしないことで辛いことも多いが、カミングアウトすることで、悪い方向に関係性が変わってしまうかもしれないという怖さを感じてしまう」と、職場の人に対してカミングアウトすることためらっている。
一方で、カミングアウトを受ける側である非当事者層の考えは必ずしも同じではない。同調査では84.6%の非当事者が「カミングアウトされたときはありのまま受け入れたいと思う」と答えた。「打ち明けてくれた気持ちを素直に受け止めて、その後もこれまでと特に変わらず接したいと思う」(30代非当事者)と考える人が多いことが分かった。
樋口氏は、「会社として啓蒙活動や働く環境の整備を進め、個人として行動や配慮を改善する。そうした取り組みを社外に積極的に発信し、当事者がいきいきと活躍できる文化を作り上げ、自社だけでなく社会全体に波及させていく」と、キックオフミーティングに参加した約50社のALLY企業に対して、意気込みを述べていた。