中国のリチウムイオン2次電池メーカーの勢いが止まらない。新興の2社は、電気自動車や、エネルギー貯蔵装置向け需要を狙って日本市場の開拓に乗り出した。どちらも「固体電池」をうたっており、高い性能を訴求する。
それに対し、中国・寧徳市に本拠を構える老舗の「寧徳時代新能源科技」(CATL)は、日本にしかない軽自動車規格に特化した電池をそろえるなど、フルラインナップで臨む。日本国内で設立後、中国企業の傘下に入った神奈川・横浜の「AESC」は、多様な要求に地産地消で応えようと、大規模工場を各国で建設中だ。
“固体電池”手がける新興・清陶能源、産業機器需要もねらう
世界的に電気自動車(EV)支援策が縮小し、リチウムイオン2次電池(LiB)需要の鈍化が懸念されているが、中国勢はむしろ積極姿勢を強めている。
精華大学教授らによって2016年に固体電池会社として設立され、崑山市に本社を置く「清陶能源」(QingTao EnergyDevelopment)は、2023年に上海汽車グループと共同出資会社を設立。エネルギー密度368Wh/kg、充電1回で航続距離1,083kmというリン酸鉄リチウム(LFP)電池を開発した。同社は固体電池と呼んでいるが、実際はセパレーター表面になんらかの“酸化物”を塗布したことで、電解液を従来の10%以下に低減した「半固体電池」である。
セルサイズ(アルミニウム缶)は37×204.5×174.5mm、容量は150Ah、電圧3.2Vで、重量は2,880gである。放電温度範囲は−30〜+60度、サイクル回数6,000(80%、SOH:健全度)であり、すでに中国ではトラックに搭載されているという。セルからモジュール、パックまで手がけていて、年産能力は近く30GWhになる見通し。
安定生産の体制が整ったため、2025年からは輸入商社の「TOHOKI」(東京・港区)を通して日本市場の開拓をはじめた。産業機器向け需要も狙っていく。
EVやドローンに“固体電池”展開するWeLion、電動バイクにも
同じく1回の充電で航続距離1,000km以上を可能にした、やはり半固体電池を訴求するのが、2016年設立で北京市に拠点を置く「北京威龍新能源科技」(WeLion)。EV向けはNMC(ニッケル、マンガン、コバルト)三元系電池で、エネルギー密度は350Wh/Kg。ほかにもドローン用の310Wh/Kgやエネルギー貯蔵装置(ESS)用の280Ahもそろえる。2025年には、電動バイク向けに360Wh/kg以上の高密度円筒形セルを製品化する予定だ。
極薄金属リチウム箔や高イオン伝導性セパレーターといった特殊材料と、in-situ(インサイチュ)凝固電解質やカソード固定電解質塗布などのプロセス技術が強みの同社は、年産40Gwhの生産能力をもつとみられる。
“半固体電池”の先駆者・24Mテクノロジーズ
こうした半固体電池の先駆けといえるのが、米マサチューセッツ工科大学(MIT)からスピンオフした米24Mテクノロジーズ(24M Technologies)。同社の技術は、一般的な電解液を半固体化する方法ではなく、電極を半固体化するのが特徴だ。これによってバインダーを不要にし、ダイレクトリサイクルを可能にした。
2019年には、同社からライセンスをうけた京セラが「クレイ型蓄電池」として商品化した。だが製造プロセスに高度のノウハウが必要とあって、ライセンシーは思うように増えていない。前出の中国2社がいかに事業拡大を図るのか、注目される。
バッテリー大手のCATL、AESCの動向
トップメーカーの「CATL」はあらゆるEVに対応すべく品ぞろえを拡充。中国では、EVとプラグインハイブリッド(PHV)がほぼ半々で、ハイブリッド(HV)向け需要は少ない。日本ではHVよりもPHV向けが大きいという。高出力が必要なHV向けは3元系正極であり、2026年には9,000W/Kg、2028年には11,500W/Kgをめざす。
EV向けはLFPが基本であり、日本ならではの軽EV用に「Kパック」をそろえた。スペースに制限があるため幅は720mm、高さ120mmサイズにして、スライドドア車両や軽トラックにも組み込みやすくしている。
米GMは高級車キャデラック初のEV「リリック」を2025年3月から販売しはじめたばかりだが、航続距離510kmを可能にする95.7KWhの大型NMCパックはCATL製品。GMは仕向地ごとにLiBベンダーを替えている。
日産とNECが2007に設立した車載電池メーカー「AESC」は、2019年に中国「エンビジョン」(Envision)が約90%を出資しグループ傘下になって以来、勢いがある。現状は7工場(うち国内は座間と茨城の2工場)だが、海外に6工場の建設を進行中。どれもユーザーとなるカーメーカーとの協業であり、生産品目や稼働時期は明かしていない。
急激な増産投資の背景には、資本関係が変わり日産の子会社ではなくなったことから、自ら顧客開拓をせざるえなくなったという事情がある。そのうえで保護主義的経済に移ったことでユーザーの自動車工場の近くに立地し、地産地消を進める必要性が生まれた。
あわせて多様な要求に応えられるよう、品ぞろえも増やしている。現在はNMCとLFPがあり、パッケージはパウチと角型(NMC)、円筒型(LFP)を展開。2020年代後半にはLFP全固体電池の実用化をめざす。EV市場は一時にくらべて成長が鈍化してきたが、それを補える規模でESS向け市場が拡大しているのが追い風になっている。