2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の中でも最大規模のサイズを誇る「未来の都市」パビリオンが完成した。「Society 5.0の未来社会」をテーマとするこのパビリオンは、その名の通りに未来の都市がどのような姿であるかを来場者に問う展示が目白押しだ。

本稿では、メディア向けに先行公開された「未来の都市」パビリオンの見どころを、ツアー形式で紹介しよう。現地へ行く予定の方の楽しみを奪ってしまわないよう、一部のみの紹介となることをお許しいただきたい。

完成披露式典の模様はこちら(万博最大規模の「未来の都市」パビリオン完成、大阪湾を臨む幻想的な会場は環境にも優しい

  • 「未来の都市」パビリオン完成記念式典

    「未来の都市」パビリオン完成記念式典

ホールA:長さ92メートルの3層紗幕で「幸せ」について考えよう

パビリオン入口のドアをくぐると、まず最初にフランスの画家ポール・ゴーギャンの『 D'ou venons-nous ? Que sommes-nous ? Ou allons-nous ?(我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか)』をオマージュした壁画が来場者を出迎える。この先の展示ホールはA、B、Cにそれぞれ大きく区切られている。

  • パビリオン入口の壁画

    パビリオン入口の壁画

人類の進化と悠久の時に思いをはせつつ足を進めると、次に見えるのはホールAにある高さ5メートル×長さ92メートルの蛇行した「カービングビジョン」。スクリーンは演劇などの舞台などでも使われる紗幕を3層に重ねたもので、通路の両側を形成する。

紗幕スクリーンは入口側から、恐竜が暮らす人類誕生前の様子に始まり、狩猟時代、農耕時代(食べ物を育て、都市が生まれた時代)、工業社会(さまざまな発明が生まれテクノロジーが発展した時代)の様子が映し出され、人類社会の変遷をたどる。この先に待つSociety 5.0の世界に向けて、没入感のある仕掛けで来場者を誘う。

  • カービングビジョンに投影される映像

ホールB:参加型の展示で未来の都市の姿を想像しよう

カービングビジョンを抜けると、通路と休憩の場を兼ねるコリドールに入る。ここは外観のアクセントとなり、大気や水の流れをイメージした寒色のストライプが心地よい。大型の窓の向こうには大阪湾が見渡せる。

コリドールに設置されたベンチと床材は二酸化炭素を吸収する「CARBON POOLコンクリート」製。また、舗装材にはパビリオン建設時の余剰生コンクリートをリサイクルし、脱炭素や循環型社会の実現にも寄与する。

  • コリドールに設置されたベンチと床材

コリドールの先に広がるホールBでは、4つのキューブ「Mirai Clip」が並ぶ。このキューブはそれぞれ「暮らし」「交通」「文化」「医療」をテーマに、未来の都市に住む人が2025年の私たちに話しかけてくるというもの。

未来の都市の生活を想像しながら、「本当にそうなるのか?」「自分はもっとこんな都市になると思う」などと想像をふくらませながら、Mirai Clipとの対話を楽しんでほしい。

  • Mirai Clip

    Mirai Clip

ちなみに、足元の三角形マークからキューブを見るとちょうど立体感のある映像が楽しめるので、おすすめだ。

  • 足元に注意して楽しんでいただきたい

    足元に注意して楽しんでいただきたい

このホールでもう一つ注目すべきは、日立製作所とKDDIによる共同展示「Mirai Meeting」だ。これは「Mirai theater(ミライシアター)」と「Mirai Arcade(ミライアーケード)」で構成されている。

Mirai theaterは120人ほどが一度に入場できる劇場型の展示。ミュージカル風の演出で選択肢が提示されるので、来場者も物語に参加できる。タブレット端末や自身のスマートフォンなどを活用して選択肢に答えると物語の結末が変わり、未来が変化する。

  • ミュージカルのように登場人物が語りかけてくる

    ミュージカルのように登場人物が語りかけてくる

  • タブレットでインタラクティブに参加できる

Mirai Arcadeは大型タッチパネルを用いた参加型の展示。最大3人で協力しながら画面内のさまざまな社会課題に対して「ミライボール」を投げると、課題が次々に解決されていく。自身の手で理想の未来を切り開く体験を提供する。

  • Mirai Arcade体験中の様子

    Mirai Arcade体験中の様子

ホールC:未来の都市の産業・技術を思う存分楽しもう

再びコリドールを挟み、その先にはパビリオン内で最も大きな広がりを持つ3番目のホールCが待っている。このホールは「ゆめを見た」をキーワードに、協賛各社がSociety 5.0の社会課題解決に向けた最新技術を展示する。

ホールに入るとまず目に飛び込んでくるのは、段ボール製の大きな頭。これはロボットの頭部コックピットをイメージした作品で、この中ではロボットに乗り込んだ気持ちで「交通・モビリティ」「環境・エネルギー」「ものづくり・まちづくり」「食と農」の4つのストーリーを体験できる。

各ストーリーはアニメや人形劇、2Dモーショングラフィックなど多様な表現が用いられ、大きくなったり小さくなったりと、仮想的な世界感で未来の産業を体験可能。

  • 段ボール製のロボット頭部と映像作品

クボタは「食と農業」をテーマに、汎用プラットフォームロボット(Versatile Platform Robot)のコンセプトモデル「Type:V」と「Type:S」を初公開。「Type:V」は完全無人プラットフォームロボットで、作物の間隔や生育状況、作業内容に応じて車体の高さや幅などを自動で変形する。従来の稲作はトラクターやコンバインなど用途別の農業機械が必要だったが、各作業に適したインプルメント(作業機)を自動で付け替えることで、「Type:V」1台で複数用途に使用可能だ。

  • クボタが初公開した「Type:V」

    クボタが初公開した「Type:V」

もう一つの「Type:S」は、4本の脚部を柔軟に曲げ伸ばしすることで、果樹園などの傾斜地や凹凸のある地形でも機体を水平に保ちながら移動が可能なロボット。荷物の運搬や高精度な管理作業に使えるという。アタッチメントを付け替えて複数用途に適用可能なプラットフォームとしての活用を見据えているとのことだ。

  • 「Type:S」

    「Type:S」

クボタの代表取締役社長を務める北尾裕一氏が展示ブースに登場し、2台のロボットを披露。「当社は生きる上で不可欠な食と農業の分野において、命を支えるプラットフォーマーとして人々の豊かな社会と地球環境の持続可能性を両立していく。未来の種は今ここにある。万博を通して未来に命を受け継ぎ、未来を作る人の新たな行動や気付きのきっかけになってほしい」とコメントしていた。

  • クボタ 代表取締役社長 北尾裕一氏

    クボタ 代表取締役社長 北尾裕一氏

川崎重工業、商船三井、関西電力送配電は、「モビリティ」をテーマに新たな価値をもたらす移動手段を展示する。単に人や物が移動するだけではなく、より環境に優しい、より快適な移動を実現する、といった新しいモビリティの価値を示している。

商船三井は特徴的な帆を搭載する船「ウインドハンター」の大型模型を展示する。この船は海上の風をとらえて水素を製造し貯蔵できることから、海上ではうちわで船に風を送るゲームに参加できる。参加者が起こした風の量でスクリーンの映像が変化するなど、子供も大人も楽しい仕掛け。

  • 商船三井のウインドハンター模型

    商船三井のウインドハンター模型

  • ゲーム体験中の参加者

    ゲーム体験中の参加者

日本特殊陶業(Niterra)、カナデビア、IHIはクリーンなエネルギーを創出する仕組みについて紹介する。日本特殊陶業が打ち出すのは、持続可能なエネルギーを必要な人に届ける「自律可搬型循環技術」。会場では映像とナビゲーターのダンスが一体化した演出が披露され、没入感のある空間の中でエネルギーの循環が学べる。

  • 日本特殊陶業のパフォーマンス

    日本特殊陶業のパフォーマンス

神戸製鋼所(KOBELCO)、青木あすなろ建設および小松製作所、CPコンクリートコンソーシアムは未来の都市におけるものづくり、まちづくりに資するソリューションを紹介している。神戸製鋼所のボールコースターは光と共に縦横無尽にボールが走り、つい無心で見入ってしまう。展示中央の球体モニターは時時刻刻と表情を変える。こちらも見ていて飽きない。

  • 神戸製鋼所の展示ブース

ここでは紹介しきれないが、パビリオンの中には新交通システムやサイバー空間とフィジカル空間を組み合わせたエネルギー創造など、人々と地球の進化を体験できる展示が並んでいる。現地でSociety 5.0を体験し、いずれ訪れる未来に考えを巡らせてみてはいかがだろうか。