千葉大学、静岡県立農林環境専門職大学、弘前大学の3者は3月10日、「陸奥」や「弘大みさき」など、遺伝的に赤く着色しない青リンゴにも赤くなる仕組みが備わっていること、またその“赤くなりやすさ”の遺伝的な仕組みは品種ごとに多様であることを発見したと共同で発表した。

  • 青りんごの栽培方法による色の違い

    陸奥は遺伝的に本来は青りんご(中央)だが、幼果の時に果実袋をつけて栽培するといったん白くなり(左)、収穫の前に太陽光を当てることで赤くなる(右)。(出所:千葉大プレスリリースPDF)

同成果は、千葉大大学院 園芸学研究院の齋藤隆德准教授、静岡県立農林環境専門職大の森口卓哉教授(研究当時、2024年3月定年退職)、弘前大 農学生命科学部の林田大志助教らの共同研究チームによるもの。詳細は、園芸作物に関する全般を扱う学術誌「Scientia Horticulturae」に掲載された。

目に良いことなどが知られるフラボノイドかつ抗酸化物質である「アントシアニン」は、天然の色素でもあり、ブドウや各種ベリー類、アカキャベツなどに多く含まれ、赤や紫、青色など彩る役目を果たす。その彩りを有する代表的な果物の1つがリンゴであり、その果皮はアントシアニンが蓄積することで赤く色づくことが知られている。アントシアニンがリンゴの果皮に蓄積するかどうかは遺伝的に決まっており、果皮が赤くなるには、両親のどちらかから遺伝子「MdMYB1-1」を受け継ぐ必要がある。その一方で、「MdMYB1-2」や「MdMYB1-3」など、その他の「対立遺伝子」しか持たない場合には青リンゴになる。遺伝子の多くは両親それぞれに由来する2組で一対の組み合わせとなっていて、対立遺伝子とは、その一対となる遺伝子セットのそれぞれのことを指す。

ところが不思議なことに、MdMYB1-1を持たないため、陸奥や弘大みさきなどのように、遺伝的には青リンゴであるはずの一部の品種において、幼果の時に果実袋をつけて暗黒下で栽培し、収穫期の直前に太陽光を当てると赤くなるものが存在する。しかし、この現象がどのようなメカニズムによって生じているのかは未解明であり、また陸奥や弘大みさき以外の青リンゴ品種でも同じ現象が生じるのかについても不明であった。そこで研究チームは今回、その2点を解明するための研究を進めたという。

  • 今回の研究背景の概略図

    今回の研究背景の概略図(出所:千葉大プレスリリースPDF)

今回の研究ではまず、さまざまな青リンゴ品種の果実袋への反応性の比較から行われた。実験の結果、陸奥や弘大みさきほどではないものの、「王林」や「金星」といった品種でも赤くなることが確認された一方、「ゴールデンデリシャス」や「トキ」といった品種ではわずかに赤くなるものの、陸奥や弘大みさきのように鮮やかには色づかなかったという。この事実から、果実袋により果皮が赤くなる可能性があるものの、その反応性は品種によって異なることが明らかになった。

  • 青りんご品種ごとの果実袋に対する反応性の違い

    青りんご品種ごとの果実袋に対する反応性の違い(出所:千葉大プレスリリースPDF)

また今回の研究では、本来は発現しないはずのMdMYB1-2MdMYB1-3が発現することが確認されたことから、青リンゴであっても赤くなる仕組みが本来は備わっていることが突き止められた。これは、MdMYB1-1を持っていなくても、眠った状態のMdMYB1-2MdMYB1-3のスイッチが果実袋によってONになることで、赤く色づくことが示されているという。

しかし、この現象は突然変異のようにDNA情報が変化するわけではないため、眠った状態のMdMYB1-2MdMYB1-3のスイッチがどのようにONになるのか、という新たな疑問が生じた。そこで研究チームは、DNAの化学構造の変化である「メチル化」に焦点を当てたとのこと。DNAのメチル化とは、DNAを構成する4つの塩基にメチル基が付加されることを指す。特に、4種類の塩基のうちの「シトシン」がメチル化されることが多く、そうなるとDNAの情報を読み取れなくなるため、一時的に遺伝子の発現が抑制されるという仕組みだ。そしてこのメチル化に関する分析の結果、陸奥におけるMdMYB1-2MdMYB1-3のDNAの一部で、果実袋によりDNAのメチル化が低下することで、MdMYB1-2MdMYB1-3遺伝子が目覚めることが発見された。

  • 果実袋をつけていた日数、果実の色とDNAのメチル化の関係

    果実袋をつけていた日数、果実の色とDNAのメチル化(MYB1-2MdMYB1-3の転写調節領域内)の関係(出所:千葉大プレスリリースPDF)

今回の研究では、リンゴの品種ごとの“赤くなりやすさ”の違いが解明された。さらに、遺伝子組換えや薬剤に頼らずに、役に立っていないと思われてきた遺伝子を目覚めさせるメカニズムも、DNAレベルで解明された。もっとも、このメカニズムは陸奥でのみ特定されたものに過ぎず、依然として「品種を超えて青リンゴが色づくスイッチがあるのか?」という疑問は残されている。研究チームは今後この疑問を解明することで、これまでは眠っているとみなされており、その役割が見過ごされてきた遺伝子を活用し、新たな赤いリンゴ品種の開発が期待できるとしている。