
金利上昇で不動産はどうなる?
「新築が続々供給される時代は峠を越え、すでに中古の流通が取って代わっている。非常に大きなマーケットであると同時に、先々も期待ができる」と話すのは、住友不動産販売社長の青木斗益氏。
首都圏の新築マンション供給の状況を見ると、2024年の首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)新築マンションの供給戸数は前年比14%減の2万3003万戸(不動産経済研究所調べ)。20年ほど前には9万戸前後を供給していたことを考えると大きく減少。
ただ、「世界の大都市の中でも、これだけ新築が売れる市場はなかった」(青木氏)。過去は新築を好む日本の国民性が強く表れていた形だが、ある意味で正常化したという見方も強い。
高齢化が進む日本では、郊外の戸建てから、駅近の中古マンションに移り住むというニーズも強い他、大規模開発やタワーマンションを建設できる立地が減少し、立地のいい中古マンションが新築マンション以上に求められる局面も増えている。
足元では日本銀行による利上げで、住宅ローン金利負担が増すことを懸念して、住宅市場が冷え込むのではないか?という懸念の声も上がる。青木氏はどう見ているのか。「金利だけが上がる世界は考えづらい。金利が上がるということは景気がよくなり、デフレから脱却するということ。正しい姿の緩やかなインフレになっていくということではないか」と青木氏。一時的に多少の影響はあっても、景気の好転によってカバーされるのではないかとの見方。
もう1つ、気がかりなのがマンション価格の高騰。不動産経済研究所によると、24年の首都圏の平均価格は7820万円、東京23区で1億1181万円。都心6区(千代田区・中央区・港区・新宿区・文京区・渋谷区)だけを取り出すと1億7000万円を超える。
この状況については「需給のバランス。首都圏、関西圏など大都市圏の人口が急減するといったことがなければ、大きくは変わらない。購入者の多くは夫婦共働きの『パワーカップル』で、実需に支えられている」
かつては世帯主1人が「1馬力」で購入していたが、今は共働きの「2馬力」で購入する形に変化したことで、価格上昇にも付いていけているということ。
苦情の多かった チラシ投函を全廃
この数年、住友不動産販売は業界の慣習を変えるような改革に取り組んできた。その1つが21年に本格導入した「ステップオークション」。
不動産の売却を希望する顧客に、DXを活用して、入札方式で業者の買い取り価格を提示する仕組み。従来の業者買い取りは、顧客が不動産業者に仲介を依頼すると、その業者が地元の業者に電話やFAXなどで物件を紹介する形だった。
売り主からは、以前より高い買い取り金額で成約することから好評を得ている。直近も例えば、ある相続案件で売り主が宅建業者に相談したところ、1億数千万円という価格が提示された。その売り主に対して、住友不動産販売が提案してステップオークションにかけたところ、2億数千万円で買い主が表れた。
だが、未だに本格的に追随する大手は出てきていない。なぜか。青木氏は「従来の慣習を拭い去れず、新しいことにチャレンジするのが難しいのではないか」と見る。自分達の望む価格でなく、最高値で購入しなければならないオークション方式への抵抗感もあると見られる。
他にも、ポストによく投函されている「マンションを売りませんか」といったチラシやダイレクトメールも全廃し、ネット広告に切り替えた。「チラシ、ダイレクトメールに対する苦情は多かった。目先の数字は一時的に落ちても、長期的視点で全廃しなければいけないと考えた」
営業担当者からすると、苦情はなくなり、チラシを撒いていた分の時間を顧客への対応に割けるようになった。
しかし、業界の「当たり前」だっただけに、改革に対しては社内からも「業績が落ちるのではないか」などといった抵抗も強かった。しかし「これが本来あるべき仲介の道」として実行。結果、新しい仕組みの中でも営業数字が上がるとわかると、社内には納得感が広がった。
不動産取引の世界では「囲い込み」(売主・買主の双方から仲介手数料を受け取るため、わざと売却活動を制限する行為)が問題視されてきたが、国土交通省も厳しい通達を出している。一連の改革は、不動産取引の〝透明化〟に向けた取り組み。
住友不動産販売は25年4月、社名を「住友不動産ステップ」に変更する。会社設立50周年を機に、仲介ブランドである「ステップ」と社名を統一させる形。
「これまでも取り組んできた『お客様本位』に原点回帰する狙いがある。会社の都合ではなく、お客様に喜んでいただくことで我々の会社が成り立っていることを忘れてはいけない」
青木氏は今も社内に「今の出来高が100とすると、それを150にしていくために自己変革を」と訴えるとともに、「改革の余地はまだある」と話す。
都心部に一等地を持っていた他の財閥系不動産と違い、地盤を持たなかった住友不動産は、地道に土地をつくり、ビルを開発してきた。そのDNAが、不動産仲介にも生きている。
DXを活用し、顧客の利便性を高める仕組みづくりに向け、常に知恵を絞る。