ソフトバンクグループ傘下の半導体IPベンダであるArmが、独自の半導体チップを開発、発売する準備を進めており、その最初の顧客が米Meta Platformsになる見込みだと、英Financial Timesなどが報じている

それらの報道によると、Armは早ければ2025年の夏に最初の半導体チップとして、大規模データセンターのサーバ向けにカスタマイズされた先端プロセスを採用したCPUを発表する可能性があるという。製造はTSMCが担当すると見られているが、ArmやTSMCはこれらの報道に対するコメントを避けているという。

Armは従来、一般的に命令セットと呼ばれる技術とコア設計のみを顧客にライセンス供与するビジネスモデルを採用してきており、顧客は購入したそれらのIPを用いて自身で半導体チップの開発を行ってきた。しかし、今回取りざたされているArmの新たな戦略は、そうしたこれまで同社のIPを購入してきた既存顧客と直接競合することになる可能性が高い。

ロイターによると、Armは自社の半導体チップ開発・製造プロジェクトの推進に向け、自社のIPライセンス提供先企業(=顧客企業)から幹部社員を採用する動きを見せているという。今回の報道に先だつ2024年9月、ArmがIntelのプロダクト部門(CPUなどの製品を企画・設計する部門、製造を担うIntel Foundryは別部門)の買収をIntelに申し入れたものの、最終的には断られたと米国メディアが伝えていた。

また、2024年12月までArmはライセンス料をめぐってQualcommと法廷闘争を繰り広げていた。法廷にてQualcommは、Armが厳密に技術プロバイダーとして機能するのではなく、独自の半導体チップを設計することで自社の顧客と競争しようとしていると非難。Armは、法廷でこれらの主張を否定していたが、今回の報道が事実であれば、水面下ではその実現に向けた準備を進めていたということとなる。

半導体業界の情報筋からは、BroadcomがArmおよびソフトバンクグループと共同で、ソフトバンクのデータセンター向けに設計されたカスタムAIチップを開発する契約を獲得したという話も漏れ伝わるが、真偽のほどは不明である。

Financial Timesは「7000億ドル規模の半導体業界における勢力バランスを一変させ、Armは大手顧客の一部と競合するようになる可能性もある」と指摘している。また、ロイターも「Armの設計技術に依存してきた企業は、今後、同社と事業を争うことになりかねず、同社を競争相手ではなく中立的な立場として長らく見てきた業界に一石を投じる可能性がある」と指摘している。

ソフトバンクによるAI半導体生産計画の一環か?

Armの親会社であるソフトバンクグループの孫正義 会長兼社長は、AIのための大規模なインフラネットワークを構築する計画の中心にArmを据えている模様である。計画を知る関係者によると、Armの独自半導体チップの発売は「AI半導体を生産する」という孫氏の大規模な計画のほんの一部に過ぎないという。孫氏は2025年1月にOpenAIと共同でアメリカに新しいAIインフラを構築する「Stargate」プロジェクトを発表したが、そのStargateの主要技術パートナーとして、ArmはMicrosoftやNVIDIAと共に名を連ねている。