パナソニック ホールディングス(HD)は2月14日、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)のパビリオン「ノモの国」を報道陣に初公開した。12日に完成したばかりで、光や映像、音、空気などの同社の技術をフル活用し、子どもたちの感性を刺激する体験型のパビリオンとなっている。
14日の体験会に登壇したパナソニックHD 関西渉外・万博推進担当参与の小川理子氏は「大人たちが真剣に考えて作り出したパビリオンを、次世代を担う子どもたちに体験してほしい」と語った。
同社のパビリオンは、子どもだけでなく大人もワクワクできるような空間だった。30分間の非日常体験ができる「Unlock体験エリア(922㎡)」と、未来社会のアイデアを具現化した展示エリア「大地(165㎡)」で構成されており、同社が開発する最先端の技術がふんだんに活用されている。本稿ではその内部をお届けしよう。
【動画】パナソニックが公開した「ノモの国」
30分間の非日常体験、「Unlock」エリアで想像力を開放
ノモの国のUnlock体験エリアは、4つのエリア「ZONE1:カガミイケの奥深く」「ZONE2:ノモの森」「ZONE3:古木の谷」「ZONE4:大空へ」で構成されている。立体音響システムや360度映像システム、振動や風によるハプティクスなど光・映像・音・空気に関する技術を活用し、クロスモーダル(感覚複合的)に感覚が研ぎ澄まされる体験を実現している。
「ZONE1:カガミイケの奥深く」では、部屋の設置場所に合わせて最適な音質に調整する「Space Tune」を応用した技術や、Technicsの高音質スピーカーで構成された23.4チャンネルの立体音響サウンドシステム、高輝度プロジェクターなどを活用。振動や映像で五感を刺激することで、体験者が普段意識しない感覚を呼び覚すのが狙いだという。
「Unlock体験エリア」で肝になるのが無線タグ(RFID)を埋め込んだ「結晶デバイス」。この結晶を使って、さまざまな体験ができる。
例えば、「ZONE2:ノモの森」では、結晶デバイスを岩や木を表現した展示物にかざすとそれぞれが呼応し、音や光を発する。また、6台のカメラが設置されており、無線タグとカメラの情報から、体験者の行動を分析する仕組みだ。
次の「ZONE3:古木の谷」の展示空間にある17本の古木にはそれぞれ透明OLEDディスプレイや表情を解析するための4台のカメラが内蔵されており、結晶デバイスをかざすと、表情分析を行い、ZONE2での行動データを「感性モデル」で分析する。一人ひとりの個性や特性を反映した映像が表示される。
ZONE3には、2流体ノズルから生み出される極微細ミスト「シルキーファインミスト」を活用した幅7メートル×高さ3.5メートルの「滝」もある。ミストだが通っても濡れることはない。
そして「ZONE4:大空へ」は、21台の高輝度プロジェクターによって360度の空間に映像が映し出され、音と映像が立体的に連動するイマーシブシアターだ。体験者がそれぞれの結晶デバイスを指定の場所にかざし、うちわのようなデバイスをもって風を起こすと、床面に蝶が生まれ、大空へ羽ばたきながらさまざまな音を奏でる。
また、映像が照射された直径1.3メートルのボルテックスリング(ミストの渦輪)が天井の5カ所から降り注ぐ没入空間は圧巻だった。
そして体験終了後に、結晶デバイスを指定の場所へ返却すると体験結果が反映された一人ひとりの「Unlockカード」が出てくる。カードに記載されたQRコードにアクセスするとノモの国での体験を振り返ることができる仕組みだ。
未来社会のアイデアを具現化した「大地」エリア
展示エリア「大地」には、パナソニックHDの研究開発中の技術であるシアノバクテリア(光合成微生物)やペロブスカイト太陽電池、生分解性セルロースファイバー、バイオライトの技術がさまざまな形で展示されている。
実際に手で触れたり、匂いを嗅いだりする直感的な体験を通じて、人と自然がお互いの可能性を広げる未来を体感する機会を提供するのが狙いだという。
例えばペロブスカイト太陽電池の展示では、体験者がライトを手に持ってジオラマで表現した街に電力を供給することができる。
パビリオンの延べ床面積は約1732平方メートル。建築工事では、使用済み家電製品から回収した鉄やガラスなどを活用した。「モノとココロは映し鏡」との考え方から「モノ」を逆さまにして「ノモの国」と名付けたとのことだ。
特に目を引くのはパビリオン施設の外観だ。8の字形の鉄製フレームを組み合わせたファサードに約750枚の薄い膜を取り付けている。膜の素材は舞台衣装などに用いる半透明のオーガンジー生地に、金属スパッタリング加工を施したもの。万博会場は海側から常に風が吹いており、薄い膜は風を受けて絶えず形が変化する。
同パビリオンの外装設計などを手掛けた建築家の永山祐子氏は「風で揺らめいた時に表情が変わるため、ファサード全体では二度と同じ形が現れない。生物のように形が変容する外観を目指した。パビリオンをこれからどんどん成長する子どもと同じような存在にしていきたい」と述べた。