大阪大学(阪大)、久留米大学、東京大学(東大)、国立天文台、東北大学の5者は2月14日、国立天文台のスーパーコンピュータ「アテルイII」(2024年8月に運用を終了)などのスーパーコンピュータを用いて、ガスを食べて成長中の原始星の大規模シミュレーションを実施したところ、原始星がどんどんと回転の勢いを弱めていく新機構「スピンダウン機構」を発見したと発表した。

  • 強い磁場をもつ原始星が円盤ガスと相互作用する様子

    シミュレーションで捉えられた、強い磁場をもつ原始星が円盤ガスと相互作用する様子。(c) 髙棹真介(出所:国立天文台 CfCA Webサイト)

同成果は、阪大大学院 理学研究科の髙棹真介助教、久留米大の國友正信講師、東大の鈴木建教授、国立天文台の岩﨑一成助教、東北大大学院 理学研究科の富田賢吾准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。

星は、星間ガスが重力によって集まることにより誕生する。このようにして誕生した原始星は、周囲の原始惑星系円盤からガスを取り込みながら成長していく。円盤のガスは回転しているため、原始星はガスを取り込むほど質量と同時に角運動量も増大する。さらに、原始星は輝き始めると熱を放出して徐々に収縮していく。これら、角運動量の増加と、原始星の収縮という2つの効果が合わさると、原始星は自転速度を増していき、そのままだといつかは遠心力と重力が釣り合って星の構造を維持できなくなるはずである。

しかし、原始星より少し成長した段階の星である古典的「Tタウリ型星」の観測から、星の構造を維持できなくなる限界に対し、10分の1程度の速度でしか自転していないことが確認されている。これは「原始星スピンダウン問題」と呼ばれ、原始星が緩やかに自転している理由は、星形成論における長年の謎となっていた。

解決の鍵と目されているのが、原始星の磁場と円盤ガスの相互作用だ。原始星は、現在の太陽よりもはるかに強い磁場を持っていると考えられている。原始星の磁場は、自転する原始星と共に回転する。原始星の磁場とガスは強く結合しているため、回転する原始星磁場はガスを振り回して吹き飛ばす。この時磁場は原始星の角運動量をガスに伝えるため、この効果が原始星の高速回転を防ぐと考えられてきたという。

しかし、原始星はガスを吹き飛ばすよりも激しいペースで周囲のガスを取り込んで成長する。それにもかかわらず、原始星がどのようにして自身の角運動量を減速させているのか、依然として解明されていない。また、磁場による原始星と円盤の相互作用は複雑なガスの動きを伴うため、従来の研究では詳しいメカニズムは不明だった。そこで研究チームは今回、太陽の原始星に注目し、大規模シミュレーションを用いて「原始星スピンダウン問題」の解明に挑んだという。

研究チームでは、強い磁場を持って自転している原始星が、磁場を通じて円盤ガスと相互作用しているシミュレーション結果の一部を2022年に発表していた。そこで今回の研究では、スピンダウン機構を明らかにするため、シミュレーションデータのさらなる詳細な解析を行ったとする。

その結果、まず回転する原始星の磁場が円盤ガスの一部を振り回して吹き飛ばし、星の角運動量を奪う様子が確認された。この結果は以前から予想されていたものの、過去の理論モデルには多くの不定パラメータが含まれており、角運動量の引き抜き率に関して定量的な議論が困難だったという。しかし、今回の大規模シミュレーションにより、乱流を通じて円盤ガスが原始星磁場に供給されるメカニズムが判明。回転する原始星磁場によって巻き上げられる円盤ガスが角運動量を奪う過程を、理論的に記述できるようになったとした。

  • 原始星と円盤をつなぐ磁場が、原始星に食べられる前のガスから効率的に角運動量を抜き取っている様子

    原始星と円盤をつなぐ磁場が、原始星に食べられる前のガスから効率的に角運動量を抜き取っている様子。(左・中央)アテルイIIによるシミュレーション。(右)模式図。原始星磁場と円盤ガスの磁場がつながり、スパイラル状の磁場ができる(オレンジ色の線)。この磁場に沿って原始星に近づくガスが、磁場を通じて角運動量を円盤ガスへ受け渡す。このようにして角運動量を失ったガスを原始星が食べることで、原始星の角運動量が低く抑えられる。(c) 髙棹真介(出所:阪大プレスリリースPDF)

さらに、円盤磁場は原始星がガスを取り込む前に、ガスから効率的に角運動量を奪うことも突き止めることに成功。円盤磁場が原始星磁場とつながることで、原始星は角運動量が失ったガスを取り込むことになる。回転する原始星は、重いガスを自分の磁場で振り回すことになるため、原始星自身が角運動量を失う様子も示されたという。

これまで、原始星は取り込んだガスから多くの角運動量を受け取ってしまうというのが通説だったため、原始星スピンダウン問題は未解決のままだった。しかし今回の研究で、原始星への角運動量の流入が抑制された結果、回転する原始星磁場が円盤ガスを巻き上げて角運動量を奪う効果が顕著になり、原始星は高速回転を回避できる可能性が示唆された。星の自転は、星の内部構造や惑星が誕生する場である円盤の進化にも影響を与えることから、研究チームは今回の成果について、原始星の自転進化に関する理解を大きく進展させたといえ、それらについての研究も進展することが期待されるとしている。