富士キメラ総研が発行した「2025 化合物半導体関連市場の現状と将来展望」によると、化合物半導体市場はスイッチングスピードの速さや高い耐圧性などの特性により、シリコン半導体よりも搭載機器の性能アップ、低消費電力、エネルギーロス低減などが可能なことから採用が活発化しており、その結果、2024年の市場規模は前年比10.6%増の4兆4584億円となる見込みだという。また、今後も成長が続き、2031年には2023年比で98.3%増となる7兆9920億円まで成長することが予測されるという。

ウェアラブルへの採用で成長が期待されるMicroLED

中でも光半導体に位置づけられるMiniLED(ミニからファインピッチまでの微小チップを採用した製品を対象)は、バックライトユニット向けは、LEDパッケージメーカーがすでにPCB(Printed Circuit Board)を製品化・量産化するなど価格競争が進んでおり、今後、テレビやPCモニターなどでの採用の増加が期待されるものの、単価の下落により市場の伸びは鈍化するとみられ、メーカーは曲面などを含む車載ディスプレイなど、より高付加価値な分野に注力する動きを見せている。一方のLEDディスプレイ向けは、2023年にコントロールセンターパネルやシアターモニター、会議室モニター、商業施設などでのインフォメーションモニター、xRスタジオなど、屋内向けが堅調に伸びたほか、中国における高精細LEDディスプレイに対する省・市政府の補助金政策などもあり市場が拡大。2024年以降も堅調な拡大が予想されるとしている。

また、MiniLEDよりも小型のMicroLED(チップサイズが一辺50μm以下、もしくは両辺が100μm以下の、ベース基板が剥離された製品を対象)の市場は、限定的ながらもTVやLEDディスプレイなど大型ディスプレイで採用されつつあるが、本格的な普及に向けて、製造プロセスの改善やデバイス・モジュール設計の見直し、メンテナンス面での工夫など、解決すべき課題はあると指摘している。しかし、中国ではLEDメーカーとディスプレイメーカーの共同開発・提携、政府による公的補助や市場促進政策を背景とした旺盛な開発・生産投資によって価格下落が進んでおり、コスト面の課題は解消されつつあることから、将来的にはTVやLEDディスプレイに加えて、ウェアラブルデバイスでの採用が期待されるとしており、特にスマートグラスは光効率や輝度の観点からMicroLEDが本命と見られ、採用の増加が市場拡大に寄与するとみられるという。そのため、MicroLEDの2031年における市場規模は2023年比で369.2倍となる9600億円まで拡大することが予想されるという。

  • MiniLEDとMicroLEDの市場推移予測

    MiniLEDとMicroLEDの市場推移予測 (出所:富士キメラ総研)

6Gインフラ投資での成長が期待されるRF半導体

RF半導体、いわゆる高周波半導体はワイヤレス通信機器には欠かせない存在で、その市場のけん引役はスマートフォン(スマホ)をはじめとするモバイル機器向けパワーアンプ(PA)に搭載されるGaAs RF半導体で、今後もPAの搭載数が多いとされる5G端末の普及に伴い、成長が続くことが期待されるという。

また、高い成長が期待されているGaN on SiC RF半導体は、基地局のアンテナとRFが一体化したMassive MIMOに搭載されるGaN PAモジュールに採用されており、2024年の段階ではアンテナ1本につき32個のPAモジュールが搭載されたタイプが中心だが、長期的には64個以上のPAモジュールを搭載したアンテナが増えるとみられ、需要の増加が期待されるという。ただし、一部の参入メーカーが製品のコストダウンに向けてセラミックパッケージから樹脂パッケージへの移行を検討している模様で、単価が低下することが予想されることから、市場の伸びは緩やかになるとみられるともしている。

さらに、2028年ごろからは次世代となる6Gに向けたインフラ投資が進むとみられるとしており、特に基地局向け半導体は周波数や電力の兼ね合いからシリコン系から化合物系へと移行することが期待され、RF半導体の拡大につながる可能性が高いとみられるという。この6Gでは、100GHz、100W以上の周波数帯の採用が検討されており、新たにInP RF半導体の活用に期待がかかるとのことで、こうした5Gの普及、6Gへの投資が進むことで、RF半導体市場は2024年に1兆6784億円が見込まれるが、2031年には2023年比87.2%増となる2兆7216億円まで成長することが予想されるとしている。

市場での活用が期待される究極のパワー半導体

このほか、同調査レポートではまだ市場が形成されていないが、各所で研究開発が進み、実用化への期待が高まっているダイヤモンド半導体の基板についても調査が行われており、その結果、商用化は2026年以降に進むことが期待されるとしている。

もっとも開発が進んでいる用途は放射線センサで、用途として注目されるのはデータセンターだとしている。データセンターでは冷却に空冷や液冷が用いられているが、ダイヤモンド半導体はGaNやSiCに比べても耐熱性や放熱性に優れているため、冷却方式に依存しない新たな熱対策の検討を目的として注目するメーカーが増えてくる可能性があるという。

そのため、2024年にはその市場規模はごくわずかであったものが、2031年には469億円ほどまで成長すると予測されるという。

化合物ウェハ市場も成長

化合物半導体市場の成長に伴い、それぞれの化合物半導体ウェハ市場の成長も期待されるという。SiCウェハは電気自動車(EV)の需要鈍化と競争激化に伴う単価下落の影響を受けているが、2024年の化合物半導体ウェハ市場全体としては、GaAsおよびGaNウェハが伸びており、市場規模は前年比9.9%増の4453億円と見込まれるほか、今後もSiCのほか、GaAsのPA需要の高まりやVCSELのセンサ用途なども進むため、2031年には2023年比2.3倍の9425億円まで成長することが予測されるという。

なお、AlN、ダイヤモンド、Ga2O3(酸化ガリウム)など、次世代の化合物半導体材料の商用化にあたっては大口径化が必要であり、それにより市場の拡大が期待されるようになると指摘している。