国立科学博物館(科博)と鹿児島大学は2月13日、皇居外苑の北の丸公園(皇居外苑北の丸地区)にて採取した淡水産紅藻カワモズク科の1種が形態観察と遺伝子解析から新種であることを確認し、「Sheathia yedoensis(和名:キタノマルカワモズク)」として記載・命名されたことを発表した。
同成果は、科博の北山太樹研究主幹(植物研究部)と鹿児島大 大学院連合農学研究科の鈴木雅大 助教によるもの。詳細は2024年11月22日付けで「国立科学博物館研究報告第50巻4号」に掲載された。
カワモズク科藻類は淡水産紅藻の一群で世界に約240種が知られ、国内には23種1変種1品種が生育しているといわれているが、その多くが生存に湧水もしくはそれに近い澄んだ水流を必要とし、近年、都市化による湧水の消失や水質汚染など絶滅の危機にさらされており、環境省のレッドリスト2020でもカワモズク科藻類は「絶滅危惧I類」として13種1変種1品種が、「絶滅危惧II類」として4種が、「準絶滅危惧」として2種が掲載されており、国内産種の大部分に絶滅のおそれがあるとされている。
皇居の生物は科博がこれまで1996年から2000年にかけて第I期調査を、2010年から2014年にかけて第II期調査を吹上御苑で総合的な動植物相調査を実施してきており、その中には淡水紅藻カワモズク科のイシカワモズク(環境省絶滅危惧I類)など、絶滅危惧種も含む12種の藻類も含まれていたという。現在、2021年から2025年にかけて第III期調査が実施されているが、その中で吹上御苑と並行して、1969年の開園以降、公園として整備が続けられ、日常的に一般公開されているなど、吹上御苑とは異なる自然環境と考えられた北の丸公園の藻類相についても調査が進められてきたという。
研究チームは2023年4月14日、初めて北の丸公園の藻類相の調査を実施。その際、園内に人工的に設置された滝の滝つぼに、カワモズク科の胞子体世代が生育しているのを発見。具体的には、高さ4mmに達する赤茶色の毛筆のような体をしており、滝壺の底の岩盤を覆うように着生していることが確認されたという。
顕微鏡観察の結果、単列細胞の糸状体からなり、枝に単胞子嚢を形成していることが確認されるなど、藻の形態からカワモズク科の胞子体であることまでは見当がついたものの、雌雄の配偶体が見つからなかったことから種までは分からなかったため、DNA解析を行ったところ、チャイロカワモズク属(Sheathia)の未記載種であることが判明したとする。
研究チームでは、「都市化が著しい東京都心部から藻類の新種が発見されたことは驚きで、東京都で初めて新種となったカワモズク科藻類となります」とコメント。一般的なカワモズク科は清浄な水流にすむ藻のグループであり、自然な湧水や田園の小川などで見られるが、キタノマルカワモズクは北の丸公園内に整備された人工の滝から見つかったことから、「おそらく人工的に整備・管理されている滝の特殊な環境が、この藻の定着・生存に大きな役割を果たしていると考えられます」としている。
なお、キタノマルカワモズクは現在までのところ国外に分布記録がなく、日本固有種であるという。研究チームでは、2023年8月および11月、2024年4月にもキタノマルカワモズクの固体群が同じ状態で生育していることを確認したとするが、これまでに配偶体を確認できていないとしており、同種が配偶体を失った生物なのか、それとも、それとも環境条件が整えば配偶体を発生させるのか、培養実験などで見定める必要があるとしているほか、生育場所も現在判明している範囲では極めて狭小な滝壺に限られているため、生育状況について今後も定期的にモニタリングを行っていきたいとしており、吹上御苑の道灌濠に生育するイシカワモズク(環境省絶滅危惧I類)とともに清浄な水環境を示す指標生物となりうると考えられるとしている。