兵庫県立大学、徳島大学、富山県立大学の3者は2月12日、新型コロナウイルスの複製に必須な酵素「メインプロテアーゼ」(Mpro)に対する茶カテキン類の阻害効果を検討した結果、今回対象とされたカテキン類8種のうち、「エピガロカテキンガレート」(EGCG)を含む5種類が、用量依存的に組み換えウイルス酵素を阻害することが確認されたと発表した。

  • 今回の研究の概要

    今回の研究の概要(出所:共同プレスリリースPDF)

同成果は、兵庫県立大 環境人間学部の加藤陽二教授(先端食科学研究センター兼務)、同・大学 環境人間学研究科の鈴木咲子大学院生、同・大学 環境人間学部の東山明香里学部生、同・金子一郎准教授(先端食科学研究センター兼務)、徳島大大学院 医歯薬学研究部の赤川貢教授、富山県立大 工学部 生物工学科の西川美宇助教、同・生城真一教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、「Journal of Agricultural and Food Chemistry」に掲載された。

新型コロナウイルスに対しては、日々の飲食を通じた感染予防の研究が進んでいる。その候補の1つがお茶で、お茶に加えたウイルスが不活化する、ペットボトルのお茶でも感染抑制効果が見られる、などといったことが報告されている。また、EGCGなどがMproに対する阻害作用を持つことも知られているが、どのようにして阻害するのか、また感染細胞内でもMproを阻害しうるのかについての十分な知見は得られていなかったという。

まず、感染の恐れがないMproの組換体が用意され、それを用いてお茶に含まれるカテキン8種の阻害活性が調べられた。そのうち、EGCGやメチル化EGCGなど、5種のカテキンに極めて強い阻害活性が認められた一方、残りの3種については、阻害活性が弱いか、認められなかったとする。

そして、その阻害に伴ってMproにカテキン1分子あるいは2分子が結合していることが判明した。そこで、メチル化EGCGを用いて詳細に調べたところ、Mproの5か所の配列にメチル化EGCGが結合していることが確認され、そのうちMproの活性部位(システイン145番目(C145))を含む配列に最も強いシグナルが認められたという。さらに解析を進めると、EGCGのどの部分がMproに結合しているかも明らかにされた。これらのことから研究チームは、茶カテキンにおいてウイルス酵素阻害に大きく関与している構造は、水酸基が3つ並んだ「ピロガロール基」(カテキンのB環に存在)であることを突き止めたとしている。

次に、市販のペットボトル茶10種のMproに対する阻害活性が調べられた。その結果、10種のうち緑茶8種は阻害が認められたが、麦茶やブレンド茶は認められなかった。中には、1000倍薄めても酵素活性を50%以上阻害する緑茶もあったといい、阻害に伴い、緑茶に含まれるカテキンがMproに結合していることも見出されたとした。

さらに、急須で淹れた煎茶(600倍に希釈して測定)やティーバッグの緑茶(700倍に希釈して測定)についても調べられ、いずれも緑茶成分の抽出時間が長くなると阻害活性の増加が認められ、5分後には酵素活性が15~25%程度まで低下したという。

  • ペットボトル緑茶、煎茶、ティーバッグ緑茶によるウイルスのMproの阻害

    ペットボトル茶(緑茶)、煎茶、ティーバッグ緑茶によるウイルスのMproの阻害。緑茶のペットボトル茶によりウイルス酵素が阻害され、茶の成分がMproに結合していることが示されている。急須やティーバッグで淹れた緑茶でも抽出時間と共に阻害活性が増加。(出所:共同プレスリリースPDF)

ウイルス感染細胞内で発現しているウイルス酵素に、カテキンが作用するのかどうかを調べるため、実験者の感染リスクを考慮し、「プラスミド」(小さな環状二本鎖DNA)を培養細胞に導入する「トランスフェクション法」を用いたとする。培養細胞にウイルス由来のMproの遺伝子が導入され、過剰発現させた上で、ウイルス酵素を発現させた培養細胞にEGCGを1時間作用させ、その後に細胞内タンパク質成分が回収された。その後EGCGが結合しているタンパク質を調べた結果、Mproが含まれていることが判明。また、C145をアラニンに変えた変異型酵素の遺伝子をトランスフェクションした細胞を用いた実験では、天然のウイルス由来の酵素(野生型)に対し、細胞内におけるEGCG修飾が約25%少ないことが明らかにされた。このことから、細胞内でも酵素の活性部位にEGCGが優先的に反応していることが示唆されたとする。

  • 細胞外から作用させたEGCGが、細胞内で発現しているMproと結合

    細胞外から作用させたEGCGが、細胞内で発現しているMproと結合。野生型(天然に存在しているウイルス酵素の遺伝子と同じ)に比べて、変異型(ウイルス酵素の活性部位に存在するC145をアラニンに変化させて活性を発現できなくしたもの)では、カテキンによる結合量が減少。細胞内でカテキンがMproの活性部位に結合して酵素を阻害することが示されている。(出所:共同プレスリリースPDF)

今回の研究ではカテキンによる効果が確認されたが、体内では、カテキンのみならず、多くの食品由来成分が素早く分解・代謝されてしまう。感染者の体内でカテキンのような食品由来成分がウイルス酵素阻害作用を発揮できるのかについては、今後の課題とした。製薬会社によってデザインされた新型コロナウイルスのMproを標的とした治療薬とは異なり、カテキンはウイルス酵素のみを阻害することは考えにくいとする。細胞内では、さまざまな標的と相互作用することが予想されるといい、緑茶の健康効果は大きく期待されているところだが、その生物作用について研究チームはさらなる研究が必要としている。