東京大学大学院と新日本電工は共同で、世界最薄という薄さ48マイクロメートルの超薄型テラヘルツ波吸収フィルムを開発したと1月31日に発表。6G用アンテナカバー(レドーム)や基板のほか、非接触バイタルモニタや品質検査、危険物検知などの各種システム、電波望遠鏡、道路など各種インフラで利用が期待される。
テラヘルツ波を無線通信などの用途で利用するには、情報セキュリティの確保や電磁波干渉の回避、通信精度やセンシング感度の向上などのために不要な電磁波ノイズを吸収する必要がある。しかし、これまで0.3THz(300GHz)以上のテラヘルツ波吸収フィルムは実用化されていないという。
東京大学大学院の研究グループと新日本電工の共同研究チームは、導電性のラムダ型五酸化三チタン(λ-Ti3O5)の表面を、絶縁性酸化チタン(TiO2)ナノ粒子で被覆した表面コート型ラムダ型五酸化三チタンを合成。0.1〜1THzのテラヘルツ波領域における、新たな高性能テラヘルツ波吸収材料を開発した。
この材料を、テラヘルツ時間領域分光法によって測定したところ、0.1〜1THzの範囲で0.76という高い誘電正接(誘電体に交流電場を加えた際、そのエネルギーの一部が熱として失われる現象のこと。最大値は1)を示したとのこと。
さらに、理論的計算をもとに超薄型テラヘルツ波吸収フィルムを開発して測定すると、薄さ48マイクロメートルでは0.77THzで−28dBの反射損失(99.8%吸収に相当)を示したという。研究チームは「このような0.1〜1THzの帯域のテラヘルツ波吸収フィルムはこれまで報告されておらず、世界最薄」だと報告している。
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金属基板上に形成された、表面コート型ラムダ型五酸化三チタンからなるフィルムの反射損失スペクトル(上)。下は、シミュレーションによって得られた厚みと周波数に対する反射損失の等高線図と、実際に観測された厚みと吸収ピーク周波数のプロット(丸)
今回開発したフィルムは、耐熱性や耐光性、耐水性、耐有機溶剤性も備えており、屋外環境や過酷な条件下でも使えるとする。量産コストは吸収フィルム1平方メートルあたり数百円程度で量産も可能としており、チタン原子と酸素原子からなる環境に優しい材料のため、持続可能な開発目標(SDGs)の観点にも合致した材料だという。
開発背景として、0.1〜1THzのテラヘルツ波は、無線通信の高速化や大容量化、低遅延化、複数デバイスの同時接続を実現でき、第6世代移動通信システム(6G)利用においては0.1〜0.45THzのテラヘルツ波がキャリアになることが期待される。また、非接触バイタルモニタリングシステム、断層イメージングによる品質検査スキャニングシステム、危険物検知のためのセキュリティセンシング技術の開発が進められているほか、0.95THzまでのテラヘルツ波を利用した天体望遠鏡は、銀河や宇宙の観測にも寄与しているとのこと。