半導体市場動向調査会社の仏Yole Intelligenceが発行した調査レポート「自動車業界における半導体トレンド」によると、車載半導体市場は、2023年から2029年の間に年平均成長率(CAGR)11%で成長し、2029年にはおよそ1000億ドルに達する規模にまで成長すると予想されるという。
このうち、ADASと安全機能がCAGR14%ともっとも伸びるほか、電動化もCAGR13%とけん引役を担うとしている。欧州では電動化の成長が鈍っているが、中国は依然として活発に伸びているという。
また、インフォテインメントおよびコネクティビティはCAGR9.3%、シャーシーとボディはCAGR3%で、これらすべてを総合した結果の車載半導体市場のCAGRは11%と予測されるという。
Yole Groupの車載用半導体担当シニアテクノロジー&マーケットアナリストのピエリック・ブーレイ氏は、「2023年では自動車1台あたり約590ドルの半導体デバイスが搭載されたが、これが2029年には1台あたり約1000ドルに増加する見込みだ」と説明している。
自動車産業は現在、「ACES(Autonomous driving、Connectivity、Electrification、Sharing Mobility。日本ではCASEと呼ばれることが多い)」と呼ばれる2050年に向けた4つのメガトレンドがあり、Yoleではその中でもADASと電動化のトレンドに焦点を当てており、例えばパワーデバイスでは、電気自動車(BEV)への注目が高まるにつれ、効率的な電力変換に不可欠なSiC MOSFETモジュールの需要が高まっている。BEVの成長は現在、鈍化傾向にあるが、ハイブリッド関連は伸長しており、それらを含めて高度なパワーエレクトロニクスに依存している。また、マイコンは16nmおよび10nmプロセス品がレーザーやセンサの高度化が進むADASで活用されるようになるなど、ドメインおよびゾーンコントローラに向けたE/Eアーキテクチャの進化により、マイコンの総数は減少する一方で、高性能品の需要は高まりを見せているとする。加えて、レベル3を超す高レベルの自動運転を実現するには、より大きなメモリ容量と強化されたプロセッサによる計算能力が必要になるともしている。
OEM各社が半導体の上流に進出
電動化に関しては、OEM間で垂直統合が浸透しつつあり、コンポーネントレベルまでの完全な統合、下請けのビルドツープリント部品とのシステム統合、戦略的パートナーシップ、主要コンポーネントサプライヤへの直接投資など、さまざまな取り組みが進んでいる。中でもパワーエレクトロニクスは多くのOEMが直接投資、合弁事業、または少数持ち株などで囲い込みを進めている。また、ADASやコックピットアプリケーション、複合アプリケーション向け高性能SoCも、マルチコア統合に重点を置いたファブレス企業として運営されている一部の新興EV OEMにとっては重要な差別化要因となっている。このほか、将来のE/Eアーキテクチャ向けマイコンも、ファブレス企業への直接投資、製品定義のための合弁事業、ファウンドリにおける公認製造能力の確保など、さまざまな戦略をOEMが採用し始めており、特に中国系OEMの多くが米中の対立やコロナ禍の半導体不足の経験から、半導体への投資に強い関心を示しているという。
そうした中国勢の動きの背景には、中国政府が2025年までに車載半導体デバイスの25%を国内で調達するという目標を掲げるなど、国内の車載半導体産業の発展を重視していることが挙げられる。
自動車を取り巻く電動化のトレンド
電動化におけるトレンドの1つであるシステム統合については、OEMとTier 1サプライヤの双方がさまざまなアプローチを採用しているパワートレインドメインコントローラに向けたオールインワンソリューションとして、e-アクスルとその他のパワーユニット(OBC、DC/DC、PDU)を組み合わせることなども進められている。
800V化も高出力充電のメリットから注目が高まっており、軽量BEVにおける800Vの普及率は、2030年までに30% に達することが予想されている。SiCは800Vに適したパワーデバイスであり、インバータだけでなく、OBC、DC/DC、A/Cコンプレッサ、さらにはDC充電器などのさまざまな用途にも応用されるようになっている。
加えて、ADASの進化は、安全規制とOEMのより高いレベルの自律性を実現したいという要望の両方が推進役となり、急速に加速している。その中心となるADASセンサにはさまざまな形式があり、主に光学カメラ、レーダー、LiDAR、超音波などが活用されている。また、これらのセンサからストリーミングされるデータ量も増加しており、それを高速に処理するためには高性能なプロセッサが必要である。必要な計算能力は、タスクの高度さ、センサ数、センサ解像度、状況の複雑さ、必要な冗長性のレベルによって異なるが、総じてこれまでよりも高いものが要求されることとなっている。
このほか、自動車設計におけるパラダイムシフトと評されるソフトウェア定義車両(SDV)への進化は、電気/電子(E/E)アーキテクチャの変革と密接に関係しており、分散システムの制限への対処のために、OEMは、より少数の高性能なECUに機能を集中させ始めている。また、中国のOEMたちが、さまざまな種類の半導体に幅広く投資を行い、上流のサプライチェーンに深く関与している点は注視すべきだとYoleでは指摘している。
なお、YoleはOEMに向けて車載半導体専用の分析モデル「Yole Triple-C」の提供を2023年より本格展開。2024年にはモデルの拡大を行っており、世界トップ20社のOEMグループならびにNIOやXPeng、Li Autoなどの中国の大手EVスタートアップ企業が活用を進めているとしている。