ソニーピクチャーズ傘下のPixomondo(ピクソモンド) が、先端のロボットにより自動車や飛行機など移動体のリアルな動きを映像化するバーチャルプロダクション撮影技術「PXO AKIRA」を、世界最大のエレクトロニクスショー「CES」で発表した。ピクソモンドのチーフ・イノベーションオフィサーであるマムード・ラーナマ氏に全貌を聞いた。
バーチャルプロダクション撮影のスペシャリスト、Pixomondo
ピクソモンドは創立から23年にわたり、映像制作と視覚効果の技術を開発してきた。2018年以降は、3DCGを表示した大型ディスプレイの手前に配置した被写体やオブジェクトをカメラで撮影し、3DCGの背景と実写をたくみに合成するバーチャルプロダクション撮影の技術開発にも注力している。
現在は拠点を置くカナダ・トロントのほか、ロサンゼルスにロンドン、サウジアラビアのリヤドなど世界に8つのオフィスを構える。近く東京にも進出を計画しているそうだ。
同社はCES 2025のソニーブースで、最新のバーチャルプロダクション撮影技術を統合した移動体撮影システム「PXO AKIRA」(ピクソ アキラ)を発表した。AKIRAは「Advanced・Kinetics・Integrated・Robotic・Automation」の頭文字に由来しており、ロボティクスの技術が含まれていることが名称からもわかる。
技術の詳細に入る前に、ピクソモンドがYouTubeに公開した「PXO AKIRA」のコンセプトムービーを見てほしい。
PXO AKIRAを構成する「ロボット」「カメラ連携」「デジタルツイン」
PXO AKIRAはあらゆる場面設定における、移動体の撮影をかなえるオールインワン・ソリューションだ。以下、柱となる3つの主な技術がある。
まずは「モーションプラットフォーム」と呼ばれる、独自設計のロボット台座。自動車やバイクなど、プラットフォームに被写体となる移動体を載せて、リアルな動きを付けながら撮影ができる。台座の最大傾斜角度は20度、水平360度に無限回転する。
次がプログラム可能なロボットカメラとの連携システムだ。ロボットカメラはTechnodolly(テクノドリー)の製品を採用し、ピクソモンドが全体のシステム統合を図った。
そして、専用のPCソフトウェアと、ハードウェア化されたドライビングシミュレーターによるプリビジュアライゼーション・プラットフォームだ。実写撮影時に3DCGを合成した結果をリアルタイムに確認するプリビジュアライゼーションの工程で、高度なデジタルツイン環境を提供する。
「従来のバーチャルプロダクションでは、LEDウォールの前に移動体を置いて、スタッフが自動車やカメラを揺らしながらなるべくリアルな映像を撮るようなこともしていた。PXO AKIRAはプラットフォームとカメラ、ふたつのロボットでダイナミックな動きから小刻みな揺れまでリアルに再現しながら、LEDウォールに映し出される映像とリアルタイムに同期させられる。被写体や俳優の周囲にカメラを回り込ませながら撮影したり、これまで難しかった映像表現にも挑戦したりできる。さらにロボットは失敗することなく、何度も同じ動きを再現可能だ」(ラーナマ氏)
自動車から飛行機まで、さまざまな移動体撮影に対応
ソニーがCESに設けたPXO AKIRAの特設展示では、これらの移動体撮影システムをLEDウォールに表示する映像と完全に同期させて、大型四輪駆動車がダイナミックに動く映像を撮影するデモンストレーションを紹介した。
PXO AKIRAのソフトウェアはUnreal Engineをベースに開発している。設定した場所の走行条件を元に四輪駆動車のダイナミックな動きを作り込み、モーションデータをプラットフォームに送り出して正確に再現する。シミュレーターはそのクリエーション作業を補完する役割を担うものだ。クリエイターが集まって撮影前の段階で映像をプレビューしながら、細部を詰めた後に本番に挑む。
プラットフォームには最大4トンまでの重さの移動体を載せられる。ラーナマ氏は「自動車だけでなく、ヘリコプターのように空を飛ぶ移動体も、従来は全体を3DCGで再現することしかできなかった映像のリアリティをより深く追求できる」と語る。プラットフォームをゆったりと静かに動かせば、たとえば「ドラゴンの翼に乗って飛ぶ」ようなファンタジー映画に登場する移動体も再現できる。
クリエイターのアイデアをテストし、撮影当日のプランを立てながら、本番の際にかかる費用と時間のコストを試算するためのツールも、PXO AKIRAのソフトウェアに搭載されている。そもそもPXO AKIRAがあれば、撮影時に天候などの影響を受けることがなく、また撮影の“やり直し”による負担も大幅に軽減される。そのうえ制作予算の管理を効率よく行うためのツールも提供するという、クリエイターの目線に立ったピクソモンドの気配りはとてもユニークだ。ラーナマ氏は、PXO AKIRAがバーチャルプロダクションの現場にもたらす効果を次のようにまとめている。
「ブルースクリーンやグリーンスクリーン、プロセストレーラー、LEDウォールを併用した2D再生など、従来の移動体撮影が抱える課題をPXO AKIRAは解決できる。バーチャルプロダクション撮影のリアリティを高めるだけでなく、コスト面でのリスクの低減を図れることでクリエイティビティの自由度が広がる実感が得られるだろう」(ラーナマ氏)
映画やコマーシャル映像のクリエイターが関心
ピクソモンドでは、大手の映画スタジオにPXO AKIRAを試作段階から紹介した結果、長編映画やコマーシャル映像、ミュージックビデオなどを手がけるクリエイターから良いフィードバックを得たという。
たとえば、PXO AKIRAがあれば、一般公開前の新型車両を市街地で走らせるようなプロモーション映像をよりリアルに、機密情報を漏らすことなく撮影できる。ラーナマ氏は、CESの出展にも多く反響があるという。
現在はPXO AKIRAプラットフォームが世界に1台しかなく、すぐに撮影したい場合は、トロントの本社にあるスタジオにクリエイター陣が足を運ばなければならない。ラーナマ氏は「受注があれば、プラットフォームは8〜9カ月前後で納品できる」と話す。専用ソフトは必要になるが、LEDウォールやロボットアーム、シミュレーターはクリエイターが必要に応じてそろえればよい。
あるいは、システム一式を希望するスタジオに「レンタルする」というビジネスモデルも検討しているという。プラットフォームに移動体を装着する箇所はアタッチメント型のモジュールになっているため、さまざまな移動体の撮影に対応する。オーダーがあれば傾斜角度をより大きくしたり、カスタムチューニングすることもできる。
ラーナマ氏はPXO AKIRAの今後の展望として、「連動するロボットテクノロジーのソリューションをさらに拡張したい」と話している。たとえば、LEDウォールが小さいと3DCGの背景合成に限界があるが、ラーナマ氏は小さなLEDウォールを複数のロボットに持たせて、ロボットアームのカメラと協調動作をしながらダイナミックな映像が撮れるシステムプランを描いているという。
実際にPXO AKIRAを使ってクリエイターが撮影した映像が見られる機会が今から楽しみだ。