2025年1月、いよいよトランプ政権が再発足する。昨年の選挙戦の最中から、トランプ氏は中国製品への追加関税を強調するなど、中国への強硬姿勢を示してきた。それは政権人事にも反映され、例えば今後の米中貿易摩擦で主要な役割を担う通商・製造業担当の大統領上級顧問にも対中強硬派のピーター・ナバロ氏が起用された。ナバロ氏は、トランプ政権1期目で通商政策担当の大統領補佐官を務めた経験があり、ライトハイザー元通商代表とともにトランプ政権の貿易保護主義化を主導した人物である。中国外交を担う国務長官にはマルコ・ルビオ氏が、安全保障担当の大統領補佐官にはマイク・ウォルツ氏がそれぞれ起用されるが、いずれも対中強硬派の急先鋒として知られ、トランプ政権は先制的に貿易対抗策を打ち出していく可能性が高い。
では、トランプ氏はバイデン政権の4年間でエスカレートした先端半導体をめぐる覇権競争にはどう対応していくのだろうか?。
バイデン政権は3年前(2022年)の秋、AIやスーパーコンピューターなどに必要な先端半導体を中国が軍のハイテク化に転用する恐れから、同国による先端半導体の獲得、その製造に必要な材料や技術の流出などを防止するため中国への輸出規制を強化した。しかし、先端半導体分野に強い同盟国や友好国の協力がないとそれを防止できないとしたバイデン政権は2023年1月、先端半導体を製造装置で世界シェアを誇る日本とオランダに同調を呼び掛け、日本は同年7月、14nmプロセス以下の半導体製造に必要な製造装置など23品目を輸出管理の規制対象に加えた。その後、オランダも2024年9月、バイデン政権が同国の半導体製造装置大手ASMLが中国企業に販売した製品の保守点検や修理サービスを停止するよう呼び掛けたことに応じ、ASMLの2種類のDUV液浸露光装置に対する輸出許可要件を拡大し、中国向けの輸出規制を強化した。しかし、バイデン政権は依然として両国の規制レベルが自らが求める水準に達していないことに不満を抱き、韓国やドイツなど他の同盟国にも先端半導体分野における対中貿易規制を求めている。
トランプ政権は、こういったバイデン政権の方針を継承することが考えられる。トランプ氏は米国を再び偉大な国家にすることを第一に考え、そのためあらゆる分野で中国に対する優位性を確保しようとする。先端半導体は今や技術革新をめぐる米中対立の中心にあり、トランプ氏は同分野における中国排除をいっそう進めることは間違いない。そして、それを進めていく上で、トランプ氏は日本に対して同調圧力をバイデン政権以上に強めてくる恐れがある。
正直なところ、トランプ氏の日本に対するイメージは決して良いとは言えない。石破首相とトランプ氏の相性はそれほど良くないというのが大方の見方で、少数与党である石破政権がいつまで続くかは不透明であり、トランプ氏はそれを見込んで日本を優先的に位置付けていない。そして、今後の日米関係で懸念されるのが日本製鉄によるUSスチール買収問題だ。2025年早々、バイデン氏が買収を阻止する命令を下し、日米の間では1つの亀裂が生じている。石破首相はこの問題で納得できる回答を米国に迫っていく方針だが、トランプ氏もかつて偉大で強力だったUSスチールが外国企業、今回のケースでは日本製鉄に買収されることに断固として反対するとし、買収者は注意するべきだと警告した。
こういった状況を考慮すれば、中国を先端半導体の分野から排除するため、トランプ氏は日本に対して対中輸出規制における同調圧力を強めてくることが考えられる。そして、日本の対応が満足するものでなかった場合、トランプ氏は日本に対する高関税をちらつかせ、日本から譲歩を引き出すか、実際に関税を発動することで日本に懲罰的対応を行なっていくかも知れない。米中半導体覇権競争はトランプ政権の下でさらに白熱し、日本はその蟻地獄に陥るリスクを認識しておくべきだろう。