電池関連のソリューション型ビジネスを強化していく!
─ 国際情勢においての地政学的リスクがある中、旭化成社長の工藤幸四郎さんの化学業界の見通しとは。
工藤 この数年間、化学業界では強烈なアゲインストの風が吹いています。とりわけ川上の石油化学は非常に厳しい。加えて25年からは米国でトランプ政権が発足し、不透明感はますます増してくることは間違いないと思います。
その中で、それぞれの会社がどうポートフォリオを変えていくかは既に待ったなしの状況になっており、我々も含めて各社が大きく一歩を踏み出しているところです。その意味で、更に覚悟を持って進めていく1年になるということでしょう。
─ マテリアル、住宅、ヘルスケアの三本柱に加えた新たな柱をつくっていくことになる?
工藤 旭化成グループでは現在の中期経営計画の最終年度を迎えています。この3年間、非常に苦労しながら構造改革を進め、成長投資も実行しています。25年4月に新しい中計が始まりますが、新中計では投資した分の成果を出す大事な時期になってくると思います。
その中で三領域のバランスも変わってくると思いますし、その次の中計の最終年度に当たる30年に向けて、大きく前進する3年になると思います。
─ リチウムイオン電池では吉野彰さんがノーベル化学賞を受賞していますが、その材料であるセパレータの事業についてはどう進めていますか。
工藤 電池のセパレータ事業は我々が世界の中でも先駆者として始めた事業でしたが、車載用途については相当遅れてしまいました。中国勢や韓国勢が世界で大きなシェアを獲ったわけです。ここからリスタートで強くするには、かなり戦略的に動いていかなければなりません。
そのうちの1つがカナダでの車載バッテリー用セパレータの生産を目的としたホンダさんとの合弁会社の設立です。日本政策投資銀行からの資金調達を行い、カナダ政府からの補助金も出していただけるということで、かなりリスクをマネージしたことになります。
さらにアセット(資産)を増やして、増設していくかどうかは状況次第ではありますが、電池関連の資産で稼ぐ部分と、無形資産をどう活用するかという部分が大事なポジションになってくると思います。
我々は電池の研究に費やしてきた歴史が長く、吉野さんを輩出したという実績もありますので、電池関連のソリューション型のビジネスをどう強くしていくかが、先ほど申し上げた30年以降の勝敗の分かれ目になると考えています。多角化経営の中で培った経営資源を縦横無尽にどう使い切るかが最大のポイントだと思います。