静岡大学、上智大学、東京大学(東大)の3者は12月17日、セシウム・鉛・臭素からなる三次元金属ハライドペロブスカイト材料の一種「CsPbBr3」単結晶を用いて、励起子と光の相互作用の大きさ(LT分裂エネルギー)、励起子が2個結合した励起子分子、励起子と光の結合状態の特性について詳細な実験を行い、それらの光学特性を明らかにしたと共同で発表した。
同成果は、静岡大 工学部の下迫直樹助教、上智大 理工学部の江馬一弘教授、同・欅田英之准教授、東大 先端科学技術研究センターの近藤高志教授、同・五月女真人助教らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学協会が刊行する化学物理学と物理化学を扱う学術誌「The Journal of Chemical Physics」に掲載された。
金属ハライドペロブスカイト材料は、優れた光学的特性を有することから、太陽電池や発光デバイス、放射線検出器、非線形光学など、幅広い分野において注目されている物質だ。しかしそれらを支える基礎物性、特に励起子の特性については、十分に理解されていなかったという。
励起子とは、物質中において生じる電子と正孔が結合した準粒子であり、光と物質の相互作用で重要な役割を果たすことで知られる。その束縛エネルギーや励起子と光の相互作用の大きさを示すLT分裂エネルギーは、光学デバイス設計における重要な基礎情報となる。これまで、二次元の金属ハライドペロブスカイト材料の励起子に関する研究は数多くなされていたが、三次元の金属ハライドペロブスカイト材料では、励起子のパラメータの測定にばらつきがあるため、正確な特性評価が課題とされていた。そこで研究チームは今回、三次元金属ハライドペロブスカイト材料の1つであるCsPbBr3の高品質な単結晶を用いて、極低温下で光学測定を実施し詳細な解析を行ったという。
今回の研究ではまず反射スペクトルの分析が行われ、LT分裂エネルギーが約7meVであることが確認された。また、高励起条件下での発光および時間分解発光測定により、励起子分子による2種類の発光(「縦波励起子」および「横波励起子」への遷移)と、「励起子-励起子散乱」(励起子同士が近づくと起きる反発)による発光が観測された。これらの発光エネルギーの位置から、励起子分子の束縛エネルギー、励起子の束縛エネルギーを見積もることに成功したとする。
さらに、白色パルス光を用いた時間分解透過測定により、光と励起子が強く結合することで生成される、光と物質が融合したような準粒子の状態である「励起子ポラリトン」の群速度分散が測定された。その結果、群速度分散がローレンツモデルを用いた計算と一致することが確かめられ、CsPbBr3における励起子のダイナミクスがこの単純なモデルで記述可能であることが明らかにされた。励起子分子に関しては、さらに詳細な測定を行わないと断定はできないとするが、明瞭な励起子分子からの発光を観測できたこと、および励起子ポラリトンの試料裏面からの反射が観測されたことは、非常に高品質な単結晶が得られたことによるとした。
今回の研究成果は、CsPbBr3の励起子の振る舞いに関する理解を深めると同時に、励起子を活用した先端的な光学デバイスの発展に貢献するという。また研究チームは、今回解明されたパラメータが、高効率な太陽電池や発光デバイスなど、幅広い応用分野における技術基盤として寄与することが期待されるとしている。