農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)は12月4日、米粉即席麺への適性を持つ水稲の新品種「やわらまる」を育成し、小林生麺と共同で、米粉即席麺の課題であった湯戻し時間を、従来の製法と比較して約3分短縮する技術を開発したと発表。グルテンを含まない即席麺として小林生麺が受注を開始したことを明らかにした。
同成果は、農研機構 食品研究部門 食品流通・安全研究領域の梅本貴之氏、同・荒木悦子氏、同部門 食品加工・素材研究領域の松木順子氏、農研機構 作物研究部門 スマート育種基盤研究領域の後藤明俊氏、農研機構 研究推進部 研究推進室の竹内善信氏らと、小林生麺の共同研究チームによるもの。
日本の米生産を支える需要を創出する米粉の活用など、米の利用法の多様化は、食料安全保障の点からも重要な取り組みだ。そうした1つが米粉原料の即席麺だが、即席麺市場のほぼすべてを占める小麦粉原料の即席麺と比べ、湯戻し時間が長いことが課題となっている。そこで今回の研究では、消費者の簡便性志向に合致する商品を開発する観点から、その解決を目指したという。
小麦アレルギー、セリアック病(グルテンに対する異常反応に誘発される遺伝性の自己免疫疾患)など、小麦粉加工食品を摂取できない人や摂取を控えている人の中にも、即席麺の希望者は多いと推測される。また、海外でも日本発の即席麺の市場が拡大していることから、グルテンを含まない即席麺製品について強いニーズがあると考えられるという。米粉即席麺は、このようなニーズに応え得る食品の1つとなるとする。
農研機構は事業者と協力することで、開発した品種や技術、研究で得られた科学的知見を活用した社会実装に向けた動きを進めている。米粉即席麺の湯戻し時間短縮という小林生麺の課題に対しては、当時は農研機構で育成中で、後に「やわらまる」(2023年8月22日に品種登録出願公表)となる素材の米デンプンの“糊化温度”が低い特徴が有効ではないかと考察し、共同開発を始めたという。
デンプンやデンプンを多く含む穀物や食品に水を加え加熱すると糊状になるが、この現象が糊化である(糊化状態になる温度は糊化温度、糊化に要するエネルギー量は糊化熱量と呼ばれている)。米デンプンの主要構成要素である「アミロペクチン」は、多数のブドウ糖が結合した樹状構造を持つ多糖だ。その枝の長さは、糊化温度と関係することが知られており、短い枝が多いと低温で糊化することがわかっていた。
「やわらまる」は、在来種「旱不知D」が持つアミロペクチンの長い枝を作る「デンプン枝付け酵素1」(Sbe1)の活性欠損性を多収のうるち品種「あきだわら」に連続戻し交配により導入して開発された品種だ。「やわらまる」はSbe1の活性を欠くため、一般的な品種と比べて短い枝が多く、糊化しやすいことが予想された。また「あきだわら」や「日本晴」と同程度の熟期で、栽培適地は関東・北陸地域以西だ(すでに関東や関西地域の一部で栽培が始まっている)。
今回の研究では、「やわらまる」の米粉を主原料とする米粉の即席麺が試作された。その試作品の湯戻し時の硬さに対する、パネラーによる官能評価試験での比較が行われた。従来品に使用されている「コシヒカリ」の米粉を使用した試作品の場合、最も多くのパネラーがちょうど良いと評価した湯戻し時間が11分だったのに対し、「やわらまる」の米粉を使用した試作品ではそれが8分となり、湯戻し時間が約3分短縮されたとする。それに加え、小林生麺では麺の形状などにさらに工夫を加え、湯戻し時間を5分まで短縮した離乳食向け即席麺が開発された。
米粉即席麺に熱湯を加えた際の湯戻し時間の短縮には、米粉麺の糊化温度が低く、糊化に要する熱量が小さいことが有効と考えられるという。従来品に使用されている「コシヒカリ」を主原料とした米粉は58.8℃と71.2℃に糊化温度があるのに対し、「やわらまる」米粉の主な糊化温度は低い温度帯の59.2℃のみだった。また、糊化に要する熱量も、従来品米粉を使用した場合は5.9J/gだったのに対して「やわらまる」米粉を使用した場合では3.4J/gと小さくなっていたとする。「やわらまる」米粉の即席麺の糊化温度の低さと糊化熱量の小ささが、湯戻し時間短縮につながっていると考えられるとした。
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試作された即席麺の湯戻り時間の比較。従来品に使用の「コシヒカリ」の米粉(左)と「やわらまる」の米粉(右)を用いた試作品に熱湯を加え、5分、8分、11分後にパネラーによる官能試験により湯戻し性の評価が行われた。ここでは、硬さの評価結果が示されている(出所:農研機構Webサイト)
小林生麺では今後、「やわらまる」を原料とする米粉を使用したカップ入りタイプの米粉即席麺を開発し、グルテンを含まない粉末スープ、乾燥かやくと合わせた商品化が行われ国内外での販売を目指す計画だ。このことにより、小麦粉を使用しない、米粉を原料の主体とした即席麺を求めるユーザーに届けられると同時に、国産米を原料とした米粉の利用拡大につながることが期待されるとしている。