OKIグループの設計開発受託事業会社であるOKIアイディエス(OIDS)は、ロケットや人工衛星に搭載する機器向けの「宇宙機器向け熱解析シミュレーションサービス」を11月27日に開始する。ニュースペース市場をターゲットに、独自の熱伝導シミュレーション技術を活用し、放熱設計の高度化と短納期化に寄与。2026年度5,000万円の売上をめざす。

  • プリント配線板(PCB)の熱解析シミュレーション

ロケットや人工衛星の搭載機器は、地上と異なる冷却手段が求められる特殊な環境下で稼働する。そのため設計開発時には、宇宙環境で正常に機能するかを確認するシミュレーションが求められる。

OIDSが新たに提供するサービスでは、時間とともに急激に変化する環境下での温度分布の変化を正確に把握するため、非定常熱解析を行う。時間の変化に伴う温度分布を解析する手法で、機器や環境が温度変動したときに、物体がどのように反応するかをシミュレーションし、設計や改善策の検討に役立つというものだ。

電子部品を搭載するプリント配線板(PCB)は発熱源でもあり、主に熱伝導率の低いガラスやエポキシ樹脂と熱伝導率の高い銅で構成される。

銅は回路パターンとして各層に配置され、平面方向に熱を伝えやすく、厚み方向には熱を伝えにくい異方性の熱伝導率を持つ。また、スルーホール(導体と絶縁体を複数重ねたPCBを貫通するかたちで穴を開け、そこに銅めっきを施して、各層間に形成された回路同士を電気的に接続したもの)が多数存在し、それが厚み方向に銅をつなぎ、局所的に熱伝導率を高めている。

このため同社では、各層の厚みやガラス・エポキシ樹脂・銅の割合と、単位面積あたりのスルーホールの数を考慮して、熱伝導率を平均化。平面方向と厚み方向それぞれに一律の熱伝導率を持つ簡素化モデルを作成し、精度の高いシミュレーションを可能にしたという。

OIDSではさらに、新サービスに向けて機構設計や、実装設計とエレキハードウェア設計の専門家を組み合わせた専門チームを結成。OKIグループと、多様な顧客に提供してきたデザインサービスの実績・ノウハウを活かし、正確なシミュレーションに加えて、効率的な放熱ルートを確保した装置内機器レイアウトとPCB上の部品配置を提案する。特に、さまざまな材料や形状の熱特性に関する知見が、効果的な熱設計に寄与するとしている。

OKIは、中期経営計画2025において、航空宇宙市場をEMS事業の注力分野としている。設計生産だけでなく、機器設計段階でのシミュレーションなど、宇宙品質のモノづくり力を活かし、グローバルな航空宇宙市場に向けた技術開発と販売拡大を進めていく。

熱解析シミュレーションの詳細

宇宙環境向けの熱解析に必要となる「熱解析シミュレーション」とは、熱の移動による機器の温度分布状態や熱応力の変化を計算するもの(熱応力とは、ある物体が加熱または冷却されて温度変化が生じた場合に、物体の自由な膨張と収縮が拘束されることで物体の内部に発生する応力のこと)。

機器が置かれる環境を自由に設定でき、実機では測定できない箇所の温度も算出できるため、製造前に設計を検証し、開発期間の短縮や製造コストの削減につなげられるという。

OIDSは、従来の宇宙環境向けのシミュレーションには複数の課題があったと指摘しており、要因のひとつとして「地上から宇宙の真空環境へ移行するときの動作環境の急激な変化」を挙げる。また、空気のない宇宙空間では空冷による対流熱伝達が行えず、放熱手段が「発熱源の電子部品からプリント配線板(PCB)を介した筐体への熱伝導」となることから、物体間の熱伝導を正確に予測することが難しかったと説明。

新サービスでは非定常熱解析を行うことで、実際の動作条件下での温度変動を詳細に再現するシミュレーションが可能になるとアピールしている。