岡山理科大学、広島市安佐動物公園、オオサンショウウオ生態保全教育文化研究所の3者は11月19日、両生類のオオサンショウウオの骨組織を解析した結果、コラーゲン線維の並びがそろっていないことが判明し、この特徴は他の現生動物にはなく、絶滅した両生類やは虫類の化石でしか確認されていないことから、オオサンショウウオが正しく「生きた化石」であることが骨組織からも証明されたと発表した。

  • 今回の研究成果のまとめ

    今回の研究成果のポイント (c)田中花音 (出所:岡山理科大プレスリリースPDF)

同成果は、岡山理科大 生物地球学部の林昭次准教授、同・野田昌裕学部生(現・京都大学(京大)大学院生)、同・石川世奈学部生(現・京大大学院生)、広島市安佐動物公園の安西航博士、オオサンショウウオ生態保全教育文化研究所の田口勇輝所長に加え、独・シュツットガルト州立自然史博物館、独・ボン大学の研究者らも参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、動物学に関する全般を扱う学術誌「Zoological Letters」に掲載された

オオサンショウウオはオオサンショウウオ科オオサンショウウオ属に分類される、体格の大きな両生類として知られ、長寿でもある。またオオサンショウウオ科は現存する両生類の中でも古い歴史を持ち、その起源は中生代(約2億5200万年前~約6600万年前)にまで遡るため、化石種の生態や進化を解明する上で重要な比較対象とされている。

ただし、オオサンショウウオは日本の特別天然記念物に指定されているため、研究のためとはいえ、標本を確保することが困難である。通常は骨しか残らない化石種の生活史を探るためには、現生種の骨組織を詳細に調べる必要があるが、オオサンショウウオでの研究例はそれが限られていたという。また同様の理由で、オオサンショウウオの成長様式や寿命に関しても未解明の部分が多く残されているとする。たとえば、保全活動において集団の年齢構成は重要な情報だが、現在のところ野生個体の年齢を知る確かな方法は確立されていない。

そこで研究チーム今回、安佐動物公園が所有する日本産オオサンショウウオと、ドイツ・ケーニヒボン博物館のチュウゴクオオサンショウウオの骨組織を解析し、成長パターンや性成熟と骨組織の特徴の関連性を明らかにすることで、絶滅した大型両生類などの古生物の生態や進化に関する新たな手がかりを発見することを目指すことにしたという。同時に、骨組織からオオサンショウウオの生態を理解するための情報の有無も調べることにしたとする。

  • オオサンショウウオ

    (左)オオサンショウウオ。(右)チュウゴクオオサンショウウオ(安佐動物公園で飼育されている「Andrias sligoi」)。チュウゴクオオサンショウウオは近年の研究で4種に分類され、論文中で使用された標本の種は不明であり、画像とは異なる種の可能性もあるという (出所:岡山理科大プレスリリースPDF)

今回の研究では、8個体のオオサンショウウオと2個体のチュウゴクオオサンショウウオの上腕骨と大腿骨が使用され、研磨薄片を作成して骨組織の観察が行われた。上腕骨と大腿骨は化石種において多く保存されており、これまで絶滅両生類やは虫類の成長様式などの生態や生理を解明する際に最も使用されている部位である。

解析の結果、オオサンショウウオは、大きな骨細胞を伴う特有の骨組織を持ち、骨組織中のコラーゲン線維の配向性が揃っていないことが判明。このことは現生の他の動物からは見つかっておらず、中生代の大型両生類や水棲は虫類などと共通した特徴だという。つまり、この結果からもオオサンショウウオがまさに生きた化石であり、古生物の適応進化を知る上で重要な存在であることが示されていると研究チームでは指摘している。また、性成熟を迎えたと考えられる年齢の標本では、多くの両生類と同様に太く明瞭な成長線が確認されたことから、年齢が不明な骨組織標本からでも、その個体の成長段階を推定できる可能性があることも確認されたとする。さらにオオサンショウウオの骨組織中の骨細胞は、現生の両生類の中で最大であり、この大きな骨細胞が大きな骨格を形成するための栄養供給に寄与している可能性があるともしている。

  • オオサンショウウオと他の動物との骨組織の比較

    オオサンショウウオと他の動物との骨組織の比較(左:オオサンショウウオ、中央:現生両生類ファイアサラマンダー、右:絶滅両生類メトポサウルス)。それぞれの画像の左に示されているのは、コラーゲン線維の配列のイメージ。オオサンショウウオの骨組織はコラーゲン線維がそろっておらず、絶滅種と類似した特徴を持つ (出所:岡山理科大プレスリリースPDF)

今回の研究で使用されたオオサンショウウオの標本のほとんどは、安佐動物公園が1979年の繁殖成功から維持し続けてきた飼育下繁殖個体で、長年にわたって収集されたデータに基づいたものだという。これにより、野外で採取された個体では困難である年齢や性成熟のタイミングと骨組織の変化の関連性を解明することができたとしているのと同時に、動物園における希少種の繁殖や標本収集などの取り組みが、その種の基礎研究や生態系保全にも貢献しうることが改めて示されたと研究チームでは説明している。

  • オオサンショウウオの成長線

    オオサンショウウオの成長線(左:上腕骨、右:大腿骨の断面)性成熟を迎えたと思われる頃になると成長線が明瞭になる(赤矢印) (出所:岡山理科大プレスリリースPDF)