世界が注目する11月4日に行われた米大統領戦の結果、共和党候補のトランプ氏が勝利した。これまでの世論調査ではトランプ氏とハリス氏の支持率は拮抗し、稀に見る大接戦になると予測されていたが、いざ蓋を開ければトランプ氏の圧勝だった。
最後まで勝敗が分からなかった西部アリゾナ州でもトランプ氏の勝利が確定し、トランプ氏は過半数の270人を上回る312人の選挙人を獲得し、民主党のハリス氏は226人に留まった。トランプ氏はベンシルベニアやウィスコンシン、ジョージアなど激戦7州で全勝し、開票率93%の時点で7460万票あまりを獲得し、2016年、2020年を上回る自己最多の獲得票数を記録するなど、正に良いことばかりの状況だ。では、来年1月にホワイトハウスに戻ることになったトランプ氏は、バイデン政権下で激化した米中半導体覇権競争にどう対応していくのだろうか?
バイデン政権は2022年10月、中国による先端半導体の軍事転用を防止する観点から、先端半導体そのものの獲得、製造に必要な材料や技術、専門家の流出などを防止する大幅な輸出規制を開始した。しかし、それのみでは依然として抜け道が存在すると懸念を抱くバイデン政権は昨年1月、先端半導体の製造装置に強みを持つ日本とオランダに同規制で足並みを揃えるよう要請し、日本は2023年7月、14nmプロセス以下の先端半導体に必要な製造装置、微細な回路パターンを半導体ウェハに描画する露光装置や洗浄、検査に使う装置など23品目を輸出管理の規制対象に加えた。
その後、オランダも同様に中国への輸出規制を開始したが、バイデン政権は日本やオランダの輸出規制措置が自らが求める水準に達していないこと、両国の半導体関連企業が中国に販売した製造装置を修理し、予備部品を販売していることなどに不満を抱き、もっと強い輸出規制を行うよう事実上の圧力を掛けている。そして、バイデン政権は4月、オランダ政府に対して同国の半導体製造装置大手ASMLが中国企業へ販売した半導体製造装置の点検や修理などのサービスを止めるよう要請し、ASMLの2種類のDUV液浸露光装置について、オランダ政府は9月に輸出許可要件を拡大すると発表し、中国向けの輸出規制を事実上強化した。
また、バイデン政権は韓国やドイツなどの同盟国にも協力を呼び掛け、多国間による中国包囲網を作ろうしている。例えば、ドイツのカールツァイスはASMLに先端半導体の製造に欠かせない工学部品を供給しているが、米国はカールツァイスが中国企業に関連部品を輸出しないようドイツ政府が力を発揮するべきとの姿勢に徹し、バイデン政権は6月に開催されたG7サミットの前にドイツに中国への輸出規制で同調を呼びかけたとされる。
では、トランプ政権は上述のようなバイデン政権の取り組みをどう継承するのだろうか。トランプ政権は不確定要素が多く、現時点で確証的なことは提示できない。ハリス氏であればバイデン路線を継承するので、その政策はかなり予測できるのだが、トランプ氏となれば不透明な部分は避けられない。しかし、路線としては2つ考えられる。
まず、バイデン路線を継承するという選択肢だ。中国に対して強硬な貿易規制措置を行うという点では、バイデン大統領もトランプ氏も変わらない。よって、中国による先端半導体の獲得阻止を目指し、トランプ政権がそれに関連する製品や技術などでさらなる輸出規制を中国に仕掛け、日本や欧州の同盟国にも同調圧力を掛けてくる可能性がある。しかし、その場合トランプ氏はバイデン政権以上の圧力を同盟国に示すことも考えられ、「我々に協力できないならペナルティー(関税引き上げなど)を課す」などとして、何かしら具体的な警告を同盟国に示してくる可能性がある。
一方、全く違う反応を示してくる可能性もある。すなわち、アメリカファーストのもと、トランプ氏は「先端半導体が中国に渡ることでそれが具体的にどこまで米国にとってマイナスなのかはっきりしない」、「具体的な損失が分からない問題は後回しだ、他にやるべきことがある」などとして、この問題にそれほど興味を示さないことも考えられる。このシナリオであれば、バイデン政権下で強化された半導体輸出規制はここで事実上のストップとなるう。
現時点でははっきりしないことが多いが、今後トランプ政権の半導体覇権競争への姿勢が鮮明になってくることだろう。