スペースデータは11月11日、世界中の技術者が協調して宇宙ステーション共同開発や利用を行うためのオープンオープンプラットフォームとして、宇宙ステーションの制御ソフトウェア「Space Station OS」をGitHub上で公開したことを発表した。
ISS退役後を見据え各企業が宇宙ステーション開発に着手
近年では米・SpaceXを中心とする宇宙企業たちにより、ロケットの打ち上げコストは劇的に低下するとともに打ち上げ回数が大きく増加している。そのため現在では宇宙輸送がより手頃かつ高頻度で行われ、民間企業による有人宇宙船の定常的な打ち上げ・運用も実現されるなど、宇宙利用拡大の流れは加速している。
しかし、現時点で宇宙空間の開発拠点として利用されている国際宇宙ステーション(ISS)は2030年の退役が予定されており、現在では2030年以降を見据え、米国を中心に民間企業による宇宙ステーションの開発が進められている。米国航空宇宙局(NASA)は「Commercial Low-Earth Orbit(LEO) Development」を通じて民間企業による宇宙ステーションの設計・開発を支援する動きを見せており、2030年代には複数の民間宇宙ステーションが地球軌道上で運用されることが期待されるという。
そこで、「宇宙」と「デジタル」の融合を目指した研究開発を進めるスペースデータは、地球規模で動きが広がるとみられる宇宙ステーション開発の加速を目指し、異なる企業や国家が開発する宇宙ステーション間での相互運用性を確保するため、共通動作するソフトウェアの開発を進めてきたとのこと。そして今般、宇宙ステーションの開発・利用に必要なソフトウェアおよびシミュレーション環境を備えたSpace Station OSをオープンソースとして全世界に公開したとしている。
宇宙ステーション開発は“小さな地球”の実現
世界共通で利用可能な宇宙ステーション開発および運用環境の第1弾としてGitHub上で公開されたSpace Station OSについて、スペースデータは「いわば『宇宙のOS』」と表現。異なる企業や国が開発した宇宙ステーション間で共通に動作するソフトウェアを提供し、宇宙ステーションの開発や管理、運用を容易にすることで、「だれもが宇宙ステーション事業に参加できる時代を開く」とする。
宇宙空間は、地球上には当たり前に存在する空気や水、対流などの自然資源が無く、昼間は120℃に達する一方で夜にはマイナス150℃となる極端な温度環境が広がる。さらには強力な宇宙放射線や無重力など、人間にとって過酷な条件が多くある中、人間が活動できる環境となる宇宙ステーションについて、スペースデータは「地球と同等の環境を工学的に再現することで、宇宙でも人が安全で快適に生活できるように設計されている」とし、「宇宙ステーションの技術は、地球の自然な営みを工学的に再現した『小さな地球』と言い換えることもできる」とした。
そして地球の工学的再現が求められる宇宙ステーションの開発を進めるため、同ソフトウェアには、宇宙ステーションを構成するための熱制御・姿勢制御・電力・熱・通信・生命維持などを制御するソフトウェアを搭載。また各機能を統合してシステム全体の最適化を図る機能も備えているという。
ソフトウェアディファインドアプローチを宇宙開発に導入
またSpace Station OSでは、近年のハードウェア開発においてトレンドとなっている“ソフトウェアディファインド”とよばれるアプローチの宇宙開発への導入を提案。ソフトウェア制御を前提とし、共通ハードウェア上でソフトウェアを頻繁にアップデートすることで、機能や顧客体験を向上させる手法に寄り、柔軟かつ拡張性の高い製品や開発を実現するとしている。
特に宇宙空間ではハードウェア交換が難しく、ソフトウェアを通じて機能の追加や変更が可能になることで、宇宙ステーションの運用がより柔軟になるとのこと。同ソフトウェアではシステムとして成立する最小の機能を提供するとともに、ソフト・ハード両面の拡張性を許容するアーキテクチャを指向するという。
また、標準化されたインタフェースを通じて、各国や企業が開発した機器が互換性を持ちシームレスに連携できる環境を構築することで、宇宙ステーションの開発・運用を持続可能にし、将来の技術革新にも対応可能な基盤を提供するとした。
ROS 2を基盤とし宇宙ステーション開発体制を変革
なおスペースデータによると、Space Station OSはロボット開発のためのオープンソースミドルウェア「ROS 2(Robot Operating System 2)」を基盤として構築されているとのことだ。
専門家によるフルスクラッチでのシステム開発が一般的だったロボット業界を、ソフトウェア再利用の促進により変革させ、開発コスト削減や信頼性向上、さらにはロボット技術者人口の増加へと導いたROSは、すでにさまざまな産業分野に広く普及した。同社は宇宙ステーション開発の現状が、ROS普及以前のロボット産業に類似しているとし、限られた専門家による独自開発から、Space Station OSによる技術や知識の民主化を経て、世界規模での宇宙ステーション共同開発の実現へと変革可能だとしている。
同ソフトウェアの開発責任者を務める加藤裕基氏は、「Space Station OSが普及し、『宇宙の民主化』が進めば、有人火星探査や、スペースコロニーの話もどんどん出てくる、つまり人類の進歩への貢献を感じられる」とコメントを残している。