高知工科大学と筑波大学の両者は11月7日、常温常圧の温和な条件下における化学合成を用いて、水の電気分解などに利用可能な多元素酸化物触媒を合成することに成功し、今回の手法では現時点で主要な元素をカバーした33種類の元素に適用できること、実験で作製された12元素酸化物触媒が水の電気分解における酸素発生電極として優れた活性と高耐久性を示したことなどを共同で発表した。
同成果は、高知工科大 理工学群の藤田武志教授、同・伊藤亮孝教授、同・Saikat Bolar助教、筑波大 数理物質系の伊藤良一准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行する材料と化学・工学・生物学などとのインタフェースに関する全般を扱う学術誌「ACS Materials Letters」に掲載された。
燃焼しても温室効果ガスの二酸化炭素(CO2)を排出しない性質から、水素が次世代エネルギーとして注目されて久しい。水素エネルギー社会を構築するための課題はいくつか残されており、その1つが、地球上の天然環境において水素は単独で存在することが少ないため、どれだけ効率良く水素を生産できるかという点だ。水素を生成するのにCO2を発生させてしまっては意味がないため、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを利用して水を電気分解する方法のほか、触媒を用いる方法も研究開発が進められている。
また発電や製油、製鉄などの過程においては、CO2に加えメタンガスなどの温室効果ガスが大量に発生しており、環境問題の観点から、それらを無害化したり有用資源として活用したりすることも必要とされている。そしてそれらの用途でも、実現に貢献する機能を有した触媒の開発が期待されている。
従来に比べて高い活性と優れた耐久性を有することから、それらを実現できる可能性があるとして注目されているのが、多元素からなるナノ合金や酸化物触媒だ。そうした多元素合金や酸化物の作製方法としてはこれまで、超臨界条件(高温・高圧)で行うハイドロサーマル法や、瞬間加熱炉やレーザー照射を用いて瞬時に複合化する方法などが提案されてきた。しかしそれらの手法では、エネルギー(熱・圧力)の大量投入を必要とし、環境面から望ましくない。また特殊な装置などが必要なため導入費用がかかり、大量生産などの工業化に向けては高い障壁があることなどが課題となっていた。そこで研究チームは今回、より安価で簡便な多元素合金や酸化物の製造方法の開発を進めたという。
今回の研究では、常温常圧下においてコロイド状の多元素酸化物を化学合成することに成功。6元素および12元素からなる酸化物のX線マッピング像において、50nm程度の粒子サイズで各元素が均一に混ざっていることが確認できたとしている。
研究チームによると、今回の合成方法は非常に簡便なことが特徴だといい、金属塩、アルカリ溶液(水酸化ナトリウム水溶液やアンモニア水など)、および酸化剤(過酸化水素水)を混合するだけで行え、溶液を混ぜた直後から化学反応は進行し、多元素酸化物が生成されるとする。この操作は常温常圧下で実施可能であり、熱や圧力を加える必要がないためにエネルギーの消費が少なく、特殊な化学原料や高価な装置も不要なので初期投資も抑えやすい。またスケールフリーであり経済効率が高いため、工業化にも容易に対応できるとのことだ。