ベルギーの独立系先端半導体研究機関であるimecは11月7日、北海道大学(北大)と半導体分野における研究の連携を検討していくための合意文書に署名したことを発表した。両機関の強みを生かしたイノベーションを促進することで、日本の半導体エコシステムの発展に貢献することを目的としたものだとしている。
同合意に基づき両者は、2nmロジックプロセスを用いた半導体のユースケース開発に重点を置きつつ、半導体分野の進展に向けて、地域の研究開発企業とも連携し、日本の半導体エコシステムの発展に貢献するための連携の機会を模索していくとしており、合意書の締結によって、両者の共同による研究開発や人材育成の機会が促進されることが見込まれるとする。また、両者は、この連携が両者に高い付加価値をもたらし、日本の半導体エコシステムの発展へ貢献することも期待されるとしている。
imecのCEOを務めるLuc Van den hove氏は、提携合意書の締結に際し、「北大との連携の可能性に大きな期待を寄せている。imecが持つ半導体の高度な専門知識、応用研究、最先端の基盤施設と北大の強固な研究基盤を活用することで、日本の半導体エコシステムの発展に貢献し、業界全体に利益をもたらすイノベーションを推進することができると考えている」とコメントを述べている。一方の北大の寳金清博 総長も、「imecとの連携が実現すれば、北大における半導体教育研究を高度化させるまたとない機会となる。日本の国立大学で最多の学部を有し、人文・社会・自然科学のほぼすべての領域をカバーしているという北大の特徴は、先端半導体の利用に関する多様な関連科学領域を有しているという点で、半導体分野の発展に貢献することができると考えている」と述べている。
imecが北海道と東京に研究施設の設置を計画
imec CEOのLuc Van den hove氏は、11月に東京で開催されるimecのイベントに併せて来日。imecの現状についての説明を行い、北海道と東京に小規模ながら研究施設を設置する準備を進めていることを明らかにした。同氏とのやり取りは以下のとおり。
-- imecは今年、創立40周年を迎えました。現状をどのように認識していますか?
Luc Van den hove氏:imecは、今から40年前の1984年にベルギーで非営利のInteruniversity Microelectronics Center(フランダース地方の大学共同利用研究・クリーンルーム施設)として70人で発足した。それが今や働く人の数は5500人にまで増加している。このうち、会員企業(研究パートナー)から派遣されている駐在研究員が700人、ベルギーだけではなく世界中の博士課程学生とポスドク(博士号取得直後の)研究員があわせて850人ほどである。創立当時、今日のような世界最大級の先端半導体研究施設になることは想像できなかった。予算規模は毎年増えており、2023年時点で9億4000万ユーロとなっている。
-- imecの会員企業(研究パートナー)は現在、どこまで拡大しているのでしょう?
Luc Van den hove氏:現在、IDM/ファウンドリの会員企業は、Intel、Samsung、TSMCなど24社で、日本のソニー、キオクシア/Western Digital、ルネサス エレクトロニクス、Rapidusもメンバー企業に名を連ねている。また、製造装置メーカーも、ASML、Applied Materials(AMAT)、東京エレクトロン(TEL)、SCREENなど日本企業も含めて40社余り、半導体材料メーカーもEntegris、JSR、東京応化工業など30社ほど、ファブレス・EDAベンダーも40社ほど、システムパートナーに至っては100社余りと多岐にわたる。日本企業だけを見ても、さまざまな半導体に関わる企業を中心に66社が加入している(2024年10月時点)。2024年は正式にimecの日本法人を東京に設立したこともあるので、今後、より多くの日本企業をパートナーとして勧誘していくつもりである。
-- 日本に研究施設を設置する計画があると1年前にお話しされてましたが、進捗は?
Luc Van den hove氏:日本には優れた大学がいくつもあるので、北海道と東京に研究拠点を設けてそうした大学との連携を進めることを計画しており、現在、設置に向けて経済産業省(経産省)と協議を進めている段階にある。とはいえ、クリーンルームを持つような大規模な研究施設ではなく、ベルギーの研究施設のサテライトオフィスといった感じの施設を考えている。
-- 日本ではどのような研究に注力する予定ですか?
Luc Van den hove氏:自動車やヘルスケアといった先端分野での半導体の活用拡大に向けた産学提携を進めることを考えている。
新しいアイデアを取り入れ、イノベーションを生み出すためには大学だけではなく幅広いパートナーとの連携が必要であり、そのためにRapidusやLSTCとも連携していく。
-- imecは最近、車載チップレットプログラムを発足させ、BMWやArmなど10社が初期パートナーとして加入を表明していますが、今後、ルネサスやトヨタ自動車などの日本の車載半導体関連企業の加入はあるのでしょうか?
Luc Van den hove氏:日本企業の参加は大歓迎で、すでに数社と交渉中にあるが、現時点ではこれ以上話せることはない。
-- imecのパートナーであるIntelやSamsungは、3/2nmプロセスでの歩留まりが低迷していると言われています。imecでパートナーの歩留まりを上げるための支援する計画はあるのでしょうか?
Luc Van den hove氏:imecの役割は、業界より5~10年先の最先端プロセスモジュールを開発して会員企業に提供することである。製造ラインにおける歩留まり向上は、それを採用する各半導体メーカー自身がやるべき仕事だと認識している。
-- 以前は中国の企業や大学とも多数の研究提携を行っていたと思いますが、現状、そうした中国との関係はどうなっていますか?
Luc Van den hove氏:5年ほど前までは、そういう関係を中国の企業や大学とも構築していたが、現状は地政学上の理由などもあり、中国の企業や大学とは距離を置くようにしている。