【著者に聞く】『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか 』 PHP総研特任フェロー・鈴木崇弘

日本で始まった新たな教育と人づくり

 沖縄科学技術大学院大学(OIST)は2011年に設立された。5年制で博士課程のみの大学院大学であり、世界最高水準の研究者が集い、世界最高水準の研究活動が行われている。

 日本は明治以降の近代化や敗戦後の復興において、東京大学を頂点とする教育や研究体系を構築。ある意味で、画一的な組織や人材をつくりだし、効率的に社会を発展させてきた。

 東大がこれまで政府や官僚へ多くの人材を輩出し、日本の近代化におけるエンジン的な役割を果たしてきたことは間違いない。しかし、これだけ多様性や国際性が求められる時代になると、画一的で集約的な従来の大学モデルでは対応が不十分なのではないか。

 これから新しい時代を切り拓き、イノベーションを加速させるためには、従来の大学を超えた大学、つまり、時代を先導する研究や人材育成を行う大学でなければならない。わたしはそれがOISTであると考えている。

 OISTは沖縄・恩納村にあるが、村の中でも周辺地域から隔離された場所にある。しかも、理系が中心の大学・研究機関であり、地理的に中央から離れたある種の閉鎖性が特徴だ。

 先生方は教育熱心だが基本的に研究者で、研究内容は非常にレベルが高く、学生を手取り足取り指導するわけではないので、中には辞めてしまう学生もいる。学生は自らを高め、自主的に学び、喰らいついていく意思がなければいけない。

 われわれが若い頃は、専門書を1冊読めば、だいたいのことは理解できた。基礎の基礎を学ぶには今もそれでいいのかもしれないが、テクノロジーの進化に代表されるように、これだけ短期間に社会が変わってくると、人は学び続けなければならない。自分で前向きに勉強していける意識とスキルがないと、これからの時代を生き抜くことはできないのだと思う。

 これからあるべき大学とは、人生100年時代に、自分が豊かな人生を送ることができるよう、学び続けるための土台をつくるための存在でなければならない。在学中にきちんと学び続けられ、「最終学習歴の絶えざる更新」ができる土台を構築できるかどうかが、卒業後、社会に出た後の人生が大きく変わるポイントになるのではないか。

 これからは全国一律ではなく、もっと違ったタイプの大学があっていい。変われない、変わらないと言われる日本にあって、OISTの存在は、やり方次第では変わることができるという先行事例だ。その意味で、わたしは日本にポテンシャルはまだまだあると考えている。

 日本にはエネルギーや食糧などの資源がほとんどなく、あるのは〝人〟だけだ。日本で始まった新たな教育と人づくり。OISTの取り組みを一人でも多くの人に知ってもらいたい。

久保利英明の【わたしの一冊】『万、已むを得ず』