アジレント・テクノロジーは10月24日、次世代液体クロマトグラフィ(LC)製品群となる「Infinity III LCシリーズ」を11月1日より発売することを発表した。
同シリーズは、カラム耐圧60Mpaのスタンダードモデル「1260 Infinity III LC」、耐圧80Mpaのスタンダードプレミアムモデル「1260 Infinity III Prime LC」、耐圧130Mpaのプレミアムモデル「1290 Infinity III LC」の3製品ならびに、それぞれのバイオコンパチブルバージョン(1260 Infinity III LCはBio-inert)の合計6製品がラインナップ。同シリーズの発売に伴い、2014年より発売されてきた前世代Infinity II LCシリーズは終売となる。
2024年6月30日付で同社代表取締役社長に就任した石川隆一氏は、「2024年11月1日でヒューレット・パッカードからアジレントへと名前が変わって25周年を迎える。当時は計測領域と分析領域でビジネスを展開してきたが2006年以降、分析領域へのフォーカスを通じて、2014年に分析分野をアジレントに、計測分野をキーサイト・テクノロジーに分社し、アジレントとしてはライフサイエンスとヘルスケアにフォーカスしてきた」とし、現状、対象分野に向けて50のテクノロジープラットフォームを展開していることを強調。2024年度もPFASに対応可能な分析装置や、未知の物質の分析を可能とする装置、オンライン対応の液体クロマトグラフ、省スペースに特化したガスクロマトグラフ、省力化を可能とする前処理装置など多岐にわたる製品群を発表してきたが、「我々は分析装置の提供だけではなく、分析のための統合ワークフローソリューションの提供を推進している。顧客自身の差別化や効率化を推進したいという課題の解決に貢献できることを目指している」とし、単に分析装置を提供するのではなく顧客の課題を解決できるソリューションそのものを展開しているのが自社の強みであり、Infinity III LCシリーズもそうした思想に沿った製品群だとした。
使い勝手の向上に主眼を置いて開発されたInfinity III LCシリーズ
同社では同シリーズの開発にあたって、自社製品の強みならびに顧客課題の分析調査を実施。その結果、LC領域において、同社の分析装置は高い信頼性を勝ち得ている一方、性能を大きく向上させるよりも、メンテナンスやエラー時のリカバリの早さなどを含めた使いやすさを多くの顧客が重視していること、ならびに現状保有している資産の多くを継続して最大限に活用し続けたいというニーズがあるとするフィードバックがあったという。
性能に関しては実際、近年のHPLCについては高いものを有するようになっており、それ以上にサンプルの分離性能や検出感度を高めたいのであれば、LC/MS(質量分析計)や多次元HPLCなどを活用することが推奨されるようになってきているという。そうした実情も含め、同社ではInfinity III LCの開発にあたっては、コア機能における使い勝手の向上に注力。ユーザーが時間を最大限に活用できるような操作の容易性やトラブルシューティングの改善、エラーの防止などをいかに実現するかに焦点を当てたとする。また、現有資産の活用という点においても、新規入れ替えの場合、規制認証への再対応が必要になるなどの点もあることを考慮し、変わらない部分と変わる部分をシームレスにつなぐ点を意識した開発が進められたとする。
こうした背景からInfinity III LCでは顧客支援の「アシスタンス」、結果に確信・信頼をもたらす「コンフィデンス」、投資を最大化する「インベストメント」、持続可能性の「サステナビリティ」の4つをコンセプトの柱に据えて開発が進められたという。この結果、多くの機能を前世代のInfinity II LCシリーズにアップグレードパックとして追加することで継続利用を可能としたとする。
アップグレードにも対応するInfinity III LCシリーズ最大の特長はInfinityLab AssistハブとInfinityLab Assistインタフェースで構成される「InfinityLab Assistテクノロジー」の提供。Assistインタフェースでは、ラボ内で試薬を扱う際にはめる手袋のまま操作可能なタッチパネル採用のコントローラで、接続されたLCの起動やシャットダウンをスケジュールとしてプログラムしておくことで、出社前に起動させて、使用する時間にはウォームアップまで終えてすぐに使えるようにできたり、ラボの外からコントロールするといったことも可能な「InfinityLab Assistタスク」や、ポンプとオートサンプラを活用し、バルブの開け閉めなどを含めたパージ作業の自動化を可能とする「InfinityLab Assistスマートパージ」、分析装置と対話しながら、どこが原因かを装置がアシストしてステップバイステップでガイドしてくれる「InfinityLab Assistトラブルシューティング」といった機能を活用することが可能。また、人間工学に基づき、タッチパネルの高さや角度を使う人に最適な高さや角度に変更することも可能としている。
さらにLCと接続されるクロマトデータシステム(CDS)としては、同社のOpenLabのほか、他社製のものも含め、暗号化プロセスベースで接続され、CDSをデータ収集のマスターとしつつ、PCやスマートフォン/タブレッド上のブラウザをスレーブとしてリモートからデータへのアクセスも可能としたとする。
移動相の枯れを防ぐレベルセンシング
このほか、水や有機溶媒を入れておく移動相のボトルが空になってしまい、分析が失敗したり、LCやカラムが損傷するといった最悪の状況を防ぐことを可能とする「InfinityLab レベルセンシング」も提供される。同機能は、移動相ボトル(溶媒ボトル)を搭載するモジュールに重量センサを搭載することで、移動相ボトル内にどれだけ溶媒が残っているのかを自動で把握することができる仕組み。OpenLab CDSと組み合わせることで、溶媒の消費量を予測することができるようにもなり、どの程度のタイミングでどの程度の溶媒が消費されるのかを自動で分析し、もし作業時間に対して溶媒が不足する可能性が生じるなどした場合、溶媒の枯渇する可能性を予告してくれたり、溶媒が一定量以下になった場合、分析を途中で止めるといったしきい値制御なども可能になるという。
バイアルの配置位置を気にしなくて済むようになるサンプルIDリーダー
アップグレードパックでは対応せず、Infinity III LCシリーズのみに搭載される機能としては、QRコードが底部に印字されたバイアルを活用し、作業者が各バイアルが何であるのかを指定することなく、どのバイアルがどういったもので、どこにあるのかをセンサで一気にほんの数秒で把握することができる「InfinityLabサンプルIDリーダー」が提供される。
バイアルのQRコードデータは初回の読み込み時にすべてLC側で把握され、各作業ごとのデータはそのQRベースで紐づけられていくことから、間違った位置においたまま連続分析を行ってミスを発生させてしまうといったことを防ぐことができるようになるという。
また、QRコードでの把握により、作業時間の短縮も図ることができるようになると同社では説明している。
なお、同シリーズの出荷は11月中旬より順次としており、価格としては定価で1260 Infinity III LCが700万円からとしており、Infinity II LCからのアップグレードは100万円前後をイメージしてもらえればとしている。また、日本市場としては、品質管理まで含む製薬会社のほか、大学や公官庁を含む食品、化学・材料、環境分野としており、Infinity II LCシリーズからのアップグレードは元より、それ以前のLCや他社製LCを利用しながらも作業効率などを高めたいと思っているユーザーに向けても積極的なアピールを行っていきたいとしている。