2025年10月4日、良くも悪くも宇宙開発の歴史に刻まれる出来事が起きた。米宇宙企業ユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)による新型ロケット「ヴァルカン」の2回目の打ち上げである。

打ち上げから37秒後、予期せぬ事態が発生した。固体ロケットブースターのノズルが破損し、ロケットは明らかに異常な状態になり、一時は失敗も危惧された。しかし、ロケットは持ちこたえ、計画どおりの軌道に到達した。

今後、今回の打ち上げを評価する米国宇宙軍がどのような評価を下すかが焦点となる。

  • ヴァルカンCert-2の打ち上げ

    ヴァルカンCert-2の打ち上げ (C) ULA

ヴァルカン・ロケット2回目の試験飛行

ヴァルカン(Vulcan)はULAが開発したロケットで、米国の次期主力ロケットのひとつに位置付けられている。

1号機は今年1月8日に打ち上げられ、完璧な成功を収めた。

今回の2号機「Cert-2」ミッションは、米国宇宙軍から「国家安全保障宇宙打ち上げ(National Security Space Launch)」の認証(certification)を得るための試験を目的としていた。米国の軍事衛星などの打ち上げには、米国宇宙軍から認証を受ける必要がある。認証プロセスには2回の試験飛行が必要で、1号機に続き、今回が2回目だった。打ち上げが無事に成功すれば認証が得られ、今年中にも軍事衛星の打ち上げが可能になる。

機体は「VC2S」という構成で、これは固体ロケットブースター(SRB)を2本、長さ15.5mの短いフェアリングを装備していることを意味する。

今回の打ち上げでは、実機の衛星は積まず、質量シミュレータ(重り)を搭載し、また上段から分離もされない。当初、2号機には米国の民間企業シエラ・スペースの無人のスペースプレーン「ドリーム・チェイサー」を搭載する予定だったが、同機の開発が遅れたこと、一方でヴァルカンの認証は遅らせられないことから、重りが搭載されることになった。

さらに、地球周回軌道に到達後には、第2段「セントールV」上段のロケットエンジンの再々着火を行い、最終的に太陽を回る軌道に入る計画だった。

ヴァルカンCert-2は日本時間10月4日20時25分(米東部夏時間同日7時25分)、ケープ・カナベラル宇宙軍ステーションの第41発射施設からリフトオフ(離昇)した。

当初、ロケットは正常に飛行していたものの、離昇から37秒後に、2本装着しているSRBのうちの1本の、ノズルのスカート部分(お寺の鐘のように広がった部分)が破損し、複数の破片が飛び散った。

  • ヴァルカンCert-2のSRBが破損した瞬間

    ヴァルカンCert-2のSRBが破損した瞬間 (C) ULA

このため、全体の推力方向が非対称になり、機体は一時的に傾いたものの、メイン・エンジンが補正することで持ち直した。その後、予定よりやや遅れつつも、SRBの分離や第1段と第2段の分離などをこなし、ほぼ計画どおりの経路で飛行していった。

セントールV上段も予定より約20秒長く燃焼したのち、離昇から約35分後に、計画どおりの高度約500km、軌道傾斜角約30度の軌道に入った。セントールVが長く燃焼することで、SRBのトラブルによる損失を補ったものとみられる。

その後、セントールVは3回目の燃焼を実施し、地球を回る軌道から脱出し、太陽のまわりを回る軌道に入った。

打ち上げ後、ULAは「打ち上げは成功した」との声明を発表した。また、同社のトリー・ブルーノCEOは、「SRBのひとつに、記録すべき出来事が発生したため、現在調査している。ただ、ロケットの性能についてはおおむね満足しており、正確な軌道投入も果たせた」とコメントし、深刻な問題ではなかったことを強調した。

また、ブルーノ氏はXで、「(重りではなく)ドリーム・チェイサーを搭載していたら成功していなかったのでは?」という問いに対し、「それは違う」と否定したうえで、「ロケットは設計どおり機能し、壊れたSRBの推力低下を補った。推進薬の消費量は基準ラインの予備量内であり、ペイロード質量(筆者注:ドリーム・チェイサーの質量のことと思われる)に基づくマージンも影響を受けなかった」と述べ、仮にドリーム・チェイサーを搭載していたとしても打ち上げは成功していたとの見方を示した。

米国宇宙軍は、「我々は、飛行データの分析を開始しており、ヴァルカンがさまざまな国家安全保障宇宙ミッションの認証要件を満たすことを期待している」との声明を発表し、ULAと同じく、前向きな姿勢を見せている。

打ち上げの安全審査などを担当する米連邦航空局(FAA)も、この飛行に関して調査は行わないと発表している。

ブースターが故障したにもかかわらず、打ち上げが成功したことは、不幸中の幸いだったといえよう。飛び散った破片の大きさや、漏れ出した燃焼ガスの方向や量によっては、ロケット全体を破壊していたかもしれない。

また、おそらくノズル・スロート(首のようにすぼまったところ)までは壊れなかったため、推力や比推力(効率)の低下も比較的小さく、飛行全体に大きな影響を与えずに済んだ可能性もある。

今後、米国宇宙軍が今回の飛行に対し、どのような判断を下し、安全保障ミッションに必要な承認を与えるか、そして今年中に予定されている初の実運用ミッションである「USSF-106」が予定どおり打ち上げられるのかどうかが焦点となる。

  • 離昇直後のヴァルカンCert-2のSRBとメイン・エンジン

    離昇直後のヴァルカンCert-2のSRBとメイン・エンジン (C) ULA

ヴァルカン・ロケット

ヴァルカンは、直径5.4m、全長は61.6mの大型ロケットで、2000年代から米国の宇宙開発を支えてきた大型ロケット「デルタIV」と「アトラスV」の後継機となる。従来のロケットから高い信頼性と軌道精度を維持しつつ、より高い性能と低価格を実現することを目指している。

1段目には、液化天然ガスと液体酸素を推進剤に使う「BE-4」エンジンを2基装備する。BE-4は米国の新興ロケット企業ブルー・オリジンが開発し、供給する。

2段目のセントールVは、液体水素と液体酸素を推進剤に使うロケットで、高い効率をもつRL10C-1-1エンジンと、内圧をかけ続けないと自重で潰れるほど薄いステンレスを使ったタンク(通称バルーン・タンク)により、きわめて高い性能を発揮する。

また、第1段の周囲には、ノースロップ・グラマン製のSRB「GEM 63XL」を、0本から6本まで、2本単位で自由に装着することができる。くわえて、大型のフェアリングも用意されており、これにより小型衛星を多数載せた打ち上げや、20t以上もある大型の衛星の打ち上げなど、さまざまなミッションに幅広く、柔軟に対応できる特徴をもつ。

  • 打ち上げを待つヴァルカンCert-2

    キ打ち上げを待つヴァルカンCert-2 (C) ULA

さらに、第1段のロケットエンジン部分のみを分離して回収し、再使用する構想や、第2段を軌道間輸送機として宇宙空間で再使用する構想、第1段を3機束ねた超大型ロケット「ヴァルカン・ヘヴィ」の開発など、今後もさまざまな発展が計画されている。

参考文献】

United Launch Alliance Successfully Launches Second Vulcan Certification Flight
Vulcan Cert-2
Space Systems Command Media Release - U. S. Space Force Participates in Certification Milestone of Future Launch Capability