宇宙葬を手掛ける米国の民間企業「セレスティス(Celestis)」は2022年1月26日、『スター・トレック』の生みの親ジーン・ロッデンベリー氏らの遺灰を、ユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)が開発中のロケット「ヴァルカン」で打ち上げると発表した。
ミッション名は「エンタープライズ」で、打ち上げは今年後半の予定。同社は「『ヴァルカン』という名前のロケットで、この歴史的なミッションを行うことを楽しみにしています」と語る。
セレスティスによるエンタープライズ・ミッション
セレスティスは1994年に米国で設立された企業で、故人の遺灰やDNAサンプル、メッセージをロケットに乗せて宇宙へ打ち上げる「宇宙葬」を手掛けている。
1997年4月21日に最初の「ファウンダーズ(Founders)」ミッションが行われたのを皮切りに、これまでに17のミッションを実施。日本にも代理店があり、日本人の利用も多い。
ジーン・ロッデンベリー(Gene Roddenberry)氏は1921年生まれで、SF作品『スター・トレック(宇宙大作戦)』の生みの親として知られる。映画版や、続編の『新スタートレック(TNG)』の制作にもかかわったのち、1991年に70歳で亡くなった。
私生活では、スター・トレックや新スター・トレックにも出演したメイジェル・バレット氏と1969年に結婚。彼女は2008年に76歳で亡くなっている。
ロッデンベリー氏の遺灰は、1997年に前述のファウンダー・ミッションで宇宙へと打ち上げられた。その際、バレット氏は「いつか自分の遺灰を、夫の遺灰と一緒に宇宙へ打ち上げてほしい」と依頼。そして今回、ついにそのミッションが行われることになった。
ミッション名は、スター・トレックに登場する伝説的な宇宙船にちなみ、「エンタープライズ」と命名。さらに、打ち上げには米宇宙企業ULAが開発中の「ヴァルカン(Vulcan)」ロケットを使用。ヴァルカンは、スター・トレックに登場する異星人の種族名でもある。
同ミッションでは、ロッデンベリー夫妻らの遺灰のほか、DNAサンプル、メッセージなど、150以上のアイテムがカプセルに収められ打ち上げられる。その中には、スター・トレックで機関主任のモンゴメリー・スコットを演じた俳優のジェームズ・ドゥーアン氏の遺灰や、スター・トレックのファンの遺灰も含まれる。
セレスティスの共同設立者兼CEOを務めるチャールズ・M・チェーファー(Charles M. Chafer)氏は、「1997年にメイジェル・バレット・ロッデンベリー氏と交わした約束を実現できることを大変うれしく思います」とコメントしている。
「スター・トレックに敬意を表し、このミッションにエンタープライズと名づけました。この歴史的なミッションを、ヴァルカンという名前のロケットで打ち上げることを楽しみにしています」。
また、ULAの社長兼CEOであるトリー・ブルーノ(Tory Bruno)氏は、「ULAの次世代ロケットであるヴァルカンの初飛行にとって、ロッデンベリー家とスター・トレックのファンの皆さんが参加することは、とてもふさわしいことです」と述べている。
エンタープライズは、ヴァルカン・ロケットの初飛行ミッションの一環として行われる。この初飛行では、米民間企業アストロボティック(Astrobotic)の月着陸機「ペレグリン(Peregrine)」を搭載。まず月へに向けた軌道に乗り、ペレグリンを分離する。その後、ヴァルカンの上段ロケット「セントール」を再度噴射し、セレスティスのカプセルを太陽のまわりを回る軌道へ投入。カプセルは長期間にわたり、深宇宙を飛び続けることになる。
ヴァルカン・ロケット
ヴァルカンはULAが開発中の大型ロケットで、現在運用中の「デルタ」、「アトラス」の後継機として、軍事衛星や科学衛星、商業衛星の打ち上げに使われることになっている。
ロケットは2段式で、第1段にはジェフ・ベゾス氏の宇宙企業ブルー・オリジンが開発する「BE-4」エンジンを使用。第2段にはセントール上段を搭載する。固体ロケット・ブースターの装着基数によって打ち上げ能力を柔軟に変えられるほか、将来的には第2段をより強力な「ACES」上段に換装したり、第1段エンジンを回収し、再使用したりする計画もある。
初飛行は2022年後半に予定されているが、第1段に使用するBE-4エンジンの開発が遅れており、初飛行がいつ行われるかについては不透明となっている。
ヴァルカンという名前は公募で選ばれたもので、公式にはローマ神話の火の神ウゥルカーヌス(の英語読み)に由来するとされている。
ただ、名前と投票が行われる直前に、『スター・トレック』に登場する異星人「ヴァルカン」のキャラクターであるスポックを演じた、俳優のレナード・ニモイ氏が逝去。SNSなどを中心に、「ニモイ氏を偲んでヴァルカンに投票しよう」という声が多くあがった。
名前の決定後、米国の複数のメディアが「『スター・トレック』にもちなんでいる」と報じても、ULAは否定も肯定もしなかった。ULAにとっては投票で名前が決まったということが重要であり、投票した人々にどういう意図があったかまでは干渉しないという姿勢をとっている。
参考文献
・Star Trek First Family Embarks on Final, Infinite Journey on a Rocket Named Vulcan
・Enterprise Flight | Memorial Spaceflights
・United Launch Alliance to Host First Celestis Payload to Exit the Earth-Moon System