宇宙航空研究開発機構(JAXA)は10月8日、2020年11月に打ち上げた「光データ中継衛星」に搭載している「光衛星間通信システム」(LUCAS)と、2024年7月に打ち上げた先進レーダ衛星「だいち4号(ALOS-4)」との間で、通信速度1.8Gbpsの光衛星間通信に成功したことを発表した。

陸域観測技術衛星「だいち2号(ALOS-2)」の後継機に位置づけられる“だいち4号”は、打ち上げ直後より搭載した各種機器に対する軌道上での動作確認である「初期機能確認運用」が実施されており、その一環として8月20日からだいち4号とLUCASを対向させた試験が実施された。

  • 光データ中継衛星に搭載されているLUCASの光学部

    光データ中継衛星に搭載されているLUCASの光学部 (C)JAXA (出所:JAXA Webサイト)

  • 「だいち4号」に搭載されている光衛星間通信機器光学部

    「だいち4号」に搭載されている光衛星間通信機器光学部 (C)JAXA (出所:JAXA Webサイト)

だいち4号は、高度約628kmの太陽同期準回帰軌道に投入されている。一方のLUCASを搭載している光データ中継衛星は約3万6000kmの静止軌道に投入されている。高度2000km以下の低軌道を周回する衛星、中でも大容量の観測データを送信する必要があるだいち4号のような地球観測衛星では、通信時間の確保が重要となるが、地球をおおよそ90分で地球を1周するだいち4号と1つの地上局との直接通信時間は、1周のうちで10分ほどしか確保できない。しかし、光データ中継衛星を経由すれば、およそその4倍となる、半周分の間にわたって通信することが可能となる。

JAXAでは過去、電波を用いたデータ中継技術衛星「こだま(DRTS)」(2002年9月打上げ、2017年8月運用終了)を用いて、だいち2号などの地球観測衛星で観測された大容量データの中継伝送に成功していたが、こだまの通信速度は240Mbpsほどで、通信に用いられたアンテナの直径は3.6mだった。それに対して光データ中継衛星に搭載されたLUCASの通信速度は1.8Gbpsながらアンテナ径は14cmほどと、こだまに対して通信速度は7倍に高速化されつつ、アンテナ径はおよそ1/30へと小型化されている。

今回の実験において、両衛星間の距離はおよそ4万kmだったという。光の速度であれば0.1秒強ほどの距離だが、地球を低軌道で周回するだいち4号は、第一宇宙速度の秒速8km弱で移動している一方、静止軌道はもう少し遅い秒速3km強ほどで移動しており、0.1秒でだいち4号は約800m、光データ中継衛星では約300mほど移動することになり、光通信を正確に行うのは容易ではないとされている。

そうした中で今回の実証では、だいち4号の光衛星間通信機器とLUCASとの間で相互の捕捉・追尾の確立に成功し、だいち4号へのコマンド送信と、だいち4号からのテレメトリ取得が達成されたという。

通信光波長1.5μm帯での通信速度1.8Gbpsは世界最速記録、かつ静止軌道~低軌道間の光衛星間通信の成功は世界初となるという。この波長帯は地上の光ファイバ通信網で用いられる汎用的な波長であり、高い性能を有していることから、今後宇宙での利用が見込まれるという。

今回の通信成功により、一般的な低軌道衛星と地上局間の1日あたりの通信時間が、従来の1時間ほどから、光データ中継衛星を経由することで、約9時間に増えるという。その結果、低軌道を周回する地球観測衛星が地上局とは直接通信できないエリアで取得したデータであっても、静止軌道衛星経由でリアルタイムに地上に伝送することも可能になるほか、緊急時には光データ中継衛星を中継して地上から衛星に向けてコマンドを送り、迅速に画像を取得することも期待できるという。

なお、JAXAでは今後も引き続き、LUCASとだいち4号を用いて、衛星間距離や互いの位置関係の違いがどのように通信品質に影響するかなどの評価を行う実証実験を実施し、実用化を目指すとしている。また、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」など、だいち4号以外の200~1000km程度の軌道を周回する宇宙機からの観測データや実験データを光データ中継衛星で中継して地上局に伝送する実証を行う予定としている。

  • 光データ中継システムの概要

    だいち4号で取得された画像データが、光データ中継衛星を経由して地上局に伝送される光データ中継システムの概要。だいち4号と光データ中継衛星間の衛星間回線は光通信、光データ中継衛星と地上局間(フィーダリンク回線)は電波(Kaバンド)が用いられる (C)JAXA (出所:JAXA Webサイト)