デル・テクノロジーズ(以下、デル)は10月3日、年次イベント「Dell Technologies Forum 2024 - Japan」を東京都内のホテルで開催した。基調講演のステージには、グローバルCTO(Chief Technology Officer)・CAIO(Chief AI Officer)のJohn Roese(ジョン・ローズ)氏が登場した。

Roese氏は「今後3年間のうちに、IT基盤の大部分はAIワークロードのために使われるだろう」「AIを使うかどうかではなく、AIをどう使うのかを考えないと勝てない」と語るなど、AI活用に強気な姿勢を見せた。加えて、デル社内におけるAI導入の方針についても紹介した。以下、同氏の講演内容をレポートする。

  • 米Dell Technologies CTO & CAIO John Roese氏

    米Dell Technologies CTO & CAIO John Roese氏

AI活用のために考慮したい5つのポイント

講演の冒頭、Roese氏は「AIは人が考えるという作業を機械に移行する技術である」と話を始めた。生成AIの台頭により、意思決定の支援や創造的な作業も一部は機械で置き換えられるようになりつつある。同氏は将来的に既存の仕事のうち20~30%ほどがAIで代替されるとの予想も示した。

「AIはかつてないスピードで変化している。2年前まで、LLMや生成AI、RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)といった技術はここまで身近ではなかった。これほどのスピードをわれわれは体験したことがない。もはや、AIを導入するか否かは問題ではない。どれだけのスピードでAIを導入するのかが問題である」(Roese氏)

続けて、同氏はAI利用を加速するための5つのポイントについて紹介した。当然ながら、AIは万能ではない。AIはデータを使って学習し、データを使って新たな洞察や予測を出力する。世界で生まれるデータの大部分は公開されておらず、企業内で保有されている。AI利用を加速するための最初のポイントは、データを一箇所に集約してAIをデータの近くで活用すること。

データとAIのコンピューティングリソースが離れている場合、データの移動に時間とコストを要する。そのため、データからリアルタイムにインサイトを得るために、データが生まれる場所の近傍でAIを活用するべきだという。

また、ITインフラのサイズの適正化も重要となる。Roese氏は「今後3年間で企業のITインフラの大部分がAIのワークロードをサポートするために使われるだろう」と予想。企業サイズの変化に対応してITインフラのサイズも適切に変更するよう訴えた。

  • 米Dell Technologies CTO & CAIO John Roese氏

AIに向けたITインフラの構築には、オープンモジュール性も重要となる。Roese氏が指摘したように、2年前には生成AIやそれに関連するRAGなどの技術は身近ではなかった。それほどまでに、数年後を予測するのは難しい。だからこそ、「単一のベンダーにすべてを賭けてロックインされるのは避けてほしい。コンポーネントが将来変わるという前提で動くことは、投資保護の観点からも重要」だと同氏は訴えている。

5つ目のポイントはオープン型のエコシステム。「当社だけで完ぺきなAIというものは提供できない」として、Intel、NVIDIA、Microsoftをはじめ、AMD、CLOUDERA、Hugging Face、Metaなどとの連携の重要性を説明した。

これら5つのポイントにサステナビリティとセキュリティを加えて考慮することこそが、ビジネスのリスクを低減しつつ安全で信頼性の高いAI戦略を構築する際に重要となる。

  • AI活用のための5つのポイント

    AI活用のための5つのポイント

AI導入を進める際に決め手となる優先事項とは?

次に、Roese氏はAIを蒸気機関に例えて、その重要性を説明。蒸気機関は単なる製品ではなく、燃料を仕事に変えてモノを動かす土台となるテクノロジーであり、物流や製造や交通などあらゆる産業を支えた。AIもこれと同じことが言えるという。AIの場合はデータが燃料でありエネルギー源となる。

「AIのインフラについて戦略的に考えてほしい。サーバを導入すれば良いというだけの問題ではない」(Roese氏)

AIワークロードに最適なITインフラをについて考え始める企業が少しずつ増えているという。高性能なAIを有効に活用するべく、クラウド一辺倒ではなくオンプレミスへの回帰も見られ始めているそうだ。

これを裏付けるように、Roese氏は「ワークロードの再配置を計画している企業のCIOの割合は83%」「専用の高性能AIインフラストラクチャは汎用クラウドを使用するよりも約75%安価」などの調査結果を示した。

AIインフラストラクチャを戦略的に考える利点の一つは、高性能なワークロードを効率的かつコストを抑えながら実行できることだという。

デルが単にサーバやストレージといった製品のベンダーとしてではなく、AI戦略全体を支援するとして打ち出しているのがポートフォリオ「Dell AI Factory」。Roese氏はその中から、AI戦略の構築について筋道を示していた。

  • Dell AI Factoryの概要図

    Dell AI Factoryの概要図

まず、戦略で最も重要な入口となるのは「ユースケース」である。コストやリソースが限られるため、思い付く限りのAI活用プロジェクトを手当たり次第に並行して実行することはできない。そこでまず問うべきは「何が会社を特別にするのか?」、そして「会社がより良くなるためには何が必要なのか?」といったことなのだという。デルであれば、その答えはサプライチェーンであり、営業であり、エンジニアリングとなる。

Roese氏は「当社において人事、財務、施設はもちろん重要だが、私たちはそれらを優先事項ではないと判断した。HRを改善してもデルの成果は変わらないが、サプライチェーンが1%変わればデルの業績が大きく変わることになる」と解説。

その後に、優先すべき領域の中でどのようにAIを活用できるのかを考える。例えば、ソフトウェア企業であればコーディング、製造業であればサプライチェーン、カスタマーサポートであれば自動診断や予測的な問題特定などだ。

最後にRoese氏は「AIほど影響が大きく、変革が早いものを私たちは見たことがない。AIは選択肢ではなく、使わなければ勝てない」と再度強調した。その上で「怖いかもしれないが、AIを迅速に導入できればこれまでにない利益や能力を手に入れられるはず。皆さんと一緒にAI活用のジャーニーを歩めることを楽しみにしている」と述べ、ステージを後にした。

  • 米Dell Technologies CTO & CAIO John Roese氏