生産性と効率性を向上させるために、ロボットが産業現場に導入されてきました。インダストリー4.0からインダストリー5.0への移行に伴い、工業メーカーはAIやその他の先進技術を活用して、人間中心のアプローチと持続可能性に重点を置いて競争力の向上に努めてきました。人間とロボットの相互作用を強化するこのトレンドによって、組織が効率性と品質の向上を追及する中で、自律移動ロボット(AMR)の採用が大幅に増加しました。

AMRは、最新の製造施設や倉庫で人間のオペレータと並んで作業するために、複雑なハードウェアシステムとソフトウェアシステムを必要とします。ロボットは大きな力を発生し、高速で移動できるため、偶然の衝突で人間の共同作業者を負傷させるなど、一定のリスクをもたらす可能性があります。このようなリスクは、関連する作業プロセスのセットアップとロボット自体の設計の両方において、注意深く管理しなければなりません。

  • 今日のロボット

    図1:近代的な工場で、人間のオペレータと共同で作業するように設計されている今日のロボット

本稿では、人間と安全かつ効果的に共存できるAMRシステムを設計する上で重要な側面について考察します。また、onsemiの提供する各種ソリューションがAMRのサブシステムの構成要素としてどのように機能するのかについても説明します。

人間と共存するオートメーションの台頭

産業用ロボットの本格的な導入は1960年代のコンピュータ時代に始まり、現在では推定340万台の産業用ロボットが使用されています1)。過去20年の間に、デジタル技術の進歩により、複雑な環境をナビゲートし、チームで作業してタスクを完了できる協働ロボットや移動ロボットが登場しました。

産業オートメーションがインダストリー4.0からインダストリー5.0へと進化することに伴って、人間と機械の相互作用のレベルがさらなるAMRの需要を促進し、市場規模は2022年の10億2000万ドルから2030年までに3倍の31億3000万ドルに達すると予測されています2)(図2)。

  • AMRの市場規模は2030年までに3倍に拡大すると予測

    図2:AMRの市場規模は2030年までに3倍に拡大すると予測

AMRはコスト効率が高く、導入が容易で、人間のオペレータと共同で作業することで、どちらか一方だけでは達成できない優れた結果を生み出します。例えば、協働ロボットのスピード、精度、一貫性は、溶接や組立ライン作業などの反復作業に最適で、人間の作業者はより高い認知スキルを必要とする複雑な作業に集中することができます。

従来の固定されたロボットは、怪我を防止するために物理的に人間と分離することができましたが、共用ワークスペースの概念は新たな課題をもたらします。AMRは予期しない力を感知し、必要に応じて素早く動作を停止できなければなりません。ワークスペースでは人間や物との衝突を回避できない場合がありますが、ロボットは衝撃を軽減して怪我や損傷を防止できなければなりません。しかし、ロボット設計者は、センシング技術やビジョンシステムの進歩を生かして、これらの課題を安全に克服し、ロボットのパワーと精度を人間の創造的な問題解決能力に近づけることができます。

AMR内の主要サブシステム

AMRは複数のセンサ、AI、高度なアルゴリズムを使用して環境と対話し、意思決定を行い、障害物を検知し、人間のオペレータや他の機械と安全に連携します。

図3の機能ブロック図は、モーション制御、センシング、照明、電源と充電、通信などの重要なサブシステムを備えたAMRシステムの代表的な設計を表しています。

この記事では、センシング、モータ制御、照明の各サブシステムを重点的に説明します。

  • 図3:AMRシステムの代表的な設計

    図3:AMRシステムの代表的な設計

センシングサブシステム

ロボットはセンサによって動作環境に適応し、リアルタイムのデータに基づいて意思決定を行うことができます。センサの種類には、画像センサ、超音波センサ、赤外線センサ、誘導センサ、慣性センサなどがあり、ロボットのナビゲーションや安全性を高めるために使用されます。積載ランプのような複雑な状況を克服するには、異なる種類のセンサが必要な場合があり、センサフュージョンは複数のセンサからのデータを統合します。

オンセミのAR0234CSは、鮮明でシャープなデジタル画像を生成するグローバルシャッタ・イメージセンサです。このセンサは革新的なピクセル設計により、毎秒120フレームで、動きのあるシーンを正確かつ高速にキャプチャできるように最適化されており、低照度でも明るいシーンでもクリアでノイズの少ない画像を生成します。ビデオストリームと単一フレームの両方をキャプチャできるため、AMRなどの幅広い産業用アプリケーションに適用可能です。

AR0234C以外にもオンセミは広範なセンサポートフォリオを有しており、その中にはシングルポイントLiDARシステム向けのターンキーソリューションに近いARRAYRDM-0112A20-QFNも含まれます。NCV75215超音波センサは、0.25mから4.5mまでのToF測定を低コストで実現できるため、AMRアプリケーションにも向いています。

モーションコントロールサブシステム

ロボットは反復的で正確な動作ができなければなりません。アームやトラクションシステムを含むほとんどの可動部分は、複雑なアルゴリズムによって制御されるブラシレスDC(BLDC)モータに依存しています。通常、BLDCは可変周波数ドライブ(VFD)によって制御され、MOSFET、IGBT、ゲートドライバ、ダイオードなどのディスクリート部品を使用します。パワー統合モジュール(PIM)とインテリジェントパワーモジュール(IPM)は、高度な統合を提供して、部品点数を削減し、スペースを節約します。

オンセミはディスクリート部品とモジュールの両方を提供しており、中にはロボットモータ制御に最適な、高ゲイン帯域幅の電流センスアンプを備えた60Vの多目的3相ゲートドライバであるNCD83591モータドライバが含まれます。このゲートドライバは、小さなフットプリントのQFN28(4mm×4mm)パッケージに高集積度で封止されており、BOM全体の最適化に向いています。また、モーションコントロールシステムで車輪やその他の可動部品の回転測定に使用される、誘導位置センサNCS3210およびNCV77320も提供しています。

照明サブシステム

照明技術は進路を照らし、AMRのナビゲーションや動作を支援するほか、信号を送出して状態や意図を示すことで、他のAMRと通信するために使用されます。LED照明技術は、明るさ、色温度、消費電力などの性能特性に基づいて選択されます。LED照明ソリューションは、LEDドライバ、降圧または昇圧コンバータ、パワーMOSFETに限らず、さまざまなコンポーネントを使用して構築できます。

LEDコントローラとドライバは、LEDに流れる電流を監視し、特定の強度と波長の発光を可能にするコンポーネントです。LEDドライバ回路は、ハイサイドとローサイドのパワーMOSFETを使用してLED電流のオン/オフを切り替え、過電圧や過電流状態から保護するとともに、LEDドライバ回路の安定性を確保します。LEDリニア電流ドライバであるNVC7685には、共通リファレンスを備えた12個のリニアプログラム可能な定電流源があり、128の異なるPWM可変デューティサイクルレベルを可能にします。このリニアLEDドライバは、LEDの調整および制御用に設計されており、AMRや車載アプリケーションに利用することができます。

ロボットに向けた総合的なサポート

ロボットのアプリケーションは絶えず変化しており、革新的なソリューションを最初に市場に投入できる企業に大きな利益をもたらします。 オンセミは、このダイナミックな環境における顧客が直面している課題を理解しており、深い技術力と専門知識を活用して、この市場をサポートしています。

例えばセンシングおよびロボット技術に対する理解は、堅牢なグローバルインフラストラクチャと、設計、製造、ソリューションエンジニアリングにおよぶ能力を基盤としています。また、多様な技術を提供し、産業および自動車市場における深い知識を組み合わせることで、ロボットシステム向けの柔軟で拡張性の高い製品およびソリューションを提供しつつ、システムレベルのサポートを提供しています。

まとめ

人間の労働力から切り離された旧世代のロボットとは異なり、最新のロボットは安全に協力し、身体的な危害や損傷を防止するように設計されていなければなりません。新世代のロボットソリューションは、製造業、電子商取引、ヘルスケア、輸送など、品質や安全性を損なうことなく効率化を求める競争圧力にさらされる幅広い産業を変革しています。これらの柔軟でカスタマイズ可能なロボットは、人間と一緒に働くように設計されており、精度が要求される反復作業を行うことで、オペレータはより価値の高い作業に集中することができます。

本記事はonsemiが「Automation.com」に寄稿した技術記事を邦訳・改編したものとなります

参考資料

1) https://explodingtopics.com/blog/robotics-industry-stats
2) https://www.statista.com/statistics/1407175/amr-market-size-worldwide/

著者プロフィール

Theo Kersjes
onsemi
Systems Engineering Manager