東北大学は10月2日、身に着けたまま健康状態がわかる電子繊維や電子皮膚などの実現に必須の「高感度のひずみセンサ」に向けて、柔軟なポリイミド基板上に成膜したアモルファス「Cr2Ge2Te6」(CrGT)半導体薄膜の「圧抵抗効果(ピエゾ抵抗効果)」を測定した結果、ゲージ率がほかの半導体材料よりも2桁以上大きい6万という値を示すことを発見したことを発表した。
同成果は、東北大大学院 工学研究科の王吟麗 大学院生(現在は京都大学 特定助教)、同・須藤祐司教授(東北大 材料科学高等研究所兼任)、同・大学大学院 環境科学研究科の成田史生教授らの研究チームによるもの。詳細は、英国王立化学会が刊行する材料科学全般を扱う学術誌「Materials Horizons」に掲載された。
近年、身に着けることで健康状態がわかる電子繊維や電子皮膚などの開発が期待されているが、その実現にはわずかな変化を把握できる高感度なひずみセンサが重要とされている。
しかし一般的には、SiやGeなどの半導体材料は、高温ドーピング処理が必要で、融点が低い基板の上で成膜することが難しいという課題があった。そうした課題に対し、大きな圧抵抗効果を示す新材料として、In2Se3やGe2Sb2Te5(GST)などのカルコゲナイド材料が期待されており、中でもアモルファスGST半導体薄膜は、ひずみによる電気抵抗の変化率であるゲージ率で300以上という高い値を示すことが報告されている。しかし、GSTアモルファス相の抵抗値が高く、ゲージ率の向上に限界があること、アモルファス相の熱耐性が不十分などといった実用化のために乗り越えなければならない課題がいくつかあることから、今回、研究チームでは、これまでのカルコゲナイド材料に関する研究過程で見出した、アモルファスCrGT薄膜が、GSTなどの既存アモルファスカルコゲナイドとは異なり、高い耐熱性や低抵抗率を示すことに着目。アモルファスCrGTを主材料として、圧抵抗効果に関する研究として、ポリイミド基板上に成膜したアモルファスCrGT薄膜では約6万という、ほかの半導体材料と比べて2桁以上大きいゲージ率を示すことを確認したという。
また、ひずみの負荷・除荷によるアモルファスCrGT薄膜の抵抗変化メカニズムの調査を進めた結果、大きな抵抗変化は、引張ひずみによるき裂の発生と進展が巨大抵抗変化の主要因であることが示されたとするほか、ポリイミドの弾性変形範囲内のひずみ領域内では、ひずみ負荷によりCrGT薄膜内に発生した開いたき裂により抵抗値が増加する一方、ひずみ除荷によりき裂が完全に閉じることで、抵抗値は完全に初期の値に戻ることも確認。また、その歪み範囲では、繰り返し使用できることも確認したという。
これらの結果は、アモルファスCrGT薄膜のき裂の発生・開閉を利用することで、既存材料の限界を超えた、巨大かつ可逆的な抵抗変化を実現できることを示すものであると研究チームでは説明しているほか、今回の研究では、ポリイミド上にアモルファスCrGT薄膜を配置した簡単なひずみセンサーを提案し、動脈の脈波を明瞭に検出できることを実証するなど、健康モニタリングシステムへの応用可能性も示したとする。
なお、アモルファスCrGT薄膜は一般的なスパッタリング法で成膜でき、高温熱処理を必要としないため、さまざまな柔軟な基板への適用が可能と研究チームでは説明しているほか、今回の成果については、脆性薄膜と柔軟な弾性基板の組み合わせによるひずみセンサを提供するものであり、単純なデバイス構造ながら超高感度を実現できることから、健康診断システムをはじめとする多様なセンサへの応用が期待されるとしており、今後、アモルファスCrGT薄膜に発生するき裂の定量評価や耐久性を検証するとともに、CrGT以外の脆性半導体薄膜における圧抵抗効果にも焦点を当て研究を進めていきたいとしている。