名古屋大学(名大)と情報通信研究機構(NICT)は10月1日、2024年5月11日に日本各地でオーロラを起こしたと考えられる複数回発生した大規模な太陽嵐の電波観測に成功したことを発表した。
同成果は、名大 宇宙地球環境研究所(ISEE)の岩井一正准教授、NICTの塩田大幸研究マネージャーらで構成される研究グループによるもの。詳細は、9月11日~13日に神戸大学で開催された「日本天文学会秋季年会」にて口頭発表された(発表日は9月11日)。
2024年5月上旬に、太陽活動が活発な状態となり、複数回の大規模な「太陽フレア」が発生したのに伴い生じた「太陽嵐」が地球に到来し、地球周辺環境に大規模な擾乱現象(磁気嵐)を発生させたことが確認されている。日本でも5月11日(日本時間)に、通常は極域でしか観測できないオーロラが観測されたほか、当該期間中には衛星ナビゲーションにおける誤差の増大や、短波通信に障害があったことなども報告されており、太陽嵐による擾乱との関連が調べられている。こうした影響を踏まえ研究グループでは今回、5月11日の大規模な地磁気擾乱を起こした太陽嵐から時間軸を遡っての電波観測結果を分析することにしたという。
太陽嵐は、太陽表面で生じた太陽系最大の爆発現象であるフレアによって、太陽の大気であるコロナの一部が超高速の爆風として惑星間空間に放出されたもの。高エネルギーのプラズマの塊であり、電波を散乱する性質がある(放射線(X線)も発生する)。そうした太陽嵐を検出するには、太陽系外の電波天体を観測した際の電波が散乱されて強度が激しく揺らぐことを用いることで可能だという。
ISEEでは、国内3か所に設置された大型電波望遠鏡群を用いて、太陽嵐を検出するための地上電波観測を連続的に行っており、今回の研究では、愛知県豊川市に設置された約4000m2の面積がある国内最大級の電波望遠鏡で観測されたデータの解析が行われた。
小規模な太陽フレアは常に発生しており、それに伴い、それほど威力の無い太陽嵐は常に発生している。これは、惑星間空間は常に太陽風が流れているということを意味し、程度の差はあるが、電波天体からの電波はこの太陽風によって毎日散乱されていることが検出されている。今回の解析からは、4月29日の時点ではまだ太陽活動が活発化していなかったが、太陽嵐が地球に到達する直前の5月10日の観測では、非常に多くの天体から大振幅の散乱反応が得られていたことが確認されたという。
また、太陽系を模した三次元空間の中心(太陽)から、太陽観測や地球周辺の人工衛星による観測から予想される太陽嵐に近いパラメータを入力し、その伝搬を磁気流体の方程式を用いて解く形で今回観測された太陽嵐の伝搬がNICTにて磁気流体シミュレーションとして解析され、その結果、電波の散乱が検出された方向は観測時間中に太陽嵐が通過していたと考えられる領域と概ね一致したという。さらに、この期間は複数の太陽嵐が発生し、それらが隣接・合体することで、高密度な領域が宇宙空間の至る所に形成されていた可能性が示唆されたともしており、この高密度な領域は特に電波を散乱しやすく、強い電波散乱がさまざまな方角で観測されたことを説明できるとした。
ちなみに5月10日に観測された顕著な電波の散乱現象はオーロラの原因となった可能性がある太陽嵐群によるものと考えられると研究グループでは指摘しており、特に複数の太陽嵐が複合することで大規模に発達する現象は地球への影響も大きくなる可能性があり、そのような現象を電波観測で事前に捉えたことには大きな意義があるとする。そのため、今後は太陽嵐の電波観測結果をリアルタイムに解析し、その結果を再現できるようなシミュレーションを行うことで、同様の現象を地球への到来前に予測できる可能性があるとする一方、今回観測された顕著な電波の散乱現象の方角は、シミュレーションから予想される太陽嵐の方角と完全には一致していなかったことから、この違いの解消には、より多くの観測データが必要となることに加えて、シミュレーションに使ったモデルの改良も必要と考えられるため、今後の研究が期待されるとしている。
なお、太陽嵐による電波の散乱現象をより高性能に検出するために「次世代太陽風観測装置」の開発計画が名大を中心に進められているが、この計画は最先端のデジタル信号処理技術を搭載した国内最大級の電波望遠鏡を開発し、現在の10倍の太陽嵐観測性能を実現するというもので、太陽嵐の予報精度を飛躍的に向上させることが期待されるという。