京都大学(京大)は9月24日、夜型生活者の不眠を対象として、スマートフォンアプリを用いた時間生物学的な睡眠行動療法(デジタルBBTI)と、LEDライトグラスを用いた光療法(LT)を併用する介入プログラム「デジタルBBTI with LT」を開発し、夜型生活者の不眠に対する有効性を検証した結果、不眠重症度質問票の変化の違いは統計学的に有意であり、同プログラムの有効性が示されたと発表した。

同成果は、京大 学生総合支援機構の降籏隆二准教授、同・大学大学院 医学研究科の石見拓教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、欧州睡眠研究協会が刊行する睡眠に関する全般を扱う学術誌「Journal of Sleep Research」に掲載された。

  • 今回の研究成果を活用したイメージ

    今回の研究成果を活用したイメージ(出所:京大プレスリリースPDF)

睡眠の問題は若年成人において重要な健康課題の1つとなっている。個人の最適な就寝時刻・起床時刻はクロノタイプと呼ぶが、思春期にはクロノタイプの夜型化が急速に進むことが知られている。夜型が強い場合は、個人のクロノタイプと、学校の登下校の時刻、会社の出勤・退勤時刻などの社会的時刻との乖離が大きくなるため、入眠困難、起床困難、日中の過剰な眠気、不安、抑うつなどを引き起こす原因となる可能性があり、その結果、学業や就業に支障をきたしたり、精神的な不調を引き起こしたりする原因となることもある。

対応方法の1つとして、対面で行う時間生物学的な睡眠行動療法と光療法の併用の有効性が示されている。光療法については、近年、利便性の高いLEDライトグラスが開発されているが、時間生物学的な睡眠行動療法は専門家が不足しており、提供機会が限られているという。そこで研究チームは今回、スマートフォンアプリと起床後にライトグラスを併用する介入プログラムを開発することにし、夜型生活者で不眠を持つ大学生を対象として、介入プログラムの有効性を検証することにしたという。

今回の研究では、まず、時間生物学的な睡眠行動療法を簡便に提供するためのスマートフォンアプリとして「SleepHealthy-Eveningtype」が開発され、同アプリに加えて起床後にライトグラスを併用する介入プログラム「デジタル BBTI with LT」が開発された。

同介入プログラムの有効性の検証では、「朝型-夜型質問紙」を用いた結果が「明らかな夜型」もしくは「ほぼ夜型」に該当し、不眠重症度質問票が8点以上の不眠がある大学生28名(介入群[n=14]と対照群[n=14])を対象として、介入効果を公平に比較することができる「並行群間無作為化対照試験」が行われた。

介入群には、スマートフォンアプリを用いて、時間生物学的な睡眠行動療法(デジタル BBTI)が提供され、さらに介入群には、4週の全期間のうちの2~4週目に、起床後30分間LEDライトグラスを使用した光療法が行われた。主要評価項目として不眠重症度質問票が測定され、副次評価項目として、朝型-夜型質問紙、スリープヘルス(睡眠健康)の評価を行う質問票「RU-SATED」などをもちいた測定が行われた。主要評価項目の解析は線形混合モデルが用いられ、副次評価項目の解析は独立したサンプルの「t-検定」(介入プログラムの使用に効果があるといえるかどうかを、使用前後のデータを元に統計的に検証する際に使用する方法)が用いられた。

組入時の不眠重症度質問票の平均値は、介入群12.2点、対照群12.5点だったが、4週間後の平均値は介入群7.2点、対照群10.6点であり、不眠重症度質問票の変化の違いは統計学的に有意だった。副次評価項目では、朝型-夜型質問紙で評価されたクロノタイプの朝型化、RU-SATEDで評価されたスリープヘルスの改善が見られたという。以上の結果から、夜型生活者の不眠を対象とした臨床試験において、デジタル BBTI with LTの有効性が示されているとした。

  • 4週間の試験期間中の不眠重症度質問票の得点は、介入群は平均5.0点低下、対照群は平均1.9点低下した

    4週間の試験期間中の不眠重症度質問票の得点は、介入群は平均5.0点低下、対照群は平均1.9点低下した。線形混合モデルを用いた検定の結果、介入群の不眠重症度質問票の変化は、対照群と有意に異なることが示されたという(出所:京大プレスリリースPDF)

今回開発されたデジタル BBTI with LTは、夜型生活者で不眠を持つ若年成人の睡眠問題の悪影響を軽減するため、重要な役割を果たす可能性があるとする。今後は、より多数例を対象とした研究を行い、さらに検証を進める必要があるとしている。