山田卓・エネクト社長「アジア全体で人々が自由に行き来し、人・もの・サービスの流動化によって発展する世の中をつくっていきたい」

アジアの人材が日本における人手不足を補っている現状――。社会情勢が安定しないミャンマー国内では雇用も不安定化しており、高校卒業後は海外に出て働くという選択肢が一般的。一方で日本は人手不足が深刻化し、長期的に見ても人口減少で労働力が足りなくなることは目に見えている。日本政府はそういった問題に対し、移民を促進する政策を積極的に推進するが、まだまだ外国人が日本で労働するにはハードルが高いという。最近では外国人労働者からは日本が選ばれない国になっているという声も聞こえてくるが、「ミャンマーにおいてはまだまだ日本は魅力的な国ととらえられています」と話すのはミャンマーの人材を中心に人材採用支援事業を行うエネクト社長の山田卓氏。アジアの国同士の交流を促進することが今後の経済を発展させることにもつながるという同氏の思いに迫る。

社会課題解決が起業のきっかけ

 ―― 山田さんは日本に行きたいという技能実習生や特定技能ビザで就労するミャンマーの方たちの技能実習生を支援するという事業をされていますが、起業のきっかけから教えてください。

 山田 もともと広告代理店に勤めていたのですが、クライアントと2018年にミャンマーに旅行に行ったことがきっかけで、ミャンマーの現パートナーであるミン・ウェイさんという方と出会ったことが大きいです。ミン・ウェイさんは日本への留学生教育支援団体の会頭を務めていた方で、日本との関係が深い方だったんですね。

その方が来月も来て欲しいと言ってくれて、何回かミャンマーに行っているのを繰り返しているのちに、日本人のブローカーがミャンマーの学生に詐欺を働いた犯罪のケースや手数料ビジネス化しているという問題に直面したんですね。

ですから日本に行きたいミャンマーの方々が安心して相談できるところがあればもっとミャンマーの若者たちのためになるのではと思い起業しました。

 ―― 最近では外国人就労者からは日本は人気がないという声も聞こえてきていますが、ミャンマーでは日本に行きたいという人はまだ多いんですか。

 山田 そうですね。クーデターがまだ起きていて情勢が安定していないので、新たに雇用が生まれないという状態です。高校を出たら日本へ行くか、韓国、オーストラリア、シンガポールへ行くか、というのが一般的なんですね。仕事がないわけではないのですが、日本円で言うと月収1万円のような状態です。

国内では物価は上昇しているのに自分たちの給与が上がらないという状態ですから、まだまだ海外に出ていくというのは一般的です。その中でも日本は魅力的な場所と思ってもらっています。アニメやアイドルなどを通して日本の文化が好きという人が多いので、日本に行きたいという人も多いです。

 ―― そういった人に対して教育も含めての支援ということですが、具体的にはどういったことですか。 

 山田 日本語のトレーニングや介護人材を育てるための研修を行っています。業界は多岐にわたり、飲食や農業を希望している子もいます。

 ―― 日本企業からはミャンマーの人材についてはどういった反応ですか。

 山田 ミャンマーの子は頑張る子が多いと言ってもらえています。特に介護職はミャンマーの子は国民性としても非常にマッチしているのではないかと。

意見が控えめで、自分の主張をするよりも相手の出方をうかがうような性格の子が多いです。あとは礼儀正しさを重視することや、目上の人を尊敬する文化があって、日本に似ていると思います。

 ―― 他社とはどういった差別化を行っていきますか。

 山田 ミャンマーの人は稼ぐ場所を探している、一方で日本は働いてくれる人がいない。この課題解決ということでソリューションを提供していきたいと思っています。

今後、日本国内では人口が減っていきますし、現在は人手不足が深刻で、日本企業にとっては働いてくれる人材は非常に有難い存在です。ただ単にミャンマー人を企業に送るということではなく、日本で教育コストがかからないようにわれわれが基礎的な教育をして、日本に入国する時点で一定の戦力として働けるレベルの人材を育てるということを徹底しています。日本側が困っているものをいかに提供できるか? ということがポイントだと考えています。

 ―― オリジナルの人材教育をされているのですか?

 山田 はい。ミャンマー現地では、就労した際、スムーズに業務が行えるような専門的な授業を行ったり、日本側とオンラインの日本語授業を行ったりしています。入国前の研修中の人材は20歳頃から半ばくらいまでの年齢層がボリュームゾーンで、いま40名ほどいます。

外国人に日本で働いてもらう上での課題はたくさんある

 ―― 現在外国人労働者が日本で働く場合、課題はどういったところにありますか。

 山田 制度的なところでいくと、日本人と同等に社員として雇用しているので社会保険加入は必須ということが一つあります。ですが、ミャンマーの方々は60歳まで日本にいるかもわかりません。また、5年間に一度、払った年金を払い戻してもらう年金脱退一時金という制度があるのですが、それを受け取るために5年間で会社を一度退社して国外に出る必要があります。現在では5年以上日本に住み続けている就労者も増えてきたので、こういったことは企業にとっても本人にとっても不経済ですから、制度改正が必要だと思います。

 ―― 一度退社した方が就労者にとっては利益が大きいと。

 山田 そうです。東南アジアの方々は基本的に不安定な国勢の中で生きてきているので、長期的な視点で将来を考えるのが難しいんです。将来的に自分がどうなっていきたいのか見えづらいですし、60歳まで生きられるかもわからないので、それだったら一時金をもらった方がいいという判断にどうしてもなってしまうんですね。

 ―― こういったことが日本での定着を妨げているということですね。

 山田 はい。それからまだまだ日本企業では、外国人=安く雇用できるというイメージでいる経営者の方も多いです。

どちらかというと差別的な考え方があるのが現状で、日本での外国人雇用はまだまだ難しいところがあります。そのためにわれわれのような会社の存在意義があると思っています。

 ―― 今後はどういった世界をつくっていきたいですか。

 山田 会社としては、ブリッジという新しいプロジェクトを弊社が「登録支援機関」として、アジア各国からの優れた特定技能取得者の採用支援と、現地での教育から入国支援までをワンストップでサポートしています。入国時に必要な公的機関の手続きに始まり、日本での住居探しから家具家電の手配まで行い、来日後すぐに安心して生活を始めることを可能としています。

日本とミャンマーという枠だけではなく、アジア全体での人・もの・サービスの流動化によって発展する世の中をつくっていきたい。われわれがしっかりと人材の教育をして、日本で働ける人を送るというのが責任であると考えています。

 ―― 一方で今アジア各国の方が日本より経済成長率は高いと言われていて、日本に行くより自国で働いた方が経済的にもいいという考え方になってきているという声も聞こえてきます。

 山田 ミャンマーにおいてはそういったことになるのはもう少し先かなと思います。わたしもベトナム、タイによく行っていて、都市の一部の方はそういう考え方になっているところもありますが、地方に目を向けるとまだまだ昔と変わらないような生活をしている子たちもたくさんいます。

タイあたりは逆に日本よりも発展しているんじゃないかという印象を受けるぐらいです。しかし実際に現地で働いている人の給与を聞くと、まだまだ先進国には追いついていない状況といえます。

 ―― 日本で働く上で言語の問題は結構難しい問題だと思うのですが、日本語の習得の面での現状はどうですか。

 山田 そうですね。ミャンマー語は比較的文法が日本語と同じで、直感的に単語を繋げていけば割と話せるので、習熟度で言えば高いです。ですから、既に日本語で面接を受けられない子はそもそも弊社の面接自体を受けられませんし、日本に来てもコミュニケーションが取れないという状態の子は入国させていません。日本に来て日本人となんら遜色なく、仕事を丁寧に教えてあげたら理解できるという子を選抜しています。

 ―― ミャンマーは逆に英語が話せる人材も多いのですか。

 山田 ええ。ミャンマーの若い子はほとんど英語を喋れます。ですから東京の飲食店で働いている子たちは、英語圏の外国人の方が来ても抵抗なく英語で接客できます。

実は彼らは日本語を覚えた時点でトリリンガルになりますから、そこは彼らの強みになると思います。そういった強みを活かしつつ、日本とミャンマー、アジアをつなげていき、アジア全体の課題解決をしていきたいと考えています。