国立天文台、愛媛大学、東京大学(東大)、名古屋大学(名大)の4者は8月30日、すばる望遠鏡によって発見されたクェーサーのペアをアルマ望遠鏡を用いて詳細に観測したところ、同天体は初期宇宙で最も明るい種類の天体「高光度クエーサー」の祖先であり、今後、「ペアクェーサー」それぞれの母銀河が合体することで、高光度クエーサーになることがわかったと共同で発表した。

同成果は、国立天文台 アルマプロジェクトの泉拓磨准教授、愛媛大 宇宙進化研究センターの松岡良樹准教授、東大 カブリ数物連携宇宙研究機構の尾上匡房カブリ天体物理学フェロー、同・ジョン・シルバーマン教授、東大大学院 理学系研究科の河野孝太郎教授、名大 高等研究院/大学院 理学研究科の梅畑豪紀特任助教らの共同研究チームによるもの。詳細は、天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。

これまでの観測から、宇宙誕生から10億年以内の初期宇宙において、太陽の10億倍を超えるような超大質量ブラックホールが多数発見されている。それらの天体では、超大質量ブラックホールに大量の星間物質が落ち込むことで、時には母銀河を上回るほど明るく輝き、それらはクェーサーと呼ばれている。また、クェーサーを有する銀河はしばしば、年に太陽数百~数千個分という爆発的なペースで星を形成していることもある。こうした超大質量ブラックホールの成長や爆発的星形成活動が、何によって引き起こされ、また維持されているのかは詳細は不明。

有力説の1つが、銀河同士の合体とされ、星間物質の豊富な銀河同士が合体することで、ガスが圧縮されて大量の星を作ると共に、中心部に流入した星間物質を使って超大質量ブラックホールの成長も進むという内容である。よって、高光度クェーサーの祖先と期待される合体前段階の銀河・超大質量ブラックホールを詳しく調査することは、初期宇宙の天体形成に関する深い理解を得るために重要だといえる。しかし、そうした祖先の天体の研究は長らく進んでいなかったという。その理由は、それらは合体前であるために明るく輝く高光度クェーサーになっていないため非常に暗いことから、発見が難しいためとのこと。

  • アルマ望遠鏡で観測した宇宙の夜明けの相互作用銀河の様子

    アルマ望遠鏡で観測した宇宙の夜明けの相互作用銀河の様子。星間物質の全体的な分布と運動をよく反映する電離炭素ガスの分布が示されている。2つの銀河が明確に橋渡しされて相互作用していることが見てとれる。図中の2つの十字は、すばる望遠鏡で発見された低光度クエーサーの位置が示されている。(c) T.Izumi et al.(出所:すばる望遠鏡Webサイト)

その問題を克服するため、愛媛大の松岡准教授らの研究チームは以前に、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam」を用いた宇宙の大規模探査データを詳しく解析することにしたという。同望遠鏡の大集光力を発揮したこの探査は、他の望遠鏡による大規模探査に比べて格段に高感度で、暗い天体まで検出することが可能。その結果、宇宙誕生から9億年の「宇宙の夜明け」の時代において、非常に低光度なクェーサー(同じ時代の高光度クェーサーに比べて数10倍~100倍ほど暗い)が2つ隣り合って並んでいる領域が発見された(ペアクェーサーの最遠方記録)。

またとても暗いため、超大質量ブラックホールの成長が本格化する前段階、つまり銀河合体の前段階の天体と期待されたという。しかし、すばる望遠鏡の観測では中心の超大質量ブラックホールの情報しか得られず、それらを宿している銀河同士が本当に合体する運命にあるのか、つまり将来的に高光度クェーサーに成長するのかどうかはわからなかったとのこと。そこで国立天文台の泉准教授らの研究チームは今回、アルマ望遠鏡を用いて、そのペアクェーサーの母銀河たちの観測に取り組むことにしたとする。

観測の結果、星間物質の分布(2つの母銀河とそれらを橋渡しする構造)や運動の様子はすべて、それらの銀河同士が相互作用していることを明確に示していることが確認された。近い将来、これらは間違いなく合体して1つの銀河になることが予想されたという。

  • 今回の観測結果に基づく相互作用銀河のイメージ

    今回の観測結果に基づく相互作用銀河のイメージ。銀河同士の相互作用で、銀河の星形成活動や中心の超大質量ブラックホールの成長が徐々に活性化していく様子を描いている。(c) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), T.Izumi et al.(出所:すばる望遠鏡Webサイト)

さらに、観測データから計算されたそれらの銀河のガスの総質量(太陽質量の約1000億倍)は、中心核が桁違いに明るい高光度クェーサーの母銀河に比べても、同等あるいはそれ以上あることも判明。これだけ大量の物質があれば、合体後の爆発的な星形成活動や超大質量ブラックホールへの燃料補給も容易にまかなえるはずとする。つまり今回の観測により、初期宇宙で最も明るい天体種族である高光度クェーサーやそれを宿す爆発的星形成銀河の祖先の同定に成功したのである。

泉准教授は今回の成果に対し、ようやく見つけた高光度クェーサーの祖先であることから、宇宙の中の貴重な実験室として、さまざまな観測を通じてその性質の理解を深めていきたいとしている。